第3話 召喚されたけど話が長い

「勇者が召喚されました、陛下」

「よくやった。これで世界は我が手に落ちたも同じ。さあ勇者たちに会いに行くとするか」

 豚のように丸々と太った男は黒い笑みを浮かべながらそう言い放った。


「ようこそいらっしゃいました、勇者の皆さま。急なことで驚きのところ申し訳ありませんがお話を聞いてもらえますか?」

 無事に全員召喚されたみたいだな、さあどのテンプレパターンが来るのか楽しみだな。

「皆様にはこれから謁見の間に来ていただきます。そこでなぜこのようなお呼び出しをしたか国王陛下直々に説明していただきます」

 美少女がそう言い終わると周りで待機していた兵士が俺たちに話しかけてきた。

「いま王女様の仰った通りこれから貴様らは謁見の間にて国王陛下に会ってもらう。くれぐれも無礼のないように」

 無理やり呼び出しておいて無礼も何もないと思うがここは無難にやり過ごそう。

 クラスメイトの半数近くが帰らせろとか言っているが俺は傍観に徹することにしよう。

「突然の事で混乱されているかもしれませんがどうか落ち着いて下さい。なぜこのようなことになったかは謁見の間にてご説明させて頂きます。宜しければ謁見の間にお連れしますのでついて来て下さい」

 クラスメイトの皆は周りにいる兵士たちに脅される形で謁見の間に案内された。

 それから十分ほど歩いたころ、王女様が立ち止まった。

「皆様、この扉の向こうが謁見の間です。国王陛下がお声をかけるまで跪いて待機してください」

 ここまでの道程の中では誰一人として口を開かなかった。

 そして謁見の間の扉が開かれ王女様に続きクラスメイト全員が謁見の間に入り跪いた。

「よくぞ参られた勇者の諸君。貴様らにはこれから悪逆非道の魔族と世界を脅かす魔王を倒してもらう」

 国王と思しき脂ぎった太ったおっさんが俺たちに向かって話しかけてきた。

 なんかスゲーむかつく顔と物言いだな、罪にならないなら殺してしまいたいほどだ。

 とりあえずあの国王の事は豚王と呼ぶことにしよう、そうしよう。

「そのためにもまず諸君等の実力を知りたいのでステータスを鑑定する水晶にてステータスの鑑定をしてくれ。一人ずつ文官が見て回る」

 そうして俺たちは豚王に言われるがまま水晶に手を置きステータスを文官に見せていった。

「こ、これは国王陛下勇者の称号持ちが三人もおりますぞ‼」

「なるほど。フフッ、それでは謁見はこれにて終わる。勇者の方々を客間に案内せよ」

 豚王が黒い笑みを一瞬浮かべるがすぐに笑みを消し傲慢な態度でそう言い放った。

 さてと、そろそろイライラの限界だしぶち切れてもいいかなと思っているといきなり足立が叫んだ。

「もう我慢ならん、こっちが下手に出ているのにも気付かずそんな傲慢な態度。国王だかなんだか知らんがテメェは俺を怒らせた。スキル審判ジャッジメント発動」

 足立がそう叫ぶと同時に豚王の腕が輝き、そこには強姦や殺人などおおよそ国王とは思えない罪状が刻まれていた。

「みんな聞いてくれ。そこにいる国王はあの腕に刻まれている犯罪を犯した犯罪者だ。あれは俺のスキル審判ジャッジメントの能力で腕にその者の罪を刻むものだ。あの国王は紛れもない犯罪者だ。あんな奴の言うことを聞く義理は無い」

