お昼

 今日も、妻の弁当はうまい。


 会社の昼休み、真実と美奈の父親は思う。

 

 妻はよく頑張っている。

 自分もよく頑張っている。

 仕事への情熱はだいぶ前に失ったが、娘たちの成長が支えになって、情熱喪失後は、若い頃とは別のモチベーションで頑張ってきている。

 

 いつから、こんなに辛くなってしまったのだろうと考える。

 


 娘たちが小さい頃は、大変だったが楽しかった。

 真実と美奈はよくケンカもしたが、基本は、子どもらしい二人の娘の言動に笑いが絶えなかった。

 娘たちが寝静まった後の夫婦の時間も、娘たちの日中の様子を妻から聞き、可愛らしいエピソードに微笑み、トラブルが起きればどう助けようか、一緒に悩んだものだ。

 

 もっと小さい頃、赤ん坊の頃は、慣れない赤ん坊の世話を妻一人に背負わさせてはいけないと頑張ったものだ。

 初めての子どもだった真実の世話では、赤ん坊の生活サイクルの速さに驚いた。


 赤ん坊は三、四時間ほどで覚醒、食事、排泄、睡眠を繰り返す。

 つまり大人の一日の中で、約一週間を過ごすのだ。

 あの頃は本当に大変だった。


 真実と二才違いで美奈を授かった時は、別の大変さがあった。

 赤ん坊の世話は思い出しながらこなせたが、幼い真実も赤ん坊返りしたりして、妻と二人で頭を抱え、参ってしまいそうになる日もあった。


 娘たちのことを考えるたびに、こうやって子育ての記憶が次々と蘇る。

 

 そうしていつも、答えは出ない。

 

 今をどうすべきか、これからどうなるかを考えていたのに、頭に浮かぶ娘たちはどんどん幼くなっていく。

 

 

 ある意味では健全ともいえる、と真実と美奈の父親は考え直す。

 ちゃんと反抗している、といえる。

 もう少しでやってくる自立の時に向けて、着実に成長している。

 逆にこの年頃になっても親にベッタリだったら、それはそれで悩んでいただろう。

 

 でも、で、考えはスタート地点に戻る。


 辛い。

 苦しい。

 どうしたらいいのか、分からない。


 今日も悩みがループする。

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