第12話 一度目は見逃してやるよお姫様

 冒険者ギルドを後にした俺たちは王城の離れに帰って来ていた。

「足立、帰って来たぜ」

 俺は足立に機関の報告を一応しておいた。

「ああ、お帰り凪滝君。街の様子はどうだった?」

「ああ見た限りでは俺たちが召喚されたことは噂にもなってなかった」

 なんせ冒険者登録の時にわざと住所を王城にしたのに反応が普通過ぎた。もし勇者召喚が噂になっていればもう少し違う反応があったはずだ。

「そうか、なら召喚の事はほとんど知られていないという事だな。ありがとうこれでまた情報が増えたよ」

「力になれたのならよかった。まあ俺は自由に動くからそっちはそっちで頑張ってくれ」

「わかった、また何かあれば教えてくれるとありがたい」

「了解。まあ俺はクラスからも少し浮いてるしあまり皆には近づかないよ」

 足立と話を終えた俺は姫姉とメルさんの元に向かった。

「話は終わったの?」

「ああ終わったよ」

 姫姉に足立に聞かれたことをかいつまんで話し、それが終わるとメルさんが話しかけてきた。

「それではお二人とも夕食の時間まで御寛ぎ下さい。夕食になりましたらお呼びいたします」

 メルさんはそう言うと他のメイドさんたちのところに行ってしまった。

「さて姫姉これからどうする?」

「う~ん、することもないし軽く組み手でもする?」

「そうだな、今日はまだ動き足りないし軽く運動でもしようか」

 俺たちは離れの庭に出て軽く準備運動をしてから組み手を行っていた。

「ユーマ様、ヒメナ様、夕食の準備が整いました。こちらのタオルで汗をお拭きください」

 いつの間にか結構な時間が経っていたみたいでメルさんが夕食の時間を知らせに来たみたいだ。

「ああ、ありがとうメルさん。もうそんなに時間が過ぎてたんだね」

「ありがとうございますメルさん」

 俺と姫姉はメルさんからタオルを受け取り汗を拭いた。

「ええあれから二時間は経っていますよ」

 それから俺たちは夕食を食べて、湯浴みをし、床についた。


 翌朝スマホの目覚ましによって俺は目を覚ました。

 窓から入る日の光を浴びて軽く伸びをしベッドから出るとまたしても姫姉が俺のベッドで寝ていた。

「また寝ぼけて他人のベッドで寝てやがる。いつまでたっても直しやがらねえ」

 そんなことを思いながら俺は着替えを済ませて姫姉を起こした。

「朝だぞ姫姉、起きろよ。起きないと胸揉むぞ」

 姫姉の耳元でそう囁くと、姫姉は飛び起きた。

「この変態っ! 痴漢っ! 色情魔っ!」

 そう叫びながら姫姉が思いっきり殴りかかって来るが、俺はそれを難なく躱して距離を取った。

「俺を変態扱いするならまずは俺の寝てる間にベッドに忍び込むのを止めてからにしろ」

 俺の言葉でやっと自分がまたしても俺のベッドに潜り込んだことに気が付いたらしい。

「お二人とも仲睦まじいのは宜しいのですが少し暴れすぎですよ」

 いつの間にかメルさんが俺たち二人の間に立っていた。

「あれいつの間に入ったんですか?って言うか鍵かけてトラップ仕掛けておいたはずなんですけど」

 一応侵入者対策として不用意に開けたら大きな音が鳴るようにしていたはずなんだが。

「鍵なら簡単に開けられますよ。それに数回ノックしましたし、あの程度の罠なら簡単に解除できますよ」

「メルさん一体何者だよ。明らかにメイドさんの域を超えてるよ」

「私が何者かは昨日明かしたつもりですが」

 ああそういえば、王室騎士団第三隊隊長って言ってたな。

「まあそれは良いですよ。で、何か用事があるんじゃないですか?」

「はい、朝食の準備が整いましたのでお呼びに上がりました」

「あっはい、わかりました。すぐに行くので少し待っていてください」

 俺は着替えを済ませていたので後は姫姉の着替えを待って俺たちは食堂に向かった。

 食堂には昨日とは違いクラスメイトがほとんど座っていた。

 俺たちも席に着き朝食を頂き、皆が食べ終わるころにお姫様がやって来た。

