閑話 カグツチの日常


 ヒッヒッヒ

 平和な魔界と聞いていたがまさかこんな仕打ちを受けるとはな…………。


「あの~、スミマセン。バイトの面接に来たカグツチですけど店長さんいらっしゃいますか?」


「あ~君が……。ごめんね~うち獣人族は雇ってないんだよね~。」


「そんな待って下さい、ここに人型なら可って」


「人間寄りならね。悪いけど帰ってくれる?」


「ヒッヒッヒそうかい。」


 ――

「あの~、スミマセン以下略」


「あ~ごめんね~。獣人族はちょっと……女の子なら雇ったんだけどさ。悪いね。」


「ヒッヒッヒあぁそう。」


 あ~ごめんね~、ごめんね~。ごめんごめんご、ソーリー、悪いね~、未成年はちょっとね~、兄さんお金に困ってるならおじさんと…………


 学園周りの学生バイト募集してる店は全部行ったがどこも雇ってくれなかったな。


 人型なら募集してるんだがな………。

 はぁ。ここで生きるのは無理か。別魔界に行って

 なんて事を考えていると路地から声が聞こえてきた。


「イヤ、離して!」

「ヘッヘッヘ良いではないか良いではないか、」

「ケッケッケお兄ちゃん達と楽しい事しようよ~。」

「ホッホッホ少しだけだからさ~。」

「イヤです!止めて下さい!誰か、誰か助けて!!」


 ヒッヒッヒ丁度いい、ストレス発散に付き合って貰うか。


「おじさ~ん!溜まってるならオレが相手をしましょうか?」


「あ"?何だて……め……」

 路地の入り口に立ち魔力を纏ったオレを男達が見上げる。

 どいつも似たような顔しやがって、オレと何が違う?

 このクズ共でも面接に通るのか?


「グオオオオオォォォォォォ!!!!!!!」


「ヒ、ヒィィィィ!化け物!化け物ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 男達は一斉に逃げ出した。


 ヒッヒッヒ情けない。ただ叫んだだけだぞ。

 かなり物足りないがまぁ多少は気が晴れた。

 とりあえず今日は帰って寝るか。


 元の大きさに戻り、帰ろうとしたところ

「待って下さい!」

 路地から声が聞こえる。

 薄暗くてはっきり見えないがおそらくこいつも人間、女だろう。


「ヒッヒッヒ、悪いけど金なら持ってない他をあたりな。」

「なっ?違います!お礼を、助けて頂いたお礼をさせて下さい。」


 お礼ねぇ。バイトを紹介して欲しいけど。


 とりあえず戻って路地に入る。

 ……服装を見るにオレと同じガンダム学園の生徒のようだ。

 着ているのは制服ではなく、戦闘服だが。

 獣人のオレが見ても整った顔、体つきだと分かる。

 ましてこいつも獣人、絡まれるわけだ。猫系の耳と尻尾しかない人間寄りの、だからな。


「あの、ありがとうございました。」

 女は頭を下げる。


「ヒッヒッヒ別にあんたの為に助けた訳じゃない。ただのストレス発散だ。」


「それでも!助けて貰った事には変わりありません。何かお礼をさせて下さい。」


「ヒッヒッヒなら一発ヤらせてくれよ。どうだい?」


「ふえ!?」

 驚愕の表情を浮かべる女。

 勿論冗談だが中々面白い顔するじゃないか。ヒッヒッヒ。


「お礼をしてくれるんだろ?なぁ?」


「それは……その……」

「何?」


 女の身長は150センチくらいか、怯えた目でオレを見上げる。


「……分かりました、一度だけなら……」

 顔を下に向け小声で話す女。


 馬鹿かこいつは?助けた意味がないだろうが。

「あんた頭悪いな。」


「……スミマセン。」


 謝っちまうのかよ。

「はぁ。冗談だ。顔上げなよ、お礼をしてくれるんなら頼みたい事がある。」


「冗談……むー、真剣に悩んだのに……」

 下を向いたままボソボソと何か呟いている。


「聞こえてるか?」


「はい。何ですか?私に出来ることなら手伝います。」


「ヒッヒッヒ、助かるよ。実は今バイトを探してるんだがあんたオレでも雇ってくれそうなところ知らないか?」


「バイト……、あの失礼ですが3年生のカグツチさん、ですよね?」


「あぁそうだけど、あんたもガンダムの生徒なんだな。」


「はい、私は2年のミーコです。その……、先輩さえよければ私の家で働きませんか?」


「あんたの家で?何の店だ?」


「銭湯……です。全然お客さん来ないんですけどね。」


「ヒッヒッヒ、オレは構わないが客が来ないのにバイトを雇う余裕あるのか?タダ働きはごめんだが。」


「それは……大丈夫です!絶対後悔させません!」


 いやに強気だな、まぁ雇ってくれるなら何でもいいか。

「分かった。じゃあよろしくミーコ。」


「はい!よろしくお願いします。先輩!」

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