 足立がそう叫ぶとみんなは国王を睨みだした。

 それにしても兵士たちは突然の事に動揺していて誰一人動けないでいるな。

「ば、馬鹿な。この儂が犯罪者などと、呆れてものも言えんわ。誰でもよいその者を取り押さえろ」

 豚王が叫ぶと兵士たちが豚王を守りにいった。

「俺のスキルはもう一つある。犯罪者からの攻撃を防ぐものだ。この能力は範囲内にいる他者にも付与できる。これで俺たちは犯罪者相手なら怪我の心配は要らない」

 今の足立の言葉を聞いて兵士たちが後ずさった。

 足立の言葉を聞き誰かが口を開いた。

「ああそれは良いな、俺もちょうどイライラしてたところだ。参加させてもらうぜ」

 あれは我がクラスの番長、藤原ふじわら大悟だいごまたの名を小さい悪魔リトルデビル

 彼はその小さい体を最大限に生かしたヒットアンドアウェイを得意とした喧嘩常習犯だ。

「待て、貴様ら儂が誰か分かっていての狼藉か」

「ああん、テメェは俺らの事を拉致ってくれた犯罪者だろうが。さっさとボコられて豚箱にでも入ってやがれ」

「こ、近衛兵儂を守れ、国王命令だ」

 人数的に少し不利だし俺も少しサポートしてみるか。

 俺は近衛兵の中でも強そうな奴が持っている剣に狙いを定めてスティールを発動した。

 剣が淡く光り、次の瞬間に近衛兵の手から剣が消えた。

 そしてさっきまで近衛兵が持っていた剣が俺の手に握られている。

 おお、初めてスティールを使ったけど結構簡単に盗れるんだな。

「な、なんだ俺の剣が消えた。どうなっていやがる」

 剣を奪われた近衛兵は何が起こったのか理解できていないでいた。

 ふむ、この感じなら他の兵士たちからも武器を奪ってしまうとするか。

 それから数回の失敗をしつつ兵士たちから武器を巻き上げ、全て無限収納アイテムボックスにしまい込んだ。

 謁見の間にいる兵士たちは全員武器を奪われ戸惑いを隠せないでいた。

 そして未だに戸惑っている兵士たちに向かって小さい悪魔リトルデビルこと藤原大悟が先制攻撃を仕掛けていた。

 他のクラスメイト達も藤原に続いて兵士たちを一人また一人と倒していき、数十分後には立っているのは豚王とその家臣と俺たちだけとなった。

「皆、僕が代表して国王と話をするがいいかな」

 クラスメイト達はこの場で一番交渉が上手いのは足立だと知っているため誰も反対はせずただ無言でうなずいただけだった。

「さてと国王様よ、この状況分かってるよな。あんたの優秀な兵士たちは無力化させてもらった。だが俺たちは鬼じゃない。なぜなら俺たちは一人も殺していない。この意味が理解できないほど馬鹿じゃないよな」

