折口良乃 10周年を振り返って

@origuchi-yoshino

10周年を振り返って


 皆様こんにちは。作家の折口良乃です。

 なんと2019年5月10日をもちまして、作家生活10周年となりました。

 10周年だからといって特になにか変わるわけでもなく、これからも文章を書き続けていくのだと思うのですが、それはそれとして一つの節目としてなにかしたいなーと思い。

 10年を振り返っていこうかと思います。

 とはいえ1年ごとの記録をつけているわけでもないので……ここは作家らしく、今まで書いてきた作品の振り返りをして、10年の記録として思い返そうかと思います。

 よろしければしばし、作家・折口良乃のちょっとした歴史にお付き合いいだければと思います。


 

 1.九罰の悪魔召喚術(全4巻)

 はい。

 デビュー作です。

 恥ずかしいですね。

 いやもちろん頑張って書いたことに疑いはないのですが、それはそれとして思い返せば未熟さが際立つ部分がありますよ。だってしょうがないじゃないか、本なんて初めて出したんだから!

 いや言い訳ですね。

 でもどんな作家だってきっと、自分の10年前の文章を平静で見ることはできないと思うのです。

 だって10年もあれば色々と変わるのだから。

 誰に売るか、どう売るかを意識しなかったとか。

 厨二感を前面に出しすぎたとか。

 そういう反省点ではなく。

 昔の私って未熟であったなあ……ということなのです。

 ですがきっとそれは、自分が成長した証なのでしょう。

 その成長がどういう形であれ、この時点からは前に進んだ証なのだと思います。



 2.死想図書館のリヴル・ブランシェ(全5巻)

 次回作です。

 現状、一番が重版がかかっているシリーズであります。今であれば最低でもコミカライズくらいはしている売り上げだと思うのですが、そんなこともなかったので本当にデビュー時期がラノベバブルだったのだなあと思っております。

 「奴隷」「メイド」「不思議な図書館」「ロリBBA」などなど性癖は思うさま詰め込みました。

 もしかするとこの性癖を上手いこと料理して、パッケージングしていければさらなる上を目指せたのかも……と思うのですが、反省点の一つとしましてこのころの私は「奇をてらう」ことにばかり執心していたきらいがあります。それがきっと今一つ上の段階にいけなかった理由なのかもしれません。

 反省点に関しての詳細は後述。

 それはそれとして未だにリヴルというキャラは私の中で思い入れ深いですし、円満完結という点でも満足の大きいシリーズであります。



 3.デュアル・イレイザー(全3巻)

 うん? なにか飛んだかな。まあ良い。

 ロボットものです。

 あくまで私はロボットものを描いたつもりでした。

 正直に申しまして折口は決して「ロボットもの」「SF」というジャンルに明るいわけではありません。

 交代したばかりの担当編集の「ロボットものやってみませんか?」という提案に乗ったのもありますが、「ロボットものでもなんでも書いてやらあ! それがプロだろ!」という考えの元に書いた作品でありました。

 今にしてみれば笑ってしまいますね。

 業界におけるあらゆる作家さんが自分の得意分野で勝負しているというのに、私は自分でも明るくないと感じてしまうジャンルに飛び込んでしまったのですから。

 このころの私は、自分のスタイルというものを模索していました。

 自分の得意なこと、そして人に評価してもらえるもの。二つの狭間で常に悩んでいました。

 今でももちろん悩んではいるのですが。

 得意スタイルというものを持たない作家が、編集に言われたとはいえ明るくないジャンルを描けばどうなるか……3巻で終わったのもやむなしでしょうか。

 せめてもっと勉強しておけばよかったかもしれません。今更言っても後の祭りですが。



 ここまでの作品、もちろん精魂込めてかいたものではあるのですが、やはりムラが大きいな、という気がしますね。

 この時代、私を縛っていた思い込み――呪縛が二点あります。

 一つは「プロなのだからどんなジャンルであろうと書くべき、書けるべき」

 もう一つは「奇をてらう、オンリーワンのものを書いてこそ作家」

 どちらも勘違いでした。

 今ならはっきり言えます。

 プロであるからこそ、苦手などと感じるもので勝負するべきではない。

 そして奇を衒う=オンリーワンではない。

 特に後者の思い込みは深刻でして、「他人が書けないことを書きたい」という気持ちがずっと私の中にありました。

 その気持ちそのものは悪いことではないですし、他人が書けないものこそ書く価値があるのは事実なのですが、それを「小手先の文章表現」「見慣れない文体」のみに頼ってしまったのが私の反省点であります。

 私にしか書けないものは、もっと別のところにあったのでした。



 4.シスターサキュバスは懺悔しない(全3巻)

 はいモン娘ものです。

 メインヒロインこそサキュバスですが、二人目のヒロインがデュラハンだったり、かなり性癖が出ています。

 3巻で打ち切りっぽくなってしまったとはいえ、読者さんからの評価もかなり手ごたえのあるものでした。

 私がそもそもモン娘ものとして書いていなかった(ファンタジー+ラブコメくらいの気持ち)がゆえに、ウリをどう作っていけばいいかわからなかったというのが反省点ですね。

 とはいえ私の中で人外娘を書き続けたい、という欲望が芽生えたのは、間違いなくこの作品であります。

 しかしこの後、しばらく電撃文庫からは距離を置くことになってしまいます。理由は色々とあるのですが……やはりここから迷走が目立ってしまう感は否めません。

 次シリーズから、MW文庫へと走っていきます。



 5.汐汲坂のカフェ・ルナール(全1巻)

