閑話 カグツチの日常2


 学園から徒歩30分


「ヒッヒッヒあんたさっき銭湯だって言ってたよな。」


「はい!ようこそ『和みの湯』へ!」


「……これ営業してるのか?」


 目の前には確かに銭湯だった建物がある。

 ガラスは割れ、塗装は剥がれ、外からでも埃が積もっているのが分かる。

 一万歩譲って営業していたとしても確実に客は入らないだろう。


「昨日まで休業していましたが、今日から活動再開です!まずは掃除から始めましょう!」


「帰る。」


「え!ちょっと待って下さい!」


 ミーコが踵を返す俺の腕を掴み引き留めようとしてくる。


「何だよ?タダ働きはごめんだって言っただろ。」


「大丈夫です!綺麗にすればお客さんも来ますから!月末には必ずお給料出しますから!」


「時給は?」


「え?えと、えと、100Mとか?」


「100Mね……」

 ちなみに第7魔界の学生バイトの平均時給は80M、本当に100払えるなら割りと良い時給だと言える。


 まぁ時給がどうだろうが他で雇ってもらえない以上ここで働くしかない訳で………。


「はぁ。権利書は持ってるのか?」


「はい。大丈夫です!すぐに営業出来ますよ!」


「じゃあ、あの手で行くか。」


「あの手??」


「ここら辺に他の銭湯はあるのか?」


「?はい。そこの角を曲がった所にありますけど………。」


「ヒッヒッヒじゃあ少し待ってな。」


「も、もしかして襲いに行くつもりですか!?駄目ですよ!そこの用心棒さん強いって有名なんです!」


「ヒッヒッヒそりゃ楽しみだ。」


「ああ、待ってくださいよぉ!」


 魔界知識その1

 街では店の権利書をかけた決闘が行われているよ!

 力こそ正義だ!

 ――――――――


「随分デカイな………。」

 ミーコの銭湯、『和みの湯』の軽く10倍はあるだろうか、たかが銭湯でこの敷地、勿体無いな。


「3年前に出来たばかりなんですよ。スゴいですよね……。」

 ミーコはどこか悲しげな目で銭湯を見ている。


 近くにこんなのがあったんじゃそりゃ潰れるわな。

「ヒッヒッヒ良かったな今からお前の物になるんだぜ?」


「駄目です!帰りましょう先輩!勝てっこないですよ!相手は火天の、って話を聞いて下さいよぉ!」


 無視して銭湯『超絶癒しMAX』の中に入る。

 変な名前。


 番台の元に行く。

「いらっしゃいませ、どうされましたか?」

「ヒッヒッヒ用心棒を出しな。決闘だ。」


「……かしこまりました。外でお待ち下さい。」

 にこやかな表情で番台が言った。

 ヒッヒッヒ負けるはずがないと思ってるんだろうな。


「先輩……。」


「ヒッヒッヒすぐに終わる。」


 外に出て数分で大柄な男が出てきた。

 ハゲた人間だ。ローブを着て杖を持っているのに魔法使いにはまるで見えないな。


「待たせたな、権利書は持ってるのか?」


「あぁ、勿論だ。さっさと始めようぜ。」


「せっかちな野郎だ。いくぞ!」

 男は杖を地面に突き立てる

 足元に赤い魔方陣が浮かぶ。


「ヒッヒッヒ」


「何のつもりか知らんが手加減はしないぞ。死ね!ボルケーノ!!」


 男が叫ぶと同時、魔方陣が強烈に光を放ち


 オレの視界は炎の赤で染まった。


「先輩!!」


「ふっ、俺のボルケーノを喰らって生きていた奴はいない、終わりだ。」


 足元から立ち昇る炎の柱がオレを包む。

 ヒッヒッヒまるでぬるま湯だな。


「さて、トカゲの丸焼きの出来上がりだなはっはっは。」


 炎が消える。

 トカゲとは言ってくれるな。


「なっ!?」


「どうした?終わりか?」


「無傷だと!?」

 相当驚いているようだ。遊びじゃなくさっきのは本当に全力だったんだな。


「次はオレの番だ。せっかくだから本物の炎を見せてやろう。」


「待っ!待ってくれ!俺の負けだ!許してくれ!」


「ヒッヒッヒ安心しろよ。すぐに死ねるから。」


「ヒッ!ギャアアアアア!!!」

 男を炎の柱が包む。


 名前なんて付けてなかったけど、ボルケーノねぇ……。


「先輩!」

「うおっ!?」

 後ろからいきなり柔らかい物がくっついてきた。


「せんぱぁい。ぐすっ、もう心配したんですよ!」

「ヒッヒッヒ心配する場面なんてあったか?」


「最初に何もしないで攻撃喰らってたじゃないですか!」


「あぁ、オレに火の魔力は効かないから。」


「そんな事!知らないですよ!バカ!」


「ヒッヒッヒ、バカ呼ばわりか。まぁいい、これでこの銭湯はお前の物だ。時給100M頼んだぞ?」


「はい!任せて下さい!あの……先輩。」


「何?」


「これからよろしくお願いします。(ちゅっ)」

 後ろから抱きついたままオレの頬に口づけをするミーコ。


「何のつもりだ?」


「今日のお給料です!体で払うって言ったじゃないですか!エヘヘ。」


 後ろにいるため顔は見えないが笑ってるんだろうな。

 我ながら似合わない事をしたもんだ。


「エヘヘせ~んぱい!」



 はぁ。

 ま、たまにはこういうのもいいか。

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