第5話 この日見たソエルさんを俺は忘れない。


「いやいやいや!!!Aの1ってつまり一番魔力量が多いって事ですよね!?」


「はい、そうですね。」さらりと言うカマセ。


「エーット魔法が使えないってどうゆう事ですか??」

 この魔界では魔法は誰にでも使える物であって生活の中に当たり前にあるものなのだ。

 人間界で例えるなら電化製品が魔法、電気が魔力みたいな物で無くても生きていけるが無いと相当不便なはずだ。


「まぁそのままの意味です。あ、でもまったく魔力を扱えない訳じゃないですよ?」


「はあ。」


「見ててくださいね。ハ!」

 そう言ってカマセは立ち上がると机に立て掛けてあった木の杖を両手で握り何やら小声で呪文のようなものを唱える。

 すると足元が光だし、それはやがて巨大な魔方陣へと、


「ってちょ!カマセさん!使えるじゃないですか魔法!危ない危ない!!」

 慌てる俺を無視してカマセはなおも魔力をこめる。


 光が丸くなり、カマセの周囲に無数の光の玉が浮かび上がる。


 魔法が使えないどころかそれはどう見ても敵ならボス級の魔法使いにしか見えない。


「うわー!!!ストップ!!ストップ!!待ってください!!待って下さい!!」


「ヒカルさん少し静かにしてくれませんか?」

 この場にいながら動じていない、どころかさっきからずっと何かの本を読んでいるソエルさんはそんな場違いな事を


「何でそんなに落ち着いてるんですか!?ヤバいですよソエルさん!なんだか強そうな魔法が!!」


「??あれはただ周りを照らすための魔法ですよ??と言うか何で彼は魔方陣を??」


「は?」周りを照らすための魔法??


 カマセの方を振り返ると

「あははどうですか?これが僕が唯一使える魔法です。」

 そう言ったカマセの足元には魔方陣はもう消えていて周りに何個かの光の玉が浮かんでいる。


「唯一使える魔法って………あの、何で???」

 何でこれしか使えないのか??

 何で戦闘科に入ったのか??? 


「失礼ですが新田ヒカルさん、でよろしいですか?」

 そう言われてまだ自己紹介していなかった事を思い出す。


「はい。新田ヒカルです。こちらは精霊のソエルさん。よろしくお願いします。」ペコリと頭を下げる


「はい。よろしくお願いします。」

 カマセは丁寧に頭を下げる。


 ソエルさんは俺達をガン無視して本を読んでいる。


「良かった。最悪Fクラスの人なら誰でもいいと思ってたんですが、出来ればあなたが一番適任だったので。」


「適任??ですか??」


「はい!さっきも言いましたが僕と決闘して欲しいんです。そして勝った後である事をして欲しいんです!」


「ある事?」


「僕の魔力を奪うふりをして欲しいんです。」


「魔力を奪うふりって………魔力を奪うなんて事出来るんですか??」


「まぁ無理ですね。」


「じゃあ嘘だってすぐにバレるんじゃ??」


「ですが不可能ではありません。魔力を奪う魔力は存在します。エーット失礼ですがヒカルさんは魔力についてご存知ですか?」


「あー、はいソエルさんに基本は教えて貰いました。4属性に分類されるとか、得意な魔法は個人で変わるとか」


「そうですか。では特質魔力についてはまだご存知ないですね?」


「特質魔力??はい、分かりません。」


「簡単に言えば4属性のどれにも属さない、または複合的な魔力の事です。例えばさっき言った魔力を奪う魔力は4属性の枠から完全に離れていますし、純粋な魔族のみが使えるといわれる闇属性は地属性が強めに作用した、4属性複合といった感じです。」


「なるほど、分かりました!でも多分俺の魔力は…………」

 ソエルさんによれば俺の魔力はただの火属性。

 残念ながらそんな特別な力は俺には無い。


「大丈夫ですよ。ただの演技ですし、魔力量は図れても、その人の持つ属性までは分かりません。それにあなたは人間界から来たばかりでまだ誰もあなたの事を知らない!

 精霊の契約者に選ばれた上に特別な魔力を持っているなんてカッコいいじゃないですか!?」


「はあ。そうですね。」

 チョロそうだからって理由(真偽不明)で契約者に選ばれて、特別な魔力どころか変化系ですらない純粋な火属性を持つ俺はカッコわるいですね。はい、そうですか。


 熱く語るカマセとは反対に俺は言われてもいない事でちょっとへこんだ。


「でも、どうしてわざわざそんな事をする必要があるんですか??戦闘科に入ったって事は魔法使いを目指してるんじゃ??」


「違います!僕は魔法使いになんてなりたくないんです。本当は普通科に入るはずだったんですが、試験の魔力測定で………はぁ昔からなんですけど誉められると調子に乗ってしまう癖があって。」


あー何となく分かってきたゾ


「すごい魔力だ!一年の受験者で一番だよ!君、魔法使いになる気はないか!?なんて言われちゃって、それでつい。」


「魔法使い?フッ弱いものイジメは嫌いでな」

「師匠に誓ったんだ大切な者を守る時意外、魔法は使わない。ってね。」

顔に手を当てものすごいキメ顔でカマセは喋る。


イタタタタ。胸が締めつけられるよ。しかもブサイクじゃなくてイケメンがやるから余計痛痛しい。


「………クッ………フフ……フ」

………後ろをチラっと振り返るとソエルさんが本で顔を覆って肩を震わせている。


「師匠だって!?この魔力量、まさか君は伝説の!?あの人の……弟子??」

段々と熱が入ってきたカマセは大袈裟に驚くふりをする。


「おっと、つい口を滑らせちまったな。今言った事は忘れてくれ。でないとアンタ達を始末しなくちゃいけなくなる。」


「そんな、待ってくれ!お願いだ。戦闘科に入ってくれるだけでいい!君の魔力量なら最初からトップでいられる!強い力が必要なんだ!」


すごい入り込んでるが本当にこんな事言われるんだろうか??


「はぁまったく。仕方無いこれも力を持つ者の運命さだめか。頭を上げなよセンセイ、これから世界のために戦うんだ、俺達には上も下も無い。だろ?」


ウオオォォォォォォォ!!!

ウオオォォォォォォォ!!!

心の中で叫ばないと笑っちまいそうだ!!!

ウオオォォォォォォ!!!!


俺は何とか堪える、だがソエルさんは……


「アーーハッハッハッハッ!!さ、さだめアーーハッハッハッハッ!!!師匠に誓ったんだ大切な者を守る時以外、魔法は使わない。ってね。ブーーーーーー!!アーーハッハッハッハッ!!!」


バンバンと机を叩き、ものすごい大笑いを見せる。

何というキャラ崩壊だ。

恐るべしカマセ。


「あはは大丈夫ですか?彼女?すごい面白い本なんですね。きっと。」



「あははそうですね。うん。」

イヤお前だよ!!!!!

お前が大丈夫か!?!?

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