 初MW作品です(折口良乃名義でなければ、これが初ではないのですがここでは割愛します)

 コメントに困りますね。

 何度も言っている、私自身のスタイルの模索。その極地の作品のような気がします。

 面白い面白くない、評価してくださる方がいる。そうしたこととはまた別に、私の中での反省点が多い作品であります。

 編集とうまくいっていない時代であることも、この作品への自己評価に拍車をかけています。

 すでにこの辺りから、人外ヒロインを書きたくて仕方がない私が居ました(ヒロインの設定にちょっとその辺り

の名残がありますね)。

 しかしこの作品をきっかけに、ずっと私の作品を追ってくださる方がいることも存じております。作品自己評価と、読者の感想は必ずしも一致しないし、それが救いであるとも感じています。



 6.探偵事務所ANSWER(全2巻)

 イケメン書きました。

 うん。

 いや無理でしょ!?

 いくらMW文庫が女性が多いからって、安易に男書けばいいってものではないでしょ! その辺をさあ、根本的にはき違えているのがこのころの私ですよ!

 カワイイ女の子が好きなオタク文化にどっぷり浸かってきた私に、イケメン書こうなんてハードルが高かったのかもしれません。

 それはそれとして、都市伝説伝奇ものとしてはなかなか書けたのではないかという気持ちでいます。私、もともと都市伝説好きですからね。

 はい。

 そうです。当初はモン娘ものでした。

 口裂け女、隙間女、八尺様、かんかんだらなどなど、異形都市伝説系女の子に好かれるハーレムものを書きたかったのです。

 どうしてこうなった?

 どうしてこうなった!?



 7.百殺目の恋(全1巻)

 すみません。言いたいことはいろいろあるのですが、ありすぎて終わるのでノーコメントで。

 一つだけ小ネタを。

 今「三角の距離は限りないゼロ」を書いている岬鷺宮先生が、当時この作品を随分褒めてました。

 褒めまくったあげく「百殺目の恋の感情わかりすぎる! つまりアレ書いたの僕だと思うんです!」と言っておりましたが。

 書いたのは私ですよ。岬先生?



 はい。

 この辺りの作品は迷走していますね。

 しかし一つだけ言えることがあります。

 ずっと私は、シスターサキュバスで感じた手ごたえを逃したくなかったのです。

 人外娘……もっと言うならば、モン娘を書きたい自分がいました。

 モン娘は売れないと言われてしまった……でも、でも!

 きっと編集が言うよりも、市場があるはず。

 そしてなにより自分が書きたい。そう思っていたのです。そして。



 8.モンスター娘のお医者さん(既刊5巻~)

 はい。

 書きたかったモン娘を書けました。

 コミカライズしました。本当にありがとうございます。

 Zトン先生、鉄巻とーます先生といった、モン娘に関する実績のある方々とお仕事もできた、本当にありがたいシリーズだと感じております。

 オカヤド先生、健康クロス先生、鮭夫先生といった大好きなクリエイター様から、帯コメントなどという贅沢なものもいただきました。

 読者さんからの声援も、これまでのシリーズとは比がないほどにいただいております。

 そしてなにより次巻で、私のシリーズ巻数を更新します。

 書きたいことをこれでもかと詰め込み、パッケージングもうまくいった、売り上げもそこそこ……と文句などつけようのないシリーズとなっております。

 私一人の力ではなく、いろんな方の助力あってこそです。

 それでもこんな幸せなシリーズを今書けていることが、私の10年の集大成なのではないか……とまで思える次第でございます。

 これからもモン医者をどうぞよろしくお願いいたします。



 ざっと振り返りましたが――いかがでしたでしょうか。

 紆余曲折ありましたし、決して順調な道ではありませんでした。いろいろな方々に迷惑をおかけしたこともあるかと思います。

 特に家族には、うん、ええ、まあはい。

 しかし今では10周年に相応しいと胸を張って言えるシリーズを書けていることは、10年は無駄ではなかった……回り道も悩みも、ここにたどり着くには必要だったな、と感じている次第です。

 作家の道は十人十色。

 一つとして同じものはありません。

 私の道がこれだったというだけのことであり、同業者さんが同じ時間を費やせば同じ結果になる、というものでもありません。

 ただ、私にとっては必要な10年でした――そう、モン娘という一つの答えにたどり着くための。



 来月には、久方ぶりの電撃文庫から『モンスター娘ハンター ~すべてのモン娘は俺の嫁!~』を発売いたします。イラストはW18さん。

 この時点でパッケージングにはそこそこの自信がございます。

 電撃での担当編集も変わり、「この人となら」と感じられる人とお仕事させていただいております。

 10年前にデビューした電撃文庫で、もう一度勝負させていただける。それだけで、やはりなにか運命的なものを感じます。



 最後になりましたが、ここまでやってこられたのはすべて読者の皆様のおかげです。

 何度も作家をやめようと思うこともありました。歯を食いしばってまたやろうと思えたのは、いろんな理由がありますが――最後の一押しは読者さんの声があるから、だったと思います。

 まだまだ未熟者でございますが、これからもどうぞ、折口良乃をよろしくお願いいたします。



 以上、折口良乃、10年の節目についてのご挨拶でした。

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