第1話 側近に替わり、魔王に着任してみた

荒れた土地に立つ古い城の中にある、王の間。

大階段の先には金色に輝く王座が鎮座しており、そこには小さな少女が座っている。上手には側近らしき青年が寄り添っている。


少女は赤い絨毯に降ろしている脚を揺らしながら、階段下を見下ろし、魔王の様な悪い表情を浮かべて貫禄たっぷりに。


「私こそは、この世を統べる魔王たる器を持つもの。

 何故、勇者などというものに恐れねばならぬのだ!」


「とか、こんな感じでいいかい? 側近」


「はい。そのような感じでお願いできればと」


無邪気だが子供っぽくならない位の笑みを浮かべて、深く椅子に腰掛け直す少女は、自らを『魔王』と名乗る。


「でも、驚いちゃった。急に『魔王になってほしい』なんてさ」


「ご快諾いただき、痛み入ります」


「でも、なんで私が魔王なの? 私はどちらかといえば

 花のように可憐で、雪のようにはかない乙女だというのに……」

身振り手振りでしおらしさを演出しようとする少女。

しかしその姿は微笑ましくこそ見えても、可憐、には程遠い。


「いえいえ、その立ち居振る舞いは、まさに魔王」

少年は、笑いをかみ殺しながら、少女をわざとらしく褒める。


「それ、どういう意味?」


「あ、その……魔王様ともなれば、花は恐れをなし枯れ果て、

 雪を鋭き牙へと変えることができるほどの実力者」


「そのような考えは、魔王の間は抑えて頂きたく……」


(特に、その逆切れした女王様感……)

本音が口を飛び出しそうなところで、こらえる少年。


「……なんか、話をそらされた気がする」

少女は、盛大に不服そうな表情を浮かべていた。


「先日も言いました通り、真の魔王が力を蓄えている間

 魔王のふりをしていただきたいのです」


「いいわよ。でも、本当になんでもいうこと聞いてくれるんでしょうね」


「ええ。それは当然。一時とはいえ魔王様なのですから。

 世界征服でも、欲しいものを取ってくるでも。わが魔王軍が責任をもって……」


「そっかー。じゃあ、何が欲しいかなー。

 大きなプリンがまずは食べたいなー。あとは、えーと、うーん……」


妄想を膨らましているのは、少女だけではなかった。


(……ふふふ。まあ、今のうちに妄想するがいい。

 いずれお前は魔王として、勇者に倒されるのだ)


(そして訪れるつかの間の平和……

 その間に、真の魔王たる我が率いる、魔王軍が襲うのだ)


「ふはははっ!」

妄想が膨らみすぎて、口からあふれ出していることも、気付かないほどに。


「ど、どうしたの!? 側近。いきなり高笑いなんかして!」


「いえ、何もございません」


「そう……?

 ……そういえば、聞きたいことがあるんだけど、いいかな」


「何でしょう? 魔王様」


「勇者を倒したら、そのあとは何をすればいいの?」


「勇者を倒し……え?」


「さっき、来たから倒しておいたんだけど」


「ええと、その場合は……」


「わかった! ここで一気に攻め入って、人類滅亡とか?

 なんか、すごく魔王っぽくてかっこいいよね!?」


「それはさすがに、ちょっと……」


「あれ? なんでも、言うことを聞いてくれるんでしょ?

 やろうよ! 世界征服! ね!?」



普通にラノベっぽく書いてみた、ショートストーリー。天然で実は超強い。

チート系魔王少女と、普通の魔王だった側近少年の、日常の一コマ……。

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