第7話 初めてのチュウ(2回目)
「さてでは始めましょうか。」
「はい。よろしくお願いします!」
現在俺とソエルさんはお互いの両手を握りあって立っている。
何をしているかと言うと憑依の練習だ。
精霊と契約者は二人で一人、精霊が契約者に憑依して戦うのが基本だ。
勿論、一人で戦う事も可能だが、それをする者はまずいないだろう。
人間の場合は魔力が少なすぎて勝負にならない、
精霊の場合は、これは少し長くなるが、そもそも精霊は魔力ではなくマナという力の塊なのだ。
マナは精霊界にのみ存在する力でマナがない場所では3日と生きられない。
マナとはつまり魔力の上にあるとされるエネルギーであり(厳密には違うが間違いではない。)精霊が人間と契約を結ぶと言う事は、
人間の魂の一部と自身のマナの一部を入れ替える事である。
これにより人間は元々持っている魔力を覚醒させる事が出来、
精霊は人間の魂により人の肉体を得て、マナを失う。人の魂とマナが混ざりあい魔力に極めて近しいエネルギーとなる。
厳密に言えば魔力でもマナでも無い力だが。実質魔力と同じため、これについては魔力と同じ扱いをされる。
つまり契約を結んだ精霊は人の体を持った魔力の塊であるため、自身の体では大量の魔力を一度に使う事が出来ない。
軽い魔法などは使えるが、強力な物を使うと体が崩れてしまう。
そのため人間に憑依しての戦闘が基本になる。
で、どこにいるかと言うと
学園の上空にある練習場だ。
練習場とは言っても半径100メートルくらいの地面と学園に繋がる転移魔法の装置があるだけ。
周りは半透明の壁みたいなものがあって落ちないようになっている。
勿論壊れた場合はその限りではないがよほどのダメージが無いと割れる事は無いらしい。
これはFクラスの練習場であってクラスが上がるごとに地面の広さも壁の強度も上がるらしい。
魔界の町並みが一望出来てすごく綺麗だ。
が今は周りの景色に見とれている場合ではない。
目の前の美少女は目を閉じ、俺と両手を握りあっている。
キスした事もあるはずだがあの時は夢だと思ってたし、何より一瞬で気を失ってしまった。
今までの人生では考えられない程の美少女が目の前で目を閉じている。
落ちつけ!落ちつくんだヒカル!!
ここで変な気を起こせばお前は一生変態呼ばわりだぞ!!
何よりこれは憑依の練習だ!
心を一つにするんだろ!!
そうだ変な事を考えている場合じゃない。落ちつけ、イメージするんだ燃え盛る炎を。
炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎炎………
「あのヒカルさん」ソエルさんは目を閉じたまま俺を呼ぶ。
「え?あ、はい!何でしょうか?」
「やっぱりいきなり心を同調させての憑依は難しいみたいですので直接憑依でもよろしいですか?」
直接憑依……つまりは直接一つになる方法。俗に合体や結合と呼ばれるらしいって……
「ええええ!?!ちょ、直接憑依ってつまりその、あの!」
「やっぱり私とでは嫌ですか?」
「いやいやいや!!全然まったく嫌じゃないですよ!!むしろソエルさんは、その、俺なんかと」
最後まで言い終わる前にソエルさんが腕を引く。
「えへへ、良かったです。」
そう言って目を開けるソエルさん。
俺の目には彼女の赤い瞳だけが写る。
「んっ……………」
柔らかい感触、ソエルさんの温かさが伝わり、目を閉じる。
次第に熱は全身に伝わり、まるで自分の体が自分の物ではなくなったかのように熱くなる。
触れた唇、抱き締めた体の感触が消えて、目を開ける。
目の前にいたソエルの姿は無い。
これは、
(成功ですね。ヒカルさん。)
頭の中に直接ソエルさんの声が響く。何だか普段より明るい声だ。
「あははそうですね。」
冷静を装うが心の中はさっきのドキドキでまったく落ちつける気配がない。
今すぐ叫んで走り回りたい気分だ!!
(えへへ、いいですよ。叫んで走り回って。私も同じ気持ちです。)
え??何だ?今無意識にしゃべってたか??
(しゃべってましたよ。心の中で。)
いやいや心の中でしゃべるって…………て?これ聞こえてるんですか??
(はい。)
…………………
(私、キスするのは2回目なんです。ヒカルさんは何回目ですか?)
それは勿論2回目って…………ソエルさんも?それは……つまり
(良かった。ヒカルさんも契約した時が初めてだったんですね。えへへ、2回目も一緒に出来ましたね。)
「ウオオオオオオォォォォォォォォォォォ!!!!!!!」
(えへへ……)
俺は叫びながら走り回り、ソエルさんはずっと笑っていた。
―――――――――
30分後
「ハァハァゼェゼェ…………」
(お疲れ様です。準備運動はバッチリですね!)
「準備……ハァハァ…運動…ハァ…ちょ、ちょっと待ってて下さい。」
地面に座り込み息を整える。
(落ち着きましたか?)
「ふぅ……はい。もう大丈夫です。」
(では魔力をコントロールする練習に入りましょうか。)
「はい。よろしくお願いします!!」
俺は立ちあがり、空に叫んだ。
―――――――――――――――――――――――
(お疲れ様でした。今日はこのくらいにしておきましょう。)
「ハァ…ハァ…りょ、了解です。」
ドサリ、と仰向けにたおれる。
あれからどれくらいの時間が経ったのか周りはすっかり暗くなっている。
体の熱が引いたと思うと横に炎が燃え上がる、それは段々と人形になり、色が付き、形が整って、
「立てますか?」
ソエルさんが手を伸ばす。
「あははすみません。ありがとうございます。」
手を取り、立ち上がる。
「すっかり暗くなってしまいましたね。帰ってご飯にしましょう。」
「ちなみに今日のメニューは何ですか??」
「今日はヒカルさんの大好きな人面鳥タナカの唐揚げですよ。」
「唐揚げですか!いいですね!」
魔界に来て早3週間。毎日ソエルさんにご飯を作ってもらっている俺はすっかりこっちの料理に慣れた。
基本的にどれも見た目はえげつないが味は美味しいのだ。
例えば今言った人面鳥タナカは
え?聞きたくない?あははですよね。
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