第2話 ルウと楓のどきどき同衾
「死んでた…ってどういうことですか!?」
リリーの突拍子もない言葉に若草は驚いて声を荒げた。
真面目な時のリリーは口調も普段の少しお道化た調子から打って変わって人の心に浸み込むような凛としたものになる。
「言葉の通りです。もう少し…いえ、早くて一年後には食い殺されていた可能性だってあり得ました」
「……それって私が占えなかったことにも関係してるんですか?」
時雨は先天的な体質で人の事を見通す力があった。それは『占見術』と呼ばれていて、昔から『魔力の動きをとても敏感に感じ取れる人』に備わっていた。
魔力とは物や動き、加えて人の感情までを情報として載せている。つまり、人が『考えている事』を情報として魔力に載せて体外へと放出し、その魔力の情報をもとに『魔法』として発現されるのである。
そして、時雨はその情報を人よりも敏感に読み取ることができ、その情報をもとに対象の性格だけでなく『過去』や『未来』といったものまでわかってしまう。そして、その占いは『滅多に外れることは無い』のである。
ゆえに時雨が楓について占うことができなかったのはかなりの異常事態でもあるのだ。
「関係はあるけど答えではないかな」
「…はあ」
「みんな魔法使いに一番必要なものって知ってる?」
「強さだろ」
「いや、記憶力じゃないですか?術式覚えるのも大変ですし」
「柔軟性、ですか?」
リリーの問いに答える三人にリリーは口の前で小さく指でペケを作る。
「ううん、確かに強さも記憶力も柔軟性も大事だよ?どれが欠けてもいけない大切なものです。だけど正解は『想像力』です。」
「魔法を行うにも想像力が必要で、言ってしまえば想像力が豊かであればあるほどその魔法はより素晴らしいものへと変わるのです!…そしてそれは良いことだけではなく、使い方によっては多くの人を悲しませてしまう事にもなりかね無いのです」
「つまりは高威力の爆弾抱えてる様なものなんすね…あいつ」
「はい、思想魔法をあそこまで使いこなしてるとは想像してませんでしたけどね。うちの旅館にたどり着いたのが偶然とは言え何とか匿えて一安心って感じですよ」
「やけに楓さんに肩入れしてるんですね?」
悠がリリーに尋ねるとまたいつもの様にお道化て答えた。
「腐っても元天使ですからね!世界の平和を守るのが仕事ですから!」
「なんか、やっぱりリリーさんはリリーさんっすよね。優しさにあふれてますし」
「んん?おだてたってなにも出ないぞぉ?」
「じゃあ、なんとなく楓さんとルウちゃんの事がわかったので僕はそろそろ寝ますね~。結構眠くなってきたので」
話の折り目を見て悠が欠伸をしながら腰を上げたので若草と時雨もそれに続こうとするのをリリーは呼び止めた。
「あっ言い忘れてた!さっきの事はくれぐれも楓くんには秘密ね?思いつめちゃうかもだから」
「わかってますよ。それに、そんなこと言えないですし」
若草が笑顔で答えると他の二人も笑顔でうなづいた。
そして三人がおのおのの部屋に帰っていくとリリーは一人残った居間でお茶をすする。
(楓くんに構うのは別の理由があるからですよ。まぁ当の本人は覚えてるかも危ういですけどね)
リリーはそれからしばらく昔の思い出にふけるのだった。
翌朝。
旅館の一日の始まりは早い。日が昇りかけるとき、目覚ましがけたたましく鳴り響き楓は重い瞼をこじ開ける。
「まだこんな時間じゃんか…に、どねしたい…」
珍しくルウも起きていないので本格的に二度寝しそうになった時ふすまが勢いよく開かれた。
「おーい!あっさだよ~~♪早く起きないと朝ごはん抜きにしちゃうよ~?」
「ぅう…リリーさんですか?」
「正解です!みんなの天使リリーさんがやってきたよ!」
「早くないですかー?まだ眠いですよぉ」
抱き枕代わりにしていたルウから手を離すと布団から目だけ出してリリーに抗議の眼差しを向ける。
「そ、そそそんなかわいらしい目つきで見たって寝かしませんよ!旅館は朝が命なんだから!」
「…うう。わかりました、今起きますから少し離れて貰っていいですか?」
寝ている楓にのしかかって耳元まで近づいていたので、向き合うとお互いの吐息が頬に触れそうになる。
「…何ならこのままキスしちゃいますか?」
「うええっ!?」
にやりと笑ったリリーは悪戯っぽく囁いた。しかしそれを阻止したのは楓ではなく横で寝ていたルウだった。
「いくら天使様だからって手加減しませんよ!楓も楓です!何鼻の下伸ばしてるんですか!」
「伸ばしてないわ!!」
「私という美少女がいるのに他の女の人に手を出すなんて、神が許しても私が許しませんよ!」
「自分で美少女言うか…」
「むむぅ…こうなりゃ実力行使です!」