「皆様おはようございます。本日は皆様を城下街に案内したいと思います。案内は一人一人に護衛メイドを付けますのでお好きなところを見て頂いて構いません」

「一つ質問してもいいか?」

「はい、構いませんよ」

「では遠慮なく。城下街の外には行けないのか?」

「城下街の外は魔物がおりますので危険です。それでも出るのであればお止はしませんが。城壁の四方にある門からしか出入りは出来ませんし、身分証が無いと入るのにお金と時間が掛りますよ。なのでオススメは出来ません」

「そうですか。なら身分証はどこに行けば発行して貰えますかね」

「身分証であればふつうは役所で発行して貰えますよ。王城でもお作り出来ますよ」

 あれギルドカードも身分証の代わりになるってギルドで聞いたんだが。

「では皆様の分身分証のカードをお作り致します」

 これは嘘を吐いていることになるのかな、それとも知らないのかな。これは少し突っ込んでみますか。

「一つ良いかなお姫様」

 皆の視線が俺に降り注ぐ。何かおかしいことでもしたかな俺、ちょっと泣きそう。

「俺もう冒険者ギルドで身分証作ったんですけど。なぜ冒険者ギルドの事は言わなかったんですか?」

 大体予想はついているけど一応聞いてみるか。

「そ、それは……」

「どうせ国の発行する身分証とギルドの発行する身分証の違いでしょ」

「な、なぜそのことを」

「昨日冒険者ギルドで聞いてきた」

 冒険者ギルドで発行するギルドカードは殆ど全国共通の身分証で、国が発行する身分証はその国でしか身分を証明できない。そして国外に出るのに国の発行した身分証は発行した役所で色々手続きが必要だが、冒険者はもともと自由が売りなので国境での審査くらいで国外に行ける。

「た、確かに冒険者ギルドでも身分証は作れますが、王城で作ったほうが国の色々なサービスを受けれます。それに国が発行した身分証と冒険者ギルドの発行した身分証は両方持っていても良いので」

「ならなぜ最初にそう言わなかった?」

「冒険者は荒くれ者が多いためあまりお勧めできないからです」

 まあホントのところは国外に行かれない様にするためだろうけど。

「おおそこまで俺たちの身を案じて下さっていたのですか。これはとんだご無礼を」

 ちょっとオーバーな気がするがこの位で許してやろう。

「わかって頂けて何よりです。では皆様の身分証をお作りしてきます」

 お姫様はそう言うと足早に食堂から出て行った。

「ねえ優君、なんであんなこと言ったの?」

「ああ、あれはお姫様に釘を刺しておいたのさ。誤魔化した情報だと俺は気付いているぞってね」

 今回は見逃してやるが次は無いと思っとけよお姫様。

「そうなんだ。優君の事だからてっきりお姫様が嘘を吐いたってことで契約の不履行として断罪するかと思ったよ」

「俺はそこまで鬼じゃないよ。誰にでもうっかりはあるものだし、一回目くらいは見逃してあげるよ」

 まああの場でそんなことをしたら後々面倒ごとが増えるし、それにまだこの国から出る手段も用意できてないしな。

「さて姫姉今日はこれから冒険者ギルドに行って依頼を受けてみようと思うんだけどどうかな?」

 知らなくちゃいけないこともまだまだ沢山あるしそのためにもギルドランクも上げておきたいしな。

「良いよ、じゃあ今日は外に出るんだね」

「そうだね、確か常設の依頼で外に出るのがあったはずだからそれを受けよう」

 昨日見たときに常設のところに薬草採取とゴブリン討伐があったはず。

「じゃあお姫様が戻ってくる前に行きますか」

「あれ何で? 身分証貰わなくていいの?」

「俺たちはもう身分証を持っているしどうせ夜には帰って来るからいいんだよ」

 どうせ国発行の身分証は使う気無いし。

「そうだね、じゃあギルドに行こっか」

 こうして俺たちはまずギルドに向かうのだった。



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