第13話 VSユウリ(前編)


「フンッ逃げずに来たことは誉めてやろう。」


「クックック、剣を使うしか能のないザコ相手に逃げる必要がどこにある?」


「そう言ってられるのも今のうちだ。すぐに切り刻んでやる。」


「ははは。やってみろ。出来る物ならなぁ。」


 一見悪役どうしの会話に見えるがこれを喋ってるのは俺だ。

 今いるのは闘技場。あれから一週間、毎日魔法の練習をしていたが、ユウリは一度も教室に来なかった。


 俺達の噂を聞いて真実を知ったのか?と思ったらそんな事は無かった。


 つい昨日、いつものように教室に入ると果たし状が置いてあった。

 正直言えばもう少し練習してから挑みたかったが仕方ない。

 作戦は考えてあるしね。


 って事で今に至る。

 この話し方は、まぁ気にしないで欲しい。成りきってみたら以外と楽しかったってだけなので。


 ――――――――――――――――――

『さぁ!ついに始まります。本日のメインとも言える決闘が!!両者1年!まずはこちら、学歴、戦歴、一切不明、分かっているのは彼女が魔族だと言う事だけ!一体どんな魔法を見せてくれるのか!A-3ユウリ!対するは、今や一躍有名人、今年最初の決闘でやってくれたあの人!!別魔界の魔王の転生者(笑)にして魔力を奪う魔力を持つ者(笑)!!F-20新田ヒカルだ!!!』


「「「ウオオオオオオォォォォ!!!!」」」


 状況部の紹介に観客席が沸く。


「アハハ、いや~楽しみですね。あの勇者さんどうやって戦うんでしょう。」


「ZzzzZzzz」


「アハハハハ、会話にならないや。お、綺麗な人発見!

 お姉さ~ん!今一人??」


 ――――――――――――――――――

「向き合って!礼!!!構え!!始め!!!!!」

 審判ちゃんが決闘開始の合図をする。


 ユウリさんとの距離は100メートル。

 だが、カマセさんの時と違って今回は正真正銘、本気の決闘だ。

 むやみに突っ込む訳にはいかない。

 まずは魔力を集中。全身を固める。


「フンッ、私はお前と違って暇ではないのでな、来ないならこちらから行かせてもらう!」

 叫びながらユウリが駆ける。

 鎧を着ているにも関わらずかなりの早さだ。


 迎え撃つべく俺も構える。

(ソエルさんどうですか?奴の魔力は。)


(反応なし、完全に素の状態です。)


(なら予定通りDT作戦で行きましょう。)


(了解しました。ヒカルさんはDTっと、ふふふ)


(あ、あははは…………)


「何をニヤついている!変態魔王め!!食らえ!」


 目前に迫ったユウリが横凪ぎの剣を繰り出す。


 ギィィンッ!


 腰を落とし、力を溜めるような構え(スーパーサ◯ヤ人の構えと俺は呼んでいる)をする俺の右肩に当たった剣が弾かれる。


「チッ、守っているだけでは私は倒せんぞ魔王!」


 叫びながら鋭い斬撃が繰り返し打ち込まれるが俺の体を傷つけるどころか学ランにすら届かない。


 ユウリの剣を弾くのは、全身に纏った火の魔力を硬質火したまさに炎の鎧だ。

 いかに身体能力に違いがあろうと魔力を使うのと使わないのでは圧倒的に差がつく。


 勿論俺一人では魔力が持たないし、そもそもこれほど魔力を固くする事が出来ずに斬られて終わりだろう。


 だが、俺は一人ではない。ソエルさんの魔力があって初めて出来る事だ。

 この一週間の練習は全てこの魔力を硬質化させる練習ともう一つ、DTのTに関する練習をした。


 そろそろ頃合いか?


「いつまでそうしているつもりだ!!新田ヒカル!!勝つ気がないなら大人しく首を差し出せ!!この腰抜けがぁ!!」


 これが勇者志望の吐く台詞ですか……。


 ユウリは叫びながら何度も何度も剣を打ち込んでくる。


 熱くなりすぎて気がついていないようだ。


 俺達の炎はもっと熱いって事。


 ―――――――――――――――

「ハァハァ……くっ」

 攻撃の手は止めずにユウリは考える。

 おかしい。攻撃を初めてから少なくともまだ10分は過ぎていないはずだ。


 動き回る相手を追いながら戦っているならまだしも動かない相手に打ち込んでいるだけ。

 何故こんなにも消耗している。汗が止まらない。何故……


 何故だ、この熱気。この……熱気……?


 ―――――――――――――――――

 途切れる事なく続いた斬撃がピタリと止む。


 どうやら気づいたようだ。ほんのりと赤く染まった自らの剣を見つめるユウリ。

 縦線が何本も並んだ兜から覗く目は驚愕に見開いている。


 と、言う事で

「クックック、気づいたようだな。だが、もう遅い!!」


 数千度まで熱された手でユウリの剣の腹を掴み、

 捻り切る。いや、捻り溶かすと言った方がいいか。


「なっ……!?!?」

 驚きの声を隠せないユウリ。


 打ち込んだ剣が溶けてはいなかった事でまさかそこまでの高温だとは思っていなかったのだろう。

 残念ながら手の温度は特別だ。


 これがDefence(防御)してMelt(溶かす)作戦。

 略してDT作戦だ。

 発案者は俺だが、まさかこんな略称をつけられるとは思ってもみなかった。

 しかもソエルさんに……。


 まぁでも英語で略しただけで

 俺がDTだから、とか

 自分は動かないで相手だけ動いてお互い熱くなるからDTとか

 そんな卑猥な意味は微塵も無いはずだ。うん。絶対。きっと。

 そうに違いない。


「クックックッ、ハーーハッハッハッハ!!」千切れた剣の上部分を後ろに投げ捨て、魔王っぽい(俺のイメージ)笑い声を上げる。


「そんな………わ、私の剣が……」

 脱力し地に膝をつくユウリ。



「クックックッ、これでご自慢の剣はなくなったわけだ、さぁどうする勇者?」

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