 そう豚王に向けて足立が問い掛けたが意に反して豚王は頭が相当悪いらしい。

「ふ、ふざけるな!武器さえあればお前たちなど。そうだお前たちが武器を奪うなど卑怯な手を使わなければ我々が負けることなどなかったのだ!」

 はぁ豚王は救いようのない馬鹿だな、今この場においての自身の立場すらわかってないようだし。

「国王様、卑怯と言っているがこっちは武器も防具もなしに兵士たちを相手取っているのだが。どっちが卑怯なのか」

 足立は最後の方の言葉を小さくつぶやいた。

「ま、待ってください、非礼はお詫びいたします。ですのでどうか矛を収めては頂けないでしょうか」

 この争いに水を差したのは俺たちを案内してきたお姫様だった。

「お前は引っ込んでいろ!」

 おいおい自分の娘に対してあんまりな物言いだな。

「父上は黙っていてください。これ以上勇者様たちを怒らせてどうするおつもりですか」

 まあ俺たちを怒らせても出来る事なんかそんなにないと思うけどな。

「ええい、勇者など奴隷の首輪でもつければこちらには抵抗などできまい」

 うわぁ、やっぱりあるんだ奴隷の首輪とか。

 まさか隷属魔法とかもあるかもしれないし気を付けないと。

「そ、そんなことが許されるとでも思っているのですか父上は」

「許される必要もない。儂が国王なのだからな」

 なかなかの言い草なんだがそれができてしまう立場っぽいからな。

「アンナ、父を捕らえなさい」

 お姫様はその言葉を聞いてアンナと呼ばれたメイド服を着た侍女らしき女性に声をかけて豚王を捕らえる様に言った。

「よろしいのですか」

 まさかの発言にアンナという女性はは驚き、聞き返していた。

「父はもう国王ではありません。犯罪者です」

 お姫様は一寸の躊躇いも無い速さで言い放った。

「わかりました」

 アンナさんはその言葉を聞き豚王をどこからか出した縄を使い丁寧に縛り上げた。

「これよりこの場は第一王女であるこの私、アウリア・フォン・ラグアシアが預かります。これより私の許可なく発言した者は宰相であろうとも処罰いたします。勇者様たちとの交渉は私が行います」

 お姫様がそう臣下の者たちに向けて言い放つと豚王に近い場所に立っていたこれまた豚のように太った男が口を開いた。

「待たれよ、いくら姫様といえどこれは国家反逆ですぞ。今すぐ陛下を解放なされよ」

 お姫様は口を開いた男を一睨みをして口を開いた。

「宰相、私の許可なく発言をしたため処罰いたします。赤き火よ、球と成り、敵を叩け。『ファイアボール』」

 お姫様がそう唱えると掌より赤い火の玉が現れ宰相に向かい飛んでいき、着弾すると宰相は炎に包まれた。

「おいおい、姫様これはなんでもやり過ぎじゃ!青き水よ、球と成り、敵を叩け。『ウォーターボール』」

 ローブを着た老人がお姫様に怒鳴り、魔法を行使し宰相を燃やしていた火を消した。

「ウォレン老師、あなたも私に反抗するのですか?」

「儂は姫様に反抗するわけではありませぬ。ただこの場で宰相を殺しても何の意味もないため止めただけです。国王陛下を捕らえたことに関しては何も意見はございません」

「そうですか、ならばウォレン老師の行為は不問にいたします。ですが次は無いと思ってください。他の臣下の方たちも怪しい行動に出れば即座に燃やします」

 なんか向こうは向こうで内輪揉めが始まってしまってこっちをそっちのけで話が進んでる。

 できればあのまま内輪揉めで共倒れにでもなってくれないかな。

「あはは、こちらを無視して内輪揉めですか。この状況下でそんな余裕があるとは。それになんの交渉もなく俺たちに矛を収めろとはまた滑稽な。今ここで矛を収めたところで俺たちに何のメリットもないどころかデメリットが増えるだけ。それとも今ここで矛を収めれば俺たちに危害を加えず、家に帰して貰えるのですか?」

 足立はあえて相手を怒らせるように挑発をしているみたいだ。

 だがお姫様は足立の思惑に反して冷静な対応を貫いた。

「仰る事は尤もだと思いますがどうか話を聞いては頂けないでしょうか」

 お姫様はどうかにかこちらと交渉をしたいらしいが、豚王の娘だと思うとどうにも信用できない。

「話を聞くのは良いがまずそこに転がっている兵士たちを動けない様にしてもいいかな。それと僕のスキルで確認して犯罪を犯している者たちは出来れば拘束して隔離したいんだが」

「はい、こちらも出来る事なら犯罪者は排除したいので」

「では見させてもらう。スキル審判ジャッジメント発動」

 足立がスキルを使うと宰相や他の数人の貴族の腕が光り、おおよそ貴族には相応しくない罪状が綴られていた。

「まさか、こんなにも犯罪を犯している貴族がいるなんて……」

 お姫様はあまりの光景にあきれ果てていた。

 腕に罪状を刻まれた貴族たちは一様に言い逃れをしていたが全員アンナさんが縄で縛りあげた。

「では勇者の皆さま、こんなところで立ち話もなんですので会議室へ移動いたしましょう。この場で縛り上げた犯罪者たちは私たちが責任をもって隔離いたします」

「良いですよ。そのかわりそこの犯罪者どもが一人でも解放されたら交渉決裂ということで」

「わかりました。では会議室の方へ案内いたします。どうかついて来て下さい」

 こうして俺たちはお姫様に連れられて会議室へと移動していった。






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