第2話  日常 1

 新学期開始から2週間ほどたった日の午後

 五時間目

 昼休みが終わって一発目の授業。

 科目は理科。

 担当は安達あだち先生。

 僕──林田はやしだ しゅう──の2年の時の担任で、現在柔道部の顧問。40台後半で優しそうな見た目で比較的穏和な先生だ。あだ名はタコ焼き──由来は肌が浅黒く、髪の毛が物凄く短い角刈りで青のりみたいに見える事から誰かが付けた事から広まった。うちらの学年の生徒全体からの評価がいい先生だ。

 なぜなら基本的に怒らないからだ。怒鳴らないではなく怒らないである。注意ですらやんわりとしかしない。

 この先生、血圧が高過ぎて怒るとマジで血管が破裂する危険があるので自ら自重している。(この先生が怒るときはおのが命を守ろうとする理性を差し置いて感情が高ぶった時だけだ。)そのため多くの生徒から舐められている。


なので時々、今のような悲惨な状況になる。


 今の状況を説明すると、

クラスの3分の1が机に突っ伏して、もう3分の1は座った体勢のまま下向いて動かず、残りの3分の1はノートに絵を描いたり、こそこそパンを食べたり、筋トレしたりしていて、真面目に授業を受けているのは3~4人程しかおらず、私立の進学校(自称)だとは思えない醜態だ。

 これでテストが物凄く悪ければ少しは先生もスカッとするだろうが、しっかり点数をとっていて逆にストレスがたまる一方で、本気で死なないか心配だ。



 授業の終了時間が迫ってくると寝ている連中がまるでアラームをセットしていたようにいっせいに起き出し、何やらごそごそしていたやからたちは片付けだす。


 筋トレボーイズは先生の目を盗んで続行中。結構な速さで腕立て伏せやら腹筋やら寝転んでやる系のをしている。良くできよな~二重の意味で。

 そろそろ止めないと流石のタコ焼きでも注意ぐらいするぞ?


 授業中に筋トレとか何考えてんだ!?と思うかも知れないがこのクラスではさほど珍しい事ではない。かといって全く気にならない訳でわない。むしろめっちゃ気になる。座っている席の近くでやっているから尚更だ。


 「おい、そこ何しとるんや~」


 気の抜けるようなホワホワした声色で、タコ焼きがやっと注意の声をあげた。

 黒板の方を向いて腹筋をしていた最中だったので、ちょうど目があっている。チラッと横目で主犯の顔をみると、半笑いだった。

 あっ、これなめてる。 絶対なめてる! なめきってる!!


 面白がってクスクス笑ってた奴らはついに来たかと声が大きくなる。


 「おい!何笑とんのや!」


 怒号に若干のハリとキレが出てきていたがそんなもん誤差みたいなもんで、笑い声が収まる様子が全くない。


  「おい、ほんでお前は何しとったんや?菊川きくかわ?」


 ほんの少しだけドスの効いた声で主犯の彼、菊川を問い詰める。


 身長は小さめで小柄な体つき。でもしっかりと筋肉がついており、腹筋もわれている。クラスでもそういうキャラで知られている。どちらかというとパワータイプではなくスピードタイプというと風貌だ。厚底こ黒ぶち眼鏡をかけていて、そこだけ見れば普通の生徒だが、その奥の退屈そうな目と鍛えた肉体を見ればそうではないと分かるはずだ。

 そんな 典型的なヤンチャボーイが口を開く


 「えっ、いや、ただ消しゴム拾ってただけですよ。」


 絶対にそうじゃなかっただろう。

 目があったときおもいっきり座ってたやん

 そんな言い訳通じる訳がない


「そうか、ほな早よ座り。もうチャイムしな」


 だがこの先生なら通じる。というより、話をうやむやにして強制的に終わらせている。つまり、後からのお説教などがほとんどない。これはやった方にとっては物凄く都合がいいことだ。だから、またやる。安達先生のストレスが溜まる。死に一歩近づく。



 こうして我らが3年A組はある意味楽しい昼下がりを過ごすのであった。

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男子校生の日々 銅キノコ @doukinoko

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