諦念乱立 -4-

 それは天に向かって真っ直ぐに伸びている。

 この島で人工物を見るのは初めてだ。島民の住居か何かの目印だろうか。あそこに行けば、もしかすると誰かが居るかもしれない。

 僕は塔のふもとに向かって歩を早めた。





 森の空き地を抜け、道を阻む草木を掻き分け、その先に現れた小さな荒れ地に塔は立っていた。

 麓に来てみると際立つのはその巨体だ。大きい、と言うより高い。圧倒されるほどの高さだ。三十階立てのビルくらいはゆうに超えているだろう。

 遠くからでは分からなかったが塔は石でできていた。石塔の幅はおよそ五メートル、円柱状の外壁には一箇所だけ入り口がある。ところどころに赤黒いシミが見える外壁は隙間なくみっちりと積み上げられた石や土でできており、空気が通る隙間もない。それどころか見上げても窓らしきものが見当たらない。建物の中に人が住んでいる気配も無い。不動の静謐さに気味の悪さを覚える。

 塔に向かえば人が居るのではないかという読みは完全に外れてしまった。

 だけど、それではこの島の住民は何処へ行ってしまったんだ。それに、この島の住民は何の目的でこの石塔を作ったんだ。



 森には夜が訪れようとしている。

 外で眠るのはなんだか気が引けたので、僕は塔の中で休ませてもらうことにした。人が一人通れるくらいの小さな入り口をくぐり中へと侵入する。

「誰かいますかー」

 言葉が暗闇に反響する。返ってくるのは僕の声だけだ。

 明かりの無い塔には天井がなかった。真上から外の光が小さな点となって差し込んでいる。中にあるものと言えば、いくつかの木箱と淀んだ空気。そして螺旋状に上へ上へと伸びる石段……。

 石段に尻をつき、歩き疲れて棒のようになってしまった足を伸ばす。着ていた制服はここに来るあいだにすっかり泥で汚れていた。

 だけどそんなことはどうでもいい。

 知らない場所、知らない環境、知らない恐怖。

 この状況を受け入れるだけで精一杯だ。今はとにかく休みたい。



 冷たい壁に身を寄せると、眠気がそっと僕の目を覆った。

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