第3話 マジメなお話
「ではそろそろ真面目にお話しましょうか。」真剣な顔でソエルさんは言った。
今俺はソエルさんとテーブルを挟んで向かい合って座っている。
テーブルの上にはお茶?(紫色)が2つ。
朝食を終えてソエルさんが片付けをしている間(手伝いをしようとしたら断られた。)ほっぺをつねったり、腕をつねったり、色々したがやっぱり夢じゃないみたいだ。
まぁもし夢だったとしたらさっきの料理が自分の空想という事になるし、それはそれで心配になるが。
「はい。お願いします。」と、俺。
「まずはご契約ありがとうございます。」ペコリと頭を下げるソエル。
何か保険に入ったみたいな台詞だな。
「いえいえこちらこそよろしくお願いします。」
つられて俺も頭を下げる。
て!いやいやいいのかヒカル!?まったく状況が分からないのに。魔法少年だぞ、魔法少年!
16になって少年ってどうなんだ?いや確かに青年って感じではないけどさ。
何だ俺は?魔法男子?魔法高校生……いや、魔法使い(16)……
いや呼び方以前に魔法少年て何??
ハ○ー・ポッターか??
「あの!それで魔法少年って何なんですか?」
「う~ん魔法少年と言うのは正確では無いと言うか………、私が何て言ったか覚えてますか?」
「はい、確か「私と契約して魔法少年になってくれませんか?」って。」
「そうです。その、よくあるじゃないですか。魔法少女のお話で。小動物みたいな謎の生物が僕と契約しませんか?ってやつ。」
まぁ何となく分かる。小さいとき見てた『カードバトラー桜木ちゃん』は関西弁でオレンジ色の変なのが言ってた気がするし、中学の時流行ってた『魔法少々マジ☆マゲ』は確か白い猫っぽいのが言ってたはずだ。
「それが何か関係あるんですか??」
「えへへ、まぁ言ってみたかっただけです。ヒカルさんもテンション上がると思って。」
「あ~ナルホド……」
大人っぽい人だと思ってたけど魔法少女とか好きなんだろうか?
「あんまり響かなかったみたいですね………
まぁそれはそれとして、魔法少年とはつまり、私と一緒に魔法学校に通ってほしいんです。」
「魔法学校??」やっぱりポッターなのか?
「はい、魔法学校です。その名の通り魔法について学ぶ学校の事です。」
まぁそれは分かりますが、
「それって俺は必要なんですか??」
「はい、私達精霊は波長の合う人間と契約を結ぶ事で初めて魔力を使えるので。」
「え?精霊??」
すげーサラッと言ったな。まさかの人外宣言、とはいえさっきの魔界カジキサンマルクのおかげ?であんまり驚けないな。
「はい。今の見た目では分からないでしょうが、私は火の精霊なんです。」
「火の精霊……」サラマンダーとかイフリートみたいな奴か。いやでもゲームとは違うのかなやっぱり。
「でも何で俺だったんですか?波長?の合う人間なら誰でも良かったんですよね??」
「それは勿論ヒカルさんがチョロそ………いえ、とても素敵な方だと思ったので。」ニコニコとしながらソエルは言った。
「今チョロそうだからって」
「言ってません。」
………食い気味に言いますね。
「あははそうですか。でもソエルさんみたいに綺麗な方に素敵なんて言われると嬉しいですね。ちなみにどこがお気に召したんですか?」
「綺麗だなんてそんな………、
失礼ですがヒカルさんの事は少し調べさせて頂きました。本名新田ヒカル現在16歳、日本人、中学三年の時、母親が事故で死亡、その後、父親は行方不明になる。親戚や兄弟はおらず事実上天涯孤独となり、以降学校には行かずアルバイトをして生活する。特別親しい友人も恋人もいない。」
淡々と言うソエル。
まったく質問の答えになってないがそんな事より
「……随分詳しく調べたんですね。一体どうやって??」
「魔法ですよ。」
今まで目を合わせたままだったソエルが視線を外し下を向きながら言う。
「…………そうですか。」
「……気を引くために言うわけではありませんが私も家族がいないんです。」
相変わらず下を向きテーブルを見つめたままソエルは話し始めた。
「…………」俺は黙って話を聞く。
「ヒカルさんと違って私の場合は最初から両親は居ませんでした。ですが兄が一人いました。」
「兄は私よりずっと年上で、小さいときからずっと面倒を見てくれた兄を私はとても大事に思っていました。」
「……………」
「ですが今から10年前、私が6歳になったある日、当時16歳だった兄は何も言わずに姿を消しました。」
「ただ1つ残された書き置きには【俺にはやらなければならない事がある。お前を置いていく事を許してくれ。そして忘れないでほしい。この世でただ一人血の繋がった兄は、いつでもお前の事を想い、愛していると。】」
「私は……私も兄を愛しています。兄がいなければ今の私は居ないんです。やらなければならない事とは何なのか、それは分かりません。でも、私は兄と一緒にいたい。兄に会いたいんです。」
「お願いします。私に力を貸して下さい。」
下を向いたままさらに頭を下げるソエル。
何故俺を選んだのか?その答えは分からないが、今の話を聞いて断る理由は、俺には無かった。
同情でも哀れみでも無い。俺には文字通り"何も無い"からだ。
それは生きる理由であり、望み、夢、願い。
母が死んだからでも父がいなくなったからでもまして親友や恋人がいないから……ではない。
勿論、生れた時からではない。幼稚園や小学校に入るぐらいには人並みに『戦隊ヒーロー』とか『電車の運転士さん』みたいな漠然とした夢はあったはずだ。
でも………いつからなのか、自分でもはっきり覚えていないが、現実を知る時は誰にでもくる。
中学生になった時?学校でイジメられた時?家で殴られた時?好きな子にフラれた時?それとも誰も助けてくれないと分かった時?
俺には分からない。それがいつだったのか。
でもだからこそ助けたいと思った。もし"何も無い俺"でも役に立てるなら、俺の力を必要としてくれるなら。
「俺なんかで良ければいくらでも力を貸しますよ。」
「えへへ、やっぱりチョロいですね。ヒカルさん。」
顔を上げたソエルさんはそう言って満面の笑顔を浮かべる。その顔に悲しみは欠片も無いが、
テーブルの上に落ちた無数の涙は隠しようが無かった。
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