ルウは楓の顔に顔を近づけ、頬にチュッと小気味よい音を鳴らした。
「な、なななななな!?」
「マーキングですから。次は口にしますからね!」
間近でキスシーンを見せられたリリーは身を起こすとくすくすと笑いを漏らす。
「ほんと仲良いんですね~、じゃあ私は戻りますね!昨日渡した箱の中に制服も入ってるので着替えたら居間に来てくださいね」
「あっ、はい!わかりました…」
またも誤解になりそうな状況を見られて楓は少し頭を抱えるのだった。ルウが何のために自分との関係の近さをアピールしたがるのか…楓には理解することが出来なかった。
「ルウ、何かあったのか?」
「はい?」
箱に自分の制服も入っているのを発見し目を輝かせているルウは小首をかしげる。
「いや、だからさ。さっきとかいきなり、そのきっキスとかしてきたしさ」
「そんなの簡単ですよ。楓が他の女の人に取られるのが嫌だからです。わたしは所詮魔力で形成された『モノ』ですけど、『ルウ』と言う人格はあるんです!だ、だから…」
「だから?」
ルウは頬を紅く染め、折りたたまれた制服で顔を隠して目だけを覗かせて答える。
「わたしの一番大切な人を取られたくないんです!!」
「っ!?……ルウ」
「んもう!朝っぱらから何言わせるんですか恥ずかしい!!こういうのはもっとこう…雰囲気とかあるでしょう!?」
ルウが耳まで赤く染めてそっぽを向いてしまったので楓は少し考えてから優しく声を掛ける。
「ルウ?ちょっとこっちおいで?」
「…嫌です。今めちゃくちゃ恥ずかしいので無理です」
「仕方ないなぁ」
ルウがその場を動こうとしないので楓の方から近づき、その小さい体を優しく後ろから抱きしめて金色に輝く髪をなでる。
「ちょっ!何ですか!なんなんですか!?」
「俺は未熟者だ。一人じゃ何にも満足にこなせないし身体も弱い…」
「……」
楓がルウの言葉を無視して話し出すので素直に耳を傾ける。
「挙句の果てには自分の中の『ルウ』に甘えてばっかりだった。ルウが姿を見せてくれるようになる前から俺はルウと生きてきたんだよ。だからさ、俺にとって誰よりも大切で…んでもって愛おしい存在であり『人』なんだよ」
楓は過去二度の手術を当時はまだ脳内だけの存在だったルウと共に乗り越えて来た為に、ルウは切り離す事のできない最愛の存在なのだ。
ストレートに思いをぶつけられたルウは楓の腕の中でおとなしくなり、楓の腕をつかむ力も心なしか弱くなったようだった。
「そんなこと言ったって、時雨さん達みたいな美人さんと一緒にいたら気持ちも変わってしまうかもしれないじゃないですかぁ……それに、私とじゃけ、けっこんもできませんし」
「あほか。近くにこんなに可愛い俺には勿体ないくらいの美少女がいるのに今更他の人になびくわけないだろ」
「…あほはそっちです。何恥ずかしいセリフ並べてんですか」
「お前にはこれくらいはっきり言わないと伝わらないだろ?」
しばらくお互いの存在を感じあっていた二人だったが熱くなり過ぎて入り口のふすまが開いている事に気づかなかった。
「…そろそろ終わりました?」
「ひゃい!?」「ぅわあ!?み、深山さん!いつからそこに!?」
ふすまから覗いていたのは来るのがおそい二人を呼びに来た時雨だった。
時雨は熱い楓とルウの会話を聞いて顔を少し赤らめつつ、じとっと視線を楓に投げつける。
「伊吹さんがルウさんに覆いかぶさったところからです」
「その言い方は語弊があるなぁ!!」
「何も間違ってないでしょう。現に今もその状態ですし」
楓はルウから慌てて手を放し、ルウは少し寂しげな表情を覗かせる。
「ご、誤解…してませんよね?」
「誤解なんてしてません。それより朝ごはんが冷めちゃうので早く来てください」
「あ、あぁ、すみません」
時雨は立ち上がるとその場を立ち去ろうとして、何か言い忘れたのか楓たちを振り返る
。
「いくら好きあってても近親相姦は犯罪ですからね?」
「やっぱり誤解してるじゃないですか!!!!!」
「時雨さん!それはさすがに違いますよ!」
「…そうなの?」
「そうだ!言ってやってくれ!」
とんでもない発言にさすがのルウも声を張り上げる。
「私はいわば楓自身なので実際に事を構えたとしても只の『妄想』でしかないのでその法律は適用されませんよ!」
「なるほどね…」
「ツッコむところそこじゃないだろぉ!!それに深山さんも何納得しちゃってんですか!」
「大丈夫、ルウさんを信じて優しく見守っといてあげる」
「だめだこの人話聞いてない!っていうか俺の話も信じてくださいよぉ……」
何故か全く楓の意見で意思を変えようとしない時雨への説得は半日間続いたらしい。
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