第15話 マジメなお話Verユウリ
保健室――なんて良い響きなんだろう。
怪我人の行き着く場所、不登校者の教室、寝不足時の寝室、カップルはホテル代わりに、
時と場合によってその姿を変える魅惑の教室。
そして何と言っても保健室の先生がいる!これだ!素晴らしい!
音楽の先生、教育実習生、英語教師、合わせて学園四天王に数えられる大人の魅力…………。
と、まぁふざけるのはここまでにして、魔法学園の保健室はやはり人間界とはまったくの別物だ。
が、それはまた今度、今日はユウリさんの話だ。
保健室に行き、回復魔法をかけてもらうと、手の穴は10秒足らずで塞がってしまった。
治療を行うのは回復科の生徒で日によって人が変わるため、当たりハズレがあるらしいが今日は当たりだったようだ。
礼を言って保健室を出る。
「じゃあ行ってきます。」と、俺が言う。
「はい、お気をつけて。何かあったらカマセさんに合図を送って下さい。私達は図書室で待っていますので。」
合図とは右手にある契約印の事だ。
「分かりました。それじゃあまた後で。」
ソエルさん達と別れFクラスの教室に向かう。
しかし話があるって何だろうな。
まさかいきなり斬られたりはしない……よな?
いや良く考えたらあの人の剣を折っちゃったんだよなぁ。
ソエルさんによれば魔法のかかった物じゃなくてどこにでもある安物の剣だって話だったんだが………もしかして誰かの片見だったとか?
いや……もしかしたら―――
なんて事を考えている間に教室についた。
考えても悪い事しか思いつかなかったので正直入りたくないが………、
まぁ仕方ない。誰も見てないし土下座で許してもらおう。
ガラガラガラ、
木製の引き戸を開ける。
そこにあったのは見慣れた教室だった。
相変わらず誰もいない。練習場への転移装置と机と椅子があるだけの教室。
だが、1ついや1人見た事も無い美少女が窓辺に立ちこちらを見つめている。
背は俺より少し高いくらいで、スタイルのいい体をセーラー服に包んでいる。
金色の髪を風になびかせ、愛らしい顔に柔らかい笑みを浮かべている。
頭からは漆黒の角が生えているが、不自然さはまったくない。
しまった教室を間違えたみたいだ。
「やっと来」
「すみません。教室を間違えました。」
ガラガラガラ
引き戸を締める。
と、
バァン!
と勢い良く開けられる。
「何のつもりだお前!話があると言っただろ!早く中に入れ!」
とても目の前の美少女が言ったとは思えない台詞を吐きながら腕をつかまれ強引に教室に戻される。
ヤダこんな美少女に絡まれるなんてヒカルドキドキしちゃう!
いや落ち着けヒカル、俺にはソエルさんがいるだろ!!
そうだ、そうだよな。うん。
「あ、あのすみません。お姉さんみたいに綺麗な人はすごく好みなんですが、俺他に好きな人がいて………」
「な、な、な、何を言ってるんだお前は!?」
美少女が赤面する。
「いや、だからこういう風に無理矢理は良くないと言いますか………。」
「な、何を勘違いしている!何故私がお前みたいな男を襲わなくちゃならんのだ!話があると言ったのはそうゆう事じゃない!!」
「話がある??あの失礼ですけど人違いじゃ……」
「さっきまで戦っていただろ!!人違いもクソもないだろうが!!」
は?さっきまで戦っていた?
「あのもしかしてユウリさん?ですか?」
「お前、馬鹿にしているのか?」
美少女が拳を握る。
いやいやいやいや!!!!
こんな可愛い顔だと思わないだろ、普通は!!
「すみません!何かイメージと全然違ったから分かりませんでした!」
とりあえず謝った。
「………フンッまぁいい。確かに素顔を見せたのは初めてだったな。手はもういいのか?」
落ち着きを取り戻したユウリが言った。
「はい。おかげ様で。」
「そうか………。確かにお前の契約者の言った通りだったな。私では勝てなかった。」
「どうやらお前はアイツとは違うみたいだ。魔王は魔王なんだと、決めつけていたよ。」
アイツって誰だ?
