第11話 鎧の魔族は勇者にあこがれる。


「………あのソエルさん、あの人知り合いですか?」


「いえ見たこともありません。カマセさんの友人でしょうか?」


 いや~友人はあり得ないんじゃないかな。


 現在俺とソエルさんは教室前、

 からは見えない角度で入り口にいる人を観察して小声で話し合っている。


「あれってどう見てもカマセさん……ですよね?」


「いえもしかしたら新手のドッキリかも知れませんし……」


 教室前には鎧を来た人が仁王立ちして、その前にボロボロになったカマセさん?が倒れている。


「そうだヒカルさん、カマセさんに合図を送ってみてくれませんか?」

 そう言ってソエルさんは左手で右手の甲をポンポンと叩く。


「あ、そうですね。やってみます。」

 俺の右手には炎を模したような模様がある。これはカマセさんとの契約の印で魔力の受け渡しや心での会話が出来る。


 右手に魔力を集中して、カマセさんに声をかける。

(カマセさん、カマセさん聞こえますか?)


(ヒカルさん!良かった今ちょっと大変な事になってるんです!お願いします!助けて下さい~~!!)


(落ち着いて下さい!俺達、今教室前の廊下にいるんです。何があったか説明してもらえますか?)


(えぇ!そこにいるんですか!?)


 カマセさんが顔だけ動かしてこちらを見る。

 目があったとたんに顔を輝かせる。

 と、


「おい、何を見ている。」

 鎧を来た人がカマセに話しかける。


「……あぁいえ巨乳なお姉さんがいたものでつい。」


「ほう、そうか。そんなに胸が好きかこの変態がぁ!」

 顔面を蹴られたカマセがズガァンと強烈な音を立てて壁にぶつかる。


「ぐ……うぅ」


「チッ」

 舌打ちをしてまた教室前で仁王立ちをする鎧。


(カマセさん!大丈夫ですか!?)


(あはは大丈夫ですよ。こうゆうの慣れてますから。それより落ち着いて聞いてください。ユウリさんの狙いはヒカルさんです。ソエルさんもそこにいるんですよね?)


(はい。隣に。でもちょっと待って下さい。名前を知ってるって事はカマセさんの知り合いなんですか?)


(知り合いと言いますか……元クラスメイトです。この前話しましたよね。いつも金属鎧をつけてる人がいるって。)


(えぇ!て事はその人Aクラスの人なんですよね。そんな人が何で俺をって………この間のアレですか?)


(……そうです。すみませんまさかこんな事になるとは。)


(いえ、気にしな………うんまぁそうですね。とはいえどうしましょうか。)


(ソエルさんだけ出てきてくれませんか?狙いはヒカルさんだけみたいなので適当な場所を教えればそっちに行くはずです。)


(分かりました。)


「ソエルさん、実はかくかくしかじかで。」

 カマセさんとの話を伝える。


「なるほど。そうゆう事なら私にも責任がありますね。では、行ってきます。」

 そう言うと躊躇いなく鎧の人、ユウリの前に歩みでる。

 ユウリは全身を鎧で覆い、背中に剣を背負っている。それだけ見れば中世の騎士と言った雰囲気だが。

 一つだけ、違和感は無いが通常の騎士にはあり得ないモノが兜から生えている。それは先端が外側に曲がった角だ。

 全身が銀色の鎧に包まれる中その角だけは、漆黒の輝きを放っている。



「お前は……新田ヒカルの契約者だな。奴はどこにいる?」

 ソエルさんに気がつくなりユウリは問いかける。


「………ヒカルさんなら今学園の外に出ていますが、あなたは?」


「学園の外だと?まぁいい、私はユウリだ。新田ヒカルはいつ戻る?」


「夜には帰ると言っていました。……そこでカマセさんが倒れていますが、あなたがやったのですか?」


「フンッ、お前には関係の無い事だ。そんな事より、お前は新田ヒカルの協力者なのか?それとも奴に脅されて仕方なく力を貸しているのか?」


「それこそ貴方には関係の無い事だと思いますが………もし、私が望んで力を貸している、と言ったら?」


「その時は、お前もお前の契約者同様に私の抹殺対象になるな。」

 兜に隠れた表情は見えないが冷淡な声には微かな殺気が含まれる。


「それは何故ですか?」

 まったく気圧される事なくソエルさんは聞き返す。


「簡単な事だ。私は勇者を目指している。だから、魔王は殺す。当然、そいつに味方する奴も殺す。ただそれだけだ。」


 何て言えばいいのか、何で勇者を目指してるのに魔法学校に通ってるんだ?、とか関係無いカマセさんをあんなにしといて勇者ってそれでいいのか?

 とか色々疑問だけど、あの角………この人明らかに魔族の人だよね。

 ソエルさんも返答に困ってるようだ。


「…………」


「で?お前はどちらだ?」


「その前に聞いても良いですか?」


「何だ?」


「まずヒカルさんが元・魔王だと知っている、という事はカマセさんとの決闘を最後までみていた、よろしいですか?」


「……それがどうした?」


「それならヒカルさんが言った事も聞いているはずです。争いを起こす気は無いと、それなのにあなたはヒカルさんを殺すのですか?」


「フン、何を言い出すかと思えば、当たり前だ。どれだけ言葉を並べた所で所詮、魔王は魔王。殺さなければならない。」


 うわーお。勇者ってより魔王殺戮マッスィーンって感じですね。


「あははははは、可哀想な人。どんな事情があるのか知りませんが貴方みたいな人にヒカルさんは倒せませんよ。」

 突然笑いだしたと思ったら、そんな挑発めいた事を言い出すソエルさん。


 いやいやなんで挑発するんですかソエルさん!


「フンッ、どうやら死にたいようだな。」

 言いながらユウリは背中の剣を引き抜く。


「試してみますか?」

 そう言ってソエルさんはどうぞ切って下さいと言わんばかりに両手を広げる。


「何を考えているか知らんが私は切ると言ったら切るぞ?」


「ご託はいいですよ。それとも私が怖いんですか?」


 ちょ!何を言ってるんですかソエルさん!

 っ、間に合えっ!!


「そうか、ならば死ね!!!!」

 上段に振りかぶった剣を勢いよく振り下ろす。

 研ぎ澄まされたその剣はソエルさんを音も無く一刀両断………


 する事は無く、ヒカルの頭上数ミリの所で止まっている。


「お、お前は……」


 体を大の字にしてソエルの前に立つヒカルは眼前の勇者を睨み付けただ一言。

「やめろ。」


「お前は……学園の外にいるはずでは……」


 困惑したようなその声には答えずヒカルは兜の中に見える目を睨み続ける。


「フ、フンッ、人間にしてはいい目をしている。ひ、一先ず今日は、これくらいにしておいてやろう。」


 そう言ってユウリは剣を背中に戻すとぎこちない足取りで歩いていった。


「えへへ、やっぱり来てくれましたねヒカルさん!ぎゅっ!て、あれ?ヒカルさん?ヒカルさん!?」


「あはは、気絶してるみたいですね。」と今まで気絶したふりをしていたカマセは言った。



 ――――――――――――

 Aクラスの練習場


 ガァン!!

 金属の拳と硬い壁がぶつかる音がする。

 ガァン!!ガァン!!ガァン!!同じ音が何度も響く。

「クソ!!この私が!ただの人間に!ただの人間の目に怯えるなど!!クソ!クソ!!クソォォォォ!!!」

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