第16話 ヒロイン対決~バットエンドその2~


 翌日、教室にて。


 ガラガラガラ

 木製の引き戸を開けソエルさんと教室に入る。

 今では当たり前になってしまったが、地球にいた時は彼女なんていなかったんだ。

 よく考えればこんな美少女と一緒に登校するなんて、前の俺ならまさしく考えもしなかった訳だ。

 何だかんだ言って、俺は幸せだよな。

 なーんて事を考えたからなのか、まさか数分後にあんな事になるなんて夢にも思わなかった。



 教室には見覚えがあるどころか昨日決闘した鎧の姿がある。

「おはようヒカル、今日もいい天気だな。」

 窓際の席に座った鎧が挨拶してきた。


「おはようユウちゃん。本当だね、その鎧暑くないの?」

 俺はその隣の席に座る。


「…………あのヒカルさん?そちらの方は……一体誰……ですか??」

 入り口に立ったままのソエルさんが聞いてくる。

 ???今日は兜をつけているし、ユウちゃんだって分かると思うんだが。どうしたんだソエルさん?


「おいおいふざ」


「あなたは黙ってて下さい!!ヒカルさん!どうゆうつもりなんですか!?!」

 何故か怒ったソエルさんがこちらに近づき俺の胸ぐらを掴む。


「いや、どうゆうつもりって言われても、新しいクラスメイトですよ??」


「そんなの見れば分かります!!何でその新しいクラスメイトと仲良く挨拶なんてしているんですか!?!しかも!!しかも!!ユウちゃん!!ってどうゆう事なんですかぁ!!!」

 興奮したソエルさんが俺の体をユサユサと揺すりながら叫び声を上げる。

↑なんかエロい感じになってしまったが実際は恐喝。


「ちょ、ソエルさん、苦し、息、が」

胸ぐらを締め上げられ、頭を前後に揺すられ息が出来ない、苦しい。マジで。


「おいお前!何をしているんだ!ええい離せ!」

ソエルさんの後ろ襟を掴んだユウちゃんが強引に引き離す。


「大丈夫か?ヒカル?」

片手を腰に回し、もう片方の手で俺の頭を撫でるユウちゃん。

ヤダ この人カッコいい キュンッ


台詞と行動は完全に王子様だ。俺が乙女顔になるのも仕方がない。


「痛っ、ちょっと!何してるんですか!!ヒカルさんに触らないで下さい!!」

勢い余って隣の机にぶつかったソエルさんがユウちゃんに掴みかかる。


「ヒカルはお前の所有物では無い。私があいつに何をしようがお前には関係ないだろ?」

首を掴まれながら、ユウちゃんはソエルさんに顔を近づけ至近距離で睨みあう。


ど、ど、ど、どうしよう。

俺的言ってみたい言葉ランキング

7位の言葉

「止めて二人とも!私のために争わないで!!」

を遊びじゃなく本気で使うチャンスだ!!

どうする。言うか。言ってしまうかヒカル!!


「関係ない?私が?私はヒカルさんの契約者です!!関係大アリですよ!!」

腕に力を込めるソエルさん。


「ぐ、ぐぅ、それは魔法使いとして、だろう?こいつにだってプライベートはある。それはお前とは無関係だ。」

首を締めるソエルさんの手を掴み、ユウちゃんも言い返す。


「それなら尚更関係ありますよ!学校以外だってずっと一緒だし、毎日一緒にご飯食べてるんですよ!!」


「な!くぅぅ、そ、それがどうした。私は昨日キスしたぞ!!」


「な!な、な、な、わ、私だって何回もしています!!」


「そうか。だが、私のはただのキスじゃない、お前がいつもしているお子様キッスじゃなく、もっと大人の深いヤツだ。」


「な!大人!?深い!?ぐ、ぐ、ぐ、ぐ、ぐぅこの、変態!!」


「熱っ!熱熱熱熱熱いいいいぃぃ!!!!」

ユウちゃんの首を掴む、ソエルさんの手が燃えている。

ユウちゃんは慌ててソエルさんを突き飛ばす。


「ったたた。」

床に倒れるソエルさん。


「先に手を出したのはお前だ。後悔するなよ。」

ユウちゃんは背中の剣を抜く。


「はっ!似非勇者が何か言ってますね。焼きつくしてあげますよ。」

ソエルさんは立ち上がり全身に炎を纏う。


いやいやすげーヤバい雰囲気。

冗談言ってる場合じゃなさそうだ。


「二人とも落ち」


「「うるさい!ヒカルさん(お前)は黙って(ろ)て下さい!!」」


「…………ごめんなさい。(シュン)」


項垂れる俺には目もくれず今にも衝突しそうな二人。

どうするヒカル。これはさすがにまずいぞ。

しかし、俺の力では。


その時、心に直接声が聞こえた。

(ヒカルさん!!俺の魔力を使って下さい!!)


(カマセさん!!い、一体どうして!?)


(細かい事を気にしている場合じゃありません!早く止めないと!)


そ、そうだ今は早く二人を止めなければ!


「「死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」


ユウちゃんは剣を振り上げ

ソエルさんは拳を振りかぶる


二人がぶつかる刹那


「止めて二人とも、私のために争わないでぇぇぇぇぇぇ!!!」


ヒカルが二人の間に割り込む。


「「!?!?」」


しかし、

ああしかし、

もはや二人は止まれる筈もなく。


ズバシッ!!ドガァッ!!

全力で魔力強化した肉体は、

背後を深々と切られ、

顔面には灼熱の拳が炸裂した。

残念ながらヒカルの魔力強化はただ魔力を表面に纏っただけ。これで強化できるのは元々の筋力のみ。

つまり防御力は変わらない。


「ギャアアアアアアアァァァァァァ!!!!!」


こうして

勇者志望と契約精霊の手によって

魔王ヒカルは討たれた。


「「ヒカル(さん)!!!」」


返事は無いただの屍のようだ。



「さようならヒカルさんまた会う日まで。」

実は入り口でずっと見ていたカマセはそう言って祈りを捧げた。

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