「私にはどうしても倒さなければならない相手がいるんだ。1人は私の母、そして私の憧れた勇者を殺した魔王。もう1人は………。」
「お前が争いを嫌うのは良く分かった。だが、私には力が必要なんだ!頼む!手下でも何でもいい。私にお前の力を貸してくれ。」
「いやいやいやちょ!ちょっと待って下さい。俺は魔王じゃな」
ガシッとユウリが俺の手を掴み、
「分かっている。魔王同士の戦いになればお前はまた戦い続ける事になる。それが嫌なのは先の戦いで理解したつもりだ。」
いや、全然まったく分かってねぇよ!!
て言うか人の話を聞いてくれ!!
「だから俺は魔」
「だが、同時にお前は人を想う気持ちも持っている。今こうしている間にも奴に苦しめられている人がいる!綺麗事は百も承知だ。その力、人を救うために使ってくれ。」
ユウリの目は真剣そのものだ。
そもそも俺にはそんな力は無いんだが、
そんな目で見られたら断れないですよ。
それに色々聞いてしまったしなぁ。
「分かりました。俺の力で良ければ手伝います。でも、期待には」
応えられないですよ。
と言うまえに。
ユウリが抱きついてきた。
「ありがとう!!ならば私もお前の手下として全力を尽くそう。何でも言ってくれ!」
痛い痛い!力が強い!って!近い!近い!
「まずは私を倒した褒美だ。」
手下になるとか言いつつそんな上からな事を言いながら、
ユウリはヒカルの唇を奪った。
「~~~~~~!?!??!?」
ちょ!ちょ!ちょ!舌!!舌が!?!?!?
「………っん………ふぅ、ふふあの精霊とずいぶんシテいると思ったが案外ウブなんだな。」
「な、な、な、な、な、な」
驚きと興奮で声にならない。
「なんだ?ふふ、もっとして欲しいのか?」
「い、いえ!十分であります!ありがとうございましたぁぁ!!」
一歩下がり、90度以上頭を下げる。
「ふふ、冗談だ。
それから、私の名はユウリではない。」
「本当の名はユリウス・ブラックだ。」
ユウリもといユリウスがそう言うと俺と彼女の右手が黒く光った。
これは……
カマセさんとの契約の印である赤い炎の周りを黒い線が囲む。
「これからよろしく頼む、魔王様。」
そう言ってユリウスはニッコリと微笑んだ。
テレテレッテッテー ユリウス が手下になった。
ステータス
ユウリ/ユリウス・ブラック
職業 勇者志望/ヒカルの手下
魔力属性 闇
得意武器 長剣
能力値 全体的に高水準
顔面戦闘力 不明(兜で見えない。)
匿名希望Hさんによると
「ソエルさんと張るくらい可愛いですね。マジで。」との事。
謎の多い生徒。
勇者大好きっ子。
この子に関してはこれから色々と明らかになってくる予定なので長い目で見守って欲しいっす。
ちなみにこの後、手下に敬語を使うのは可笑しいと言われて、ユウリさんに対してはタメ口をする事になった。
それから本当の名前については誰にも言わないで欲しいとの事なので、
「じゃあユウリさんで言いかな?」
「おいおい何でさん付けなんだ。それにせっかく名前を教えたんだユウリじゃなくて………そうだな、ユウと呼んでくれ。」
「ユウ……さん。」
「だから何故さんを付ける。呼び捨てにしてくれ。」
「えぇ!呼び捨てはその……苦手、と言うか……間をとってユウちゃんじゃダメ、かな?(モジモジ)」
「ユ、ユウちゃん……か。フ、フンッまぁいいだろう。」
と、赤面したユウちゃんは言った。
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