諦念乱立 -3-
「……分かりません。気がついたら、ここに来てたんです」
「分からないだと?」
彼は目を細めて怪訝そうにこちらを見つめる。
「僕はただ見つけなきゃいけないものがあるだけで……今はそれだけしか」
答えることができない。
本当に何も知らないのだから。
「嘘は言っていないようだが……まあいい。邪魔したな」
砂に刺していた矛を引き抜き背負うと、彼は森に向かって歩き出そうとする。
「教えてくれませんか」
「……何をだ」
「ここは、どこなんですか。それにあなたは……」
「幾つも訊くな。俺は、ハク。そして此処は、
「うれいの……しま」
それだけを言い残して、少年は真っ直ぐ森の中へ消えていった。
僕は再び歩き出す。
うれいとは悩むとか心配するとかの意味の憂いだろうか?
訊きたいことはまだあったが、冷たい瞳をした彼を何故だか呼び止めることができなかった。
彼はどこから来たのだろう。
僕が浜辺を歩いていたときは誰も居なかった。
開けた場所だ。見間違えるはずがない。
それなのに、どうやって――――
矛を持った少年――ハクと言ったか――のあとを追うように道なき道を進む。
森の中はいっそう薄暗かった。
折れ曲がって生える木々が空からの光をほとんど遮断しているのだ。
それにしても、やはりこの島は異質だ。
森には生物の気配がある。必ず昆虫や動物がいる。
だがここには何も居ない。
まるで造花の中を歩いているように、何も居ない。
周囲の光景もほとんど変わらない。
右に進んだのか、左に進んだのか。
島の奥に進んでいるのは間違いないが、僕はどこへ向かえばいいのだろう。
そもそもユウの精神ってどうやって見つければいい。見て分かるものなのか。
なんでそんな基本的なことをあの男に聞かなかったんだろう。
水に濡れた服も乾き始めている。
結局あれから誰にも会うことなく、僕は一人で前に進み続けた。
すると、森の中で木々がほとんど生えていない小さな空き地に出た。
ずいぶんと久しぶりに見上げる空。
相変わらず曇ってはいるが、まるで洞窟を抜けたあとのように空を広大に感じる。
しかし僕の目を奪ったのは空と森の境界に見える一つの黒い物体だった。
――あれは……なんだ?
曇天の下、突如として現れたのは、天に向かって
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます