第4話 契約書の内容って殆ど読まない

 お姫様に連れられて王城の長い廊下を数分歩き俺たちはおおよそ会議室とは思えないほど広い部屋へと案内された。

「勇者の皆さま、会議室に着きました。どうぞお好きな席にお座りください」

 俺たちはお姫様に促されるまま皆固まって座った。

 お姫様は俺たちが座った向かい側に着いてきた数名の人と一緒に座った。

「皆さま席にお着きになられたでしょうか。それでは勇者の皆さまのこれからについてお話し致したいと思います」

 お姫様の問いにクラスを代表して足立が答える。

「一つ、お姫様に質問がある。俺たちは元の世界に帰れるんですか?」

「そ、それは……今はまだ……で、ですが必ず見つけて見せます。この命に代えても必ず」

 今のところはお姫様は嘘を吐いているようには見えないがあの豚王の娘だし何をしてくるか分かったもんじゃないな。

「やはり、帰る方法は無いんですか。まあ誘拐して奴隷にするつもりだったみたいですし、帰す方法など必要ないんでしょうけど。しかしそうなると僕らは無一文でしかも常識しらず。それどころか国王に歯向かった大罪人としてこの国から理不尽に追われることになるのかな」

 さてとこっちの世界の人間は信用ならないしこれからどうやって生きていこうかな。

「ま、待って下さい。私たちは勇者さま方をこの国から追放するなどそんな事は絶対に致しません。帰還方法出来うる限り早急に見つけます。約束いたします。ですのでどうか今回の事はお許しください」

「ははは、滑稽ですね。出来もしないことを約束するだなんて」

「なぜそんなことが言えるのですか。そんなに私の言葉が信用なりませんか」

「お姫様も無茶苦茶なことを仰りますね。何も知らない初めて会う、しかも俺たちを飼い殺しにしようとするような人と一緒にいる人を誰が信用しますか。信用を得たいのならば信用にたる行動をとってもらいたいですね」

 うわぁ、足立のやつもの凄い正論でお姫様を言葉責めにしてるな。

「で、ではどのようにすれば私たちを信用して頂けますか」

「それを僕たちに聞く時点でもう間違ってますね。僕たちを飼い殺しにするために欲しい物を与えるという考えと一緒ですよ」

 ヤバいな、お姫様は気付いていないが足立の奴結構キレかかっているな。

「では我々が信用できないのなら契約書を交わしましょう。そうすれば簡単には約束を違える事は出来なくなります」

 契約書を交わすねぇ、盗んでしまえば契約そのものを反故に出来てしまうんだがそこはどうするつもりなんだか。

「契約書ですか。その契約にお姫様は何を賭けるつもりですか」

「それはこの国の全てを賭けさせていただきます。私が出せるのはこの程度しかありません。ですがここまですれば容易に裏切ることは出来なくなります。ですのでどうかこれでご容赦下さい」

 お姫様ってば身内から裏切り者が出ない様に国の全てを賭けちゃったよ。

「待って下さい姫様!そんなことをすればこの国が滅びますぞ!」

 豪華な衣装に身を包んだ小太りなおっさんが会話に割って入って来た。

「私たちが約束を違えねば国は滅びません。そもそもこちらが一方的に悪いのに何も賭けずにこの場を収めることなど到底不可能。それともあなたにはこの場を丸く収める方法でもあるのですか」

「そ、それは……ですが国の全てを賭けるなど正気の沙汰とは思えませんぞ。どうかお考え直し下さい」

 まあ普通に考えたら正気の沙汰とは思えないよな、こんな状況でなければ。

「よく考えた結果我々に残された道はこの他にありません。もし勇者を奴隷にしようとしたことが他国や教会の人間に知れたらこの国から教会の聖職者はいなくなり、諸外国との外交にも支障をきたします。それこそこの国はおしまいです。それでも考え直せと仰るのですか」

「出過ぎた真似を致しました。今の発言を取り消します」

「さて内輪揉めはもう良いのですか?こちらは存分にやって貰っても構わないのですが。この国がどうなろうと知ったこっちゃないので」

 足立ってば相当頭に来てるみたいだな、まあ俺たちの事を放っておいて内輪揉めなんか始めるような連中と交渉するのも大変だろうしな。

「とりあえず契約書の内容を決めていかせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「こちらは一向にかまいませんが」

「では契約の内容について決めさせていただきます。まずこちらが契約するにあたって、契約を破った場合に支払う対価はこのラグアシア王国の全てとさせていただきます。宜しいですか」

