第14話 VSユウリ(後編)


「クックックッ、これでご自慢の剣はなくなったわけだ、さぁどうする勇者?」


膝立ちで呆然としているユウリを見下ろして俺は言う。


「それとも諦めて俺の手下になるか?」

不敵な笑みを浮かべて問いかける。


「誰が……誰がお前の手下などなるものか!」

半ばから千切られた剣を投げ捨て立ち上がったユウリは拳を振りかぶり殴りかかってくる。


おいおいおいまだやるのかよ。

仕方ない。


半身になり拳を握る。

(ソエルさん、お願いします。)

(分かりました。)

消費の激しい硬質化を解除して通常の魔力を纏った状態に戻す。

刺繍入り重りのおかげで魔力量のコントロールには慣れたものだ。

ただの魔力を全身に纏い、ソエルさんが魔力に能力付加をする。


基本的には防御重視だが、今は相手が魔法を使わないと分かっているため、速度強化と筋力強化が発動している。


「死ねぇぇぇぇ!!」

「フッ、遅いわ!!」


素の状態なら勝ち目が無いだろうがこちらは魔力で体を強化している。


カウンターで繰り出したヒカルの右拳は確実にユウリの拳よりも早く強くその兜を打つはずだった。


チッ、女の子……なんだよなぁ。


ピタリと兜の直前でヒカルの拳は止まり、代わりに自分の顔面にユウリの拳が炸裂する。


全体重を乗せた渾身の一撃は魔力を纏っているとはいえ、ノーダメージでは済まない。


ドガッ!と凄まじい音を立てて鼻先を殴られたヒカルは頭から真後ろに倒れる。


「ぐぅ………って~~~!」

鼻を押さえてうずくまるヒカル。


(大丈夫ですか!?)

(うう、痛いっすソエルさん(泣))

(良かった、鼻血は出てないみたいですね。)

(はい、大丈夫です。でもどうしましょう。あの人、諦める気は無いみたいですよ。)

(仕方ありません。こうなったら気絶させるしかないですね。面倒ですが、挑まれたらまた返り討ちにしてやりましょう。)

(マジですか。はぁ嫌だな~。)


「お前……何故……止めた?」

先程とは逆に仰向けで倒れている俺をユウリが見下ろしている。


俺は立ちあがり、答える。


「クックッ、ハンデだ。ザコ、次は当てるぞ?止めるなら今のうちだ。」


「そうか……」

そう言うとユウリはこちらにゆっくりと近づいてくる。


はぁ面倒だな~。てゆーかもう剣、折ったし棄権してもいいかな?

そもそも何で俺は真面目に決闘してるんだ?

もういいや殴られて棄権しよう。

(ごめんなさい、ソエルさん。)

(謝らないで下さい。そもそも私の冗談でこうなった訳ですし。)


至近距離までユウリが近づき拳を振りかぶる。

そして、無防備に立ったままの俺を殴………


らないのか?

目の前で拳が止まる。


「フンッもはや手を出す必要は無い。勝負はついている、という事か。」


ドカッと音を立て、ユウリが地面に正座する。


「クックック、ようやく諦めたか、選ぶがいい、服従か死か。ハーーハッハッハッハ!!」

良かったー!って良く考えれば契約ってどうするんだ??


「私が、魔王に服従するなどあり得ん。」

そう言うとユウリは足の付け根から5センチ程度の刃物を抜き、


「無念。」

勢い良く隙間が空いた首筋に、


て!冗談だろ!待て待て待て待て!!


グサリ!と刃が突き刺さった、

「って~~!!痛い痛い痛い痛い!!」


とっさに割り込ませたヒカルの両手に。


「お前は……何をしているんだ!?」

「それはこっちの台詞ですよ!あんた馬鹿なんじゃないですか!?」

痛みで魔王のふりどころでは無い。


「私が馬鹿だと?」

その声は怒りに染まる。


「馬鹿ですよ!どこの世界に自殺する勇者がいるんですか!?魔王は殺すだ何だ言っといてこれですか!

服従が何だって言うんですか!勇者なら隙を見て殺すなりどうにでもなるでしょ!?」

さっきまで自分で言っていた事と明らかに矛盾しているがそんな事を気にしている余裕は無かった。


「お前は」

「とにかく!!負けを認めるんならもういいですから!!これ以上俺に構わないで下さい!」


「ま、待ってくれ!」

「待てません!痛いんですよ!手が!アアアアアア!!痛い痛い痛い!!!」

とにかくじっとしていられずに刃から手を抜き、立ち上がろうと、

パシッ!

した手を捕まれた。


「~~~~!?!」

痛い痛い痛い痛いいたい?………あれ???痛く……ない。


見ると俺の両手を包むユウリの籠手が黒く光っている。


「痛みを麻痺させている。私の魔力では傷を治す事は出来ないから、終わったら保健室に行け。…………その後、Fクラスの教室にお前一人で来い。話がある。」


「は?」


ユウリは立ち上り、

「審判この勝負、私の敗けだ。」

そう言って闘技場を後にした。

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