第10話 困迷
佐藤探の容姿に見とれていると、秋咲が佐藤探に話しかけ、一言二言会話をしていた。仲が良さそうには見えなかったが、軽く嫉妬した。
秋咲を見張るという本題を思い出し、意識を戻す。
すると2人はラケットを持って、それぞれのコートに入っていった。
「まさかとは思ってたけど、試合する気?」
秋咲は、テニスを全く知らない私でも知ってるくらいの強豪プレイヤーである。いつも表彰されているので、その実力を知らない人はいないはずだった。こんな試合、傍から見れば結果は分かり切っている。
けど私は何となく、周りが思うような結果にならないんじゃないかなという予感がした。
そしてその予感は的中した。
試合は秋咲のサーブから始まった。素人目でもわかるくらいの綺麗なフォームだった。それに対し、佐藤探は、ろくに構えもせず腰に手を当てていた。そして、綺麗なフォームから繰り出される鋭い球が佐藤探へとむかっていった。
これは打ち返せないな。そう思った。
が、気づけば佐藤探はラケットを構えていた。そして、構えた場所から1歩も動かずボールを打ちかえ───
「え?」
思わず声が出てしまった。やばいと思い口を抑えたが、ガッシャーーーーーーンというボールがネットに当たった音で気づかれることはなかった。
それにしても驚いた。佐藤探が打った瞬間ボールが消え、気づいたら鉄製のネットに当たっていた。
そのワンショットは人外な程の速さのボールを打てる佐藤探の力の強さを物語っていた。
「マジであいつ何者なの......?」
何も無かったように持ち場に戻る探を見て、そう思った。
試合は終わった。全てのプレーにおいて佐藤探の洗礼された動きにただただ驚かされた。
そして、何度も見ていて気づいたのだが、佐藤探は、秋咲が打った瞬間のラケットの角度を見て、ボールの来る場所を予測し、ものすごいスピードで移動して構えて打ち返していることがわかった。
それがわかった時、化け物だと思った。
あれは技術とかそういう問題じゃない。次元が違う。予感が的中したとはいえ、頭が混乱していた。
だが、秋咲が泣き出したことで一気に現実に引き戻された。
これはチャンスだと思いスマホを取り出し動画を撮り始めた。いつもクールな秋咲のこんな姿を他のクラスメートが見れば、少しは株も下がるだろうと思った。
けれど、画面越しに佐藤探が秋咲の頭を撫でているのを見て秋咲なんてどうでも良くなってきた。ただ、嫉妬で狂いそうだった。2人はどういう関係なんだろう。それだけを考えた。
いつの間にかスマホの電源が無くなっていた。カバンからモバイルバッテリーを取り出そうとした時、二人が向かいあって何やら話し始めた様子が伝わった。
聞きたい。何を話してるのか聞きたい。
スマホのことなど頭から消え、忍び足でコートの近くのベンチに座り顔を俯かせて、スマホをいじるふりをした。
何を話してるんだろう.....?
耳をすませ、よく聞いていると秋咲と佐藤探の関係性や、佐藤探の過去の話などがわかってきた。
私は重大な場面にでくわしたと思った。全ての話が衝撃的だった。
けど、これらをどう利用するのか、全然イメージがわかなかった。何より、佐藤探に嫌われるのが嫌だと思った。
どうしよう......
途方に暮れ、二人がテニスコートを出る前にその場を去った。
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こんにちは。嵩いの李です。皆さん、いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。
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これからも『ラブコメ主人公は爪隠す』をよろしくお願いします。
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