「ああ、こっちとしては何を対価に差し出されても変わりはないからな」

「くッ、ではここから内容を詰めていきたいと思います。勇者さま方がこちらに要求することを決めて下さい。なんでしたら相談して頂いても」

「ええ、そうさせてもらいますよ。ではクラスの全員と相談させて貰うためにお姫様方には退場願いましょうか」

「ええ、わかりました。ではごゆっくり相談なさって下さいませ。相談が終わりましたらこちらのベルを鳴らしてください」

 そういうとお姫様たちは部屋から出て行った。

「ふぅ、やっと落ち着けるよ」

 足立は張りつめた気を溶かすように呟いた。

 クラスメイトの皆もその言葉を聞き肩の力を抜いた。

「さて、これから契約の内容を話し合いたいけど、このまま僕の仕切りで良いかな」

 そんな足立の質問にクラスメイトの皆はこのまま話を進めてくれと言った。

「じゃあまず契約の内容だけど、僕が考えてるのは僕ら全員の身の安全と衣食住。それからこの世界の常識や知識を教えて貰う。次に元の世界に帰る方法も模索。とりあえずこれらのこと以外で何か必要だと思うことは何か意見は無いかな」

 皆各々考えて話しているが特にこれと言って必要なことが思い浮かばない。

 そんな中委員長が良い意見を出した。

「あの契約書ですけど、私たち全員分作った方がいいと思うんですけど」

「なるほど、確かに全員が契約書を持っていればそうそう全部盗まれる心配もないな」

 そんなこんなで話し合いが終わり最終的な内容はこうなった。

「じゃあ最後に確認するよ。

一、僕ら全員の身の安全。

二、僕ら全員の衣食住の保証。

三、僕ら全員にこの世界の常識並び知識を教えること。

四、元の世界への帰還方法の模索。

五、自由に情報を集めることをできるようにすること。

六、僕ら全員法に触れない範囲で自由に行動できるようにすること。

七、もし契約内容を変更する場合は両者全員で相談して決めること。

八、この契約書はクラスの全員と国と第三者の分用意すること。

とりあえずはこんなところで問題はないかな。何か問題があれば手を挙げて下さい」

 足立が最後の確認として契約内容を一から読み、どこにも問題が無いか皆に問い掛けた。

 クラスの全員は足立の問いに各々問題が無いか確認をして、問題が無いと判断を下した者から異議なしと答えた。

「全員異議が無いみたいなのでこれからお姫様と会議を再開したいと思います」

 クラスの全員がその言葉に無言で返事をし、それを見た足立はお姫様を呼ぶためにベルを鳴らした。

 ベルを鳴らすと扉がノックされてアンナさんが扉から顔をのぞかせた。

「お呼びでしょうか」

「はい、相談が終わりましたのでお姫さま方をお呼びいただけますか」

「承知いたしました。ただいまお呼びいたします。しばしお待ちを」

 そういうとアンナさんは扉を閉めた。

 それから数分後再び扉がノックされた。

「失礼します。姫様方をお呼びいたしました」

「どうぞお入りください」

 足立が入室を促すとお姫様たちが続々と席に着いた。

「話し合いは終わったということで宜しいですか」

「ええ、そちらこそこっちが話し合いをしているうちに内輪揉めは終わりましたか」

「ええ、おかげさまで有意義な時間が過ごせました」

「なら、よかったです。ではこれから契約内容について詰めていきましょうか」

「そうですね、勇者さま方は私共にどのようなことを求めるのかお聞かせ下さい」

「まず僕らが求めることは八つです。

一、僕ら全員の身の安全。

二、僕ら全員の衣食住の保証。

三、僕ら全員にこの世界の常識並び知識を教えること。

四、元の世界への帰還方法の模索。

五、自由に情報を集めることをできるようにすること。

六、僕ら全員法に触れない範囲で自由に行動できるようにすること。

七、もし契約内容を変更する場合は両者全員で相談して決めること。

八、この契約書はクラスの全員と国と第三者の分用意すること。

これらの事を僕らはこの国に求めます」

「わかりましたその条件を飲ませていただきます。ですが本当にそれだけで良いのですか」

「これ以上要求してもこの国には到底叶えられるとは思えませんので。それとも無理難題を突き付けてそれを受けて頂けるのですか」

「そ、それは……」

「こちらは別に無理難題を吹っかけてもいいんですよ。たかが国の一つが滅びようが知ったこっちゃないですし。こちらとしては交渉材料は他にもありますし、他の国と交渉してもいいんですし」

「ま、待ってください。そちらの条件で契約書を作成します。ですので今回の事はどうか内密にお願いいたします」

「大丈夫ですよ、裏切らない限りは僕は何もしませんから。ただし少しでも不審なことがあったらどうなるかはわかりませんが」

「そ、それでは契約書の作成に入りたいと思います。アンナ書類を」

「こちらに」

「では先ほどの内容を書きます。そしてこの署名欄に両者の署名を書いて契約書は完成です。この契約書は公文書にも使われている物ですので偽造は不可能です。では内容を確認の上署名欄に署名を」

 お姫様に促されて全員内容をしっかり確認しながら契約書に署名をしていった。

「これで契約は完了しました。くれぐれも契約書は亡くされない様にお願いいたします」

 とりあえずこれで身の安全と衣食住は何とかなったけど、これからどうなることやら。

 こんなアニメのアの字も無いようなところにいたらいつか気が狂ってしまいそうだ。

 早く帰還方法が見つかりますように。

 まぁ、神様が言っていた感じだとそう簡単には帰れそうにないと思うけど

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る