第57話 映画音楽の裏側

 私の好きな映画に『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズがあります。みなさんおなじみトールキンの『指輪物語』です。

 この映画はとても好きで、DVD揃えて何度も何度も繰り返し見ました。


 中でも3作目『王の帰還』のワンシーンがメチャクチャ好きなんですよ。

 ホビット4人組の中の一番チョロチョロしてるいたずら坊主のピピンというのがいます。こいつがまぁ、要らんことばかりやってくれるんですが、そのお陰で物語が進んでいくという重要な役どころなんですね。


※ここからネタバレ注意


 例に漏れず、要らんことをするわけですよ。それによっていつも一緒のメリー(こいつもホビット)と一緒に絶体絶命の危機に追い込まれるのです。

 そこに人間族のボロミアが助けに来てくれて、彼らは事なきを得るわけですが、そのせいでボロミアは死んじゃうんですね。

 その後パーティはボロミアの故郷へ立ち寄るんですが、そこは長いこと王が不在で執政であるボロミアのパパが一人で頑張ってるわけです。そこへ「ごめーん、ボロミア、僕らを守って死んじゃった」って行くわけです。申し訳ないことこの上ない。

 その責任を感じてピピン君はボロミアパパに仕えることにしてしまうのです。


 さあ、問題はその次だ。

 ボロミアパパはボロミアの事がとても大切だったんですね、長男ですからね。次の執政はボロミアに、と思ってたのに死んじゃった訳だ。

 ボロミアには弟がいるんだけど、この弟、パパに冷遇されてる。パパは「兄じゃなくて弟が死ねば良かったのに」とかヘーキで言っちゃう。

 で、本当に弟君を勝ち目のない前線に送っちゃうんです! 酷い、酷すぎる。


 ここでパパが食事をするシーンがあるんですね。みんなひもじい暮らしをしている中、お城の中ではパパが豪華な食事をしている、しかも仏頂面で。その頃、弟君は遠い地で負け戦を強いられている。

 パパがピピンに「お前の故郷の歌を歌え」という。映像はパパのゴージャスな食事風景と、弟の悲惨な闘いの風景が少しずつ重なるように流れていく。この格差たるや!

 そこに音声。

 食事中のナイフやフォークの音でもなく、戦闘の剣が当たる音や血しぶきの舞う音でもなく、ピピンが静かに歌う物悲しい故郷の歌だけが流れる。


 うわあぁぁぁぁぁぁあああ、泣ける! ・゚・(ノД`)・゚・。ウエエェェン


 弟君の「絶望的な中にもそれでも父に愛されたい気持ち」、父の「王不在のストレスと大切な長男を失った虚無感」、ピピンの「ボロミアも弟も父もそして自分も、誰も救われない事への悲しみ」がいっぺんに押し寄せてくるシーンに、この歌!


 このピピン役の俳優さん、ビリー・ボイドさんなんですけど、この方、このシーンの収録前日に監督に呼ばれて「明日このシーン撮るんだけど、なんかテキトーに歌考えて来てくれる?」って言われてます。おい、監督ピーター

 翌日彼は「こんな感じかなーってのを考えて来た」つって、いきなり歌ったわけですよ。それがメチャクチャすげえ! 助監督号泣!


 これを聞いた音楽監督(オケがずっとそこに待機していて、音楽監督が指揮振ってるんです)が「ちょっと待ってー!」ってその場でその歌をオケ譜に起こすという荒業をやってのけるほどいい歌だったんですね。いやその音楽監督もはちゃめちゃ有能ですけど。


 結局、例の画像の中で彼が歌っているところへ少しずつ静かにオケが入って来て、最後はオケに全部引き渡すような感じになってたと思いますが、それを再現したくてその場でオケ譜を書いたんでしょうね。プロ集団ってマジすごい。

 いやはや、映画俳優も演技だけじゃないんですね。驚きました。


 こういう裏側がたくさん見られるので、メイキングって楽しいんですよね~。

 また何か思い出したら「映画音楽の裏側(2)」で紹介しようと思います。



 だってクラシックファンなんだもん!

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