17話 天使降臨


 天使――

 もし本当にそんなものがいるのなら、この人は間違いなく天使だ。

 そう思った。


「おはようございます。気分は如何ですか?」

 背中から白い羽を生やし、頭には光の輪。

 現実離れした美貌に輝く金色の髪。

 絵に書いたような天使だ。

 想像通りの天使。

 きっとあなたが思い浮かべた天使の10倍は綺麗だ。


「…………」


「あの、大丈夫ですか?」


 思わず見蕩れてしまったが、

 その美貌をセーラー服に包んでいるのを見て理解した、


 ここは天国ではない。

 記念すべき初めての死がヒロイン二人のコンビネーション攻撃という地獄だった。

 勿論悪いのは止めに入った俺だが、まさか死ぬとは。

 普通は怪我で済むだろう。ギャグで流されるだろう。何事も無かったように次の日が始まるだろう。


 だが、俺は違ったみたいだ。

 今いる場所には一度来たことがある。回復科にある保健室だ。

 と言っても日本の保健室とは大分違いがある。


 ベッドは無く、教師が使うような大きな机が一つと、椅子が一つ、

 広い教室にはそれしか無い。


 ちなみに今俺は床で仰向けに寝ている。

 隣には椅子に腰かけた天使。

 そしてその足元には教室の端まで届くくらい巨大な魔方陣。


「あの、俺は死んだんですよね?」


「はい。」

 当たり前のように頷く天使。


「って事はあなたがフクエルさんですか?」


「ええそうです。私の事、ご存知だったんですか?」


「はい。と言っても噂だけですが。」


 この人はフクエルさん。恐らくこの学園でこの人の事を知らない人はいないだろう。

 曰く天使。

 曰く女神。

 曰く学園の偶像。


 新入生以外の9割の男子生徒は彼女のファンクラブ会員である。とか

 去年の学園祭のミスコンでは出場していないにも関わらず優勝。など

 とにかく男子生徒に人気で女子には物凄く嫌われている。(勿論裏で。)


 その上、生徒会副会長。

 回復科3年生でトップの成績。実力。

 それに何故か戦闘科のランキングにも入っており、クラスは3-A序列は3。

 まさに完璧超人である。


 が、謎も多く、学園都市伝説の一つ【殺戮の天使】や【血濡れの翼】は彼女の事ではないか?と言う噂が一年生の間で流れている。らしい。


 これについて2、3年生は黙秘。

 とてつもない人気者にも関わらず手を出す人がいないのもファンクラブなどがあるからではなく、彼女自身が恐れられているからだ。



 と言うのを噂で聞いた。真相は分からない。

 まぁとにかく天使って事です。


 ちなみにこの世界は死んでも生き返る事が出来る。

 むしろ学園では蘇生魔法の練習が出来ると喜ばれるくらいだ。

 蘇生魔法は通常、死んだ人の魔力にもよるが数十人単位の回復魔法使いが必要で、これを数人で行える者達は一流と呼ばれる。

 で、それをフクエルさんは一人で行える訳だ。

 この異常な回復魔法とそれを可能にするとんでも魔力量も天使と呼ばれる所以である。


 しかしこの蘇生魔法は万能では無く、例えば病気で死んだ場合や呪いなどで魂を殺された場合、自ら望んで死んだ場合等々、蘇生出来ないケースもある。


 と説明はこれくらいにして。


「噂……ですか。それなら私も貴方の噂を聞きました。何でも魔王(笑)と呼ばれているとか。」


「あ、あはは 恥ずかしながら。」


「私は格好いいと思いますよ。」

 ニッコリと天使が微笑む。

 カ、カ、カ、カ、カ、カワイイィィィィィィィィ!!!!!!


「あ、あ、ありがとうございます!!」

 飛び起きて、土下座する俺。


「もう、大袈裟ですよ。それよりもう動けるようになったようですね。」


 そう言うと足元の魔方陣、白い羽、光の輪が消えた。

 しかし、その美しさは変わらない。


「あ、はい。生き返らせていただきありがとうございました!!」

 再び土下座する俺。


「どういたしまして。ふふふ、頭を上げて下さい魔王さん。」

 天使は悪戯っぽく言った。


「は、はい。」

 体を起こし正座する。

 と、フクエルさんも椅子から立ちあがり目の前で正座した。

 しまったな俺に気を使って正座してくれたんだろう。立ち上がれば良かった。


「貴方の決闘は2回とも見させいただきました。一度目は少しやりすぎな気もしましたが、先日の決闘は素晴らしかったです。相手の剣を折りお互いに血を流す事なく決着。その上自害しようとした相手を止めるため、躊躇いなく自身の手を犠牲にするなど。宣言通りの優しい魔王様のようですね。」


 うわー…………この人もソエルさんの演技を信じてしまったのかー………。

 いやそう言えば俺もやってたか。

 はぁ、もういいかな訂正するの面倒だし。


「いや~それほどでも。」


「……それで、その……私は反対したんですが、」


「?何の話ですか??」


「その、会長が貴方の事を気に入ったそうで………貴方に生徒会に入って欲しい、と。」


「生徒会……ですか?」


「はい。人手不足なもので、ヒカルさんに入って頂ければ私としても嬉しいのですが……、嫌、ですよね?」

 悲しそうな顔で言う天使。


 正直嫌だ。何故なら、それは俺が普通の人だからだ。

 勿論日本にいた頃も生徒会はおろか委員会にすら入っていなかった。


 と言う事で答えは勿論

「全然まったく嫌じゃないです!自分で良ければいくらでも扱き使って下さい!!」

 と言って土下座する。


 さっきと意見が違うって?

 考えても見て下さいよ。例えばですけど生徒会に入れば応援してるアイドルに毎日会えるとして、入らない人は何人います?


 お前にはソエルさんがいるだろって?

 好きな女の子と好きな芸能人は別なんですよ!!

 まぁフクエルさんは芸能人ではなく天使ですが。


「え?本当ですか!?」


「勿論ですよ。フクエルさんのためなら何でも出来そうです。」


「あらあら、そんな事言ってると彼女さんに怒られちゃいますよ。」

 そう言って天使は微笑んだ。


「そう言えばソエルさん達はどこにいるんですか?」


「彼女達なら今は寮にいますよ。校内での無許可の魔力使用。武器使用。私闘により死者一名。で、一週間の謹慎処分です。」


 一週間の謹慎で済むのか………。

 こうやって聞くと普通じゃないって事がよく分かりますね。


「あの、謹慎って俺が会いに行くのもダメですか?」


「原則禁止です。」


「そうですか……。」

 ソエルさんとは夢で会った日から毎日一緒にいるから一週間も会えないなんて寂しいな。


「そんなに悲しそうな顔をしないで下さい。一週間経てばまた会えますから。それに、生徒会に入れば一週間なんてあっという間ですよ。沢山働いてもらいますからね。」

 にこやかに言う天使。


「あははお手柔らかに。」



「はい。よろしくお願いします。」

 微笑む天使。

 可愛い!!!!

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