第6話 ショッピングはスリーマンセル
葉上さんとお付き合いをすることになったという事で話が終わり今はもう夜の七時。
そして、葉上さんと執事の蒿田さんが帰る為玄関まで見送る所です。
外は家や街灯以外は闇の中で人一人いない。
既に家に帰って食事やらテレビをしているのでしょう。
こんな時間迄長引いたのは母さんと妹が間に入ったのが原因な気がするけど、言ったらその内の一人にぶっとばされてしまいそうなので口は閉じておきます。
「皆様、本日はご迷惑をおかけしました」
「いいのよ江菜ちゃん。それより息子のことよろしくね」
何か結婚前提になってる。しかも数時間で呼び方が江菜ちゃんに変化してる。
「蓮地さん」
「はい?」
「明日、何かご予定は入っていますか?」
「明日は幼馴染み二人と出かける予べ!…」
いきなり頭上から母さんに一発殴られてからチラッと見ると「わざとか?」と言わんばかりにメンチをきった表情をなされておりました。
殴られなくとも分かってますよ。実感湧かないだけで。
言いかけましたが。
「も、もし良かったら葉上さんもどうですか?良ければ二人にも紹介したいです」
流れ的デートの誘いなんだろうけど。実感無さすぎて普通に答える所でした。
「……そうですね。蓮地さんの御友人にもお会いしてみたかったので嬉しいです」
今僕に向ける葉上さんの笑顔が可愛いかった。可愛いとは思いますよ。恋愛感情がないだけで。
「では明日お会いしましょう」
その前に連絡手段をという訳で連絡先交換しないと。
「葉上さん、あのCOMINEやってますか?良かったらアカウントの交換良いですか?あと明日待ち合わせの場所と時間とか」
とても嬉しそうにする葉上さんとCOMINEのアカウント交換をして果物をぎゅっと凝縮したできたフルーツジュースのような1日が終わり、お付き合いが始まる事となりました。
その後、晩御飯やお風呂を済ませ部屋のベッドでだらけました。
「自分の恋愛。いい頃合いなのかな」
と呟いていると
コンコンコン
「お兄ちゃん、今大丈夫?」
鈴だ。普段は遠慮無しに抱きつこうとしたりするけどしっかりする所はしているのです。
「うん大丈夫だよ」
鈴が入ってくる前に体を起こしてベッドに座った。
カチャ
入ってきた鈴は風呂上がりで軽く髪が濡れていました。妹といっても中学三年の女の子。
その妹が春でも肌寒いこの時期に、生地がモコモコのパーカーで、下はショートパンツという格好。そのせいで白く綺麗なスラッとしながらもムチッとした太ももが見えています。
妹は共学に入れば男子の的になりかねない美人さん。僕と違ってね。
僕の右隣に座った瞬間フワッとシャンプーの良い香りがしました。
因みに豆知識として女性は右寄りに男性の方にいると可愛く見えたり、綺麗に見えるとか。
とりあえず落ち着こう。冷静に考えればシャンプーは同じ物。
つまり、僕も今は同じシャンプーの香り。
落ち着いた所で鈴の方に顔を向けると風呂上がりで火照るも暗い表情をした顔をしていました。
鈴にツンデレみたいなことはありません。故に聞きやすい。かといって聞いてあってるかもわからない。
でも、心配してくれている事は分かります。
「鈴、心配してくれてるん、だよね?」
鈴は無言でコクンと小さく頷いた。
「確かにね、あの人綺麗だし可愛いし、優しいそう。お兄ちゃんを思って怒ってもくれた。それでも、怒るのは許せないけど」
許せないという気持ちは一瞬でまた暗い表情に戻って話を続けていきます。
「さっきも言ったけど…私はお兄ちゃんが自分の恋に目を向けてくれるのは嬉しかったよ。昔、お母さんやお父さんがたまに好きな人できたか聞いてた時期あったよね。その時顔には出てなかったけど様子がいつもおかしかった、から」
雰囲気だけで興味が無いことに気付くとは鈴、凄い。
中学の頃。
お付き合いする事になった依頼人と交際相手をみても恋愛がどういうものかという好奇心が強くなるだけで自分がそうなりたいとは思わない事に気づいた。
だから好きな人はいる?と言われてもどうでも良かった。
でも母さん達が知ったらと思うと辛かった。
「だから、きっかけを作ったあの人には感謝してる。でも本当は私…私がお兄ちゃんに目を向けさせたかった!」
鈴奈がブラコンでそれ以上の気持ちを抱いてるのを中学一年の時に気付かされた。
妹だとしても気付いていながら返答できない自分が許せない。
でもそれを分かってるから、恋愛に興味が無い事を知ってるからか鈴は何も言えず言わずにずっと心配してくれていたんだ。
「ありがとう、鈴。じゃあ何か困った事があったら鈴にも相談するよ」
「うん!私はお兄ちゃんの恋愛助っ人人だね」
鈴はニッコリと凛とした目でいつもの太陽みたいな笑顔で嬉しそうに言いました。
元気になって良かった。
「もう寝よ。鈴も明日から学校だし」
「うん。…あ、あのねお兄ちゃん」
鈴は突然両腿の上で両手を合わせてモゾモゾと何言いたげにしています。この流れだと多分一緒に寝たいというパターン。
「今日は一緒に寝たいかな」
やはり。でも流石に駄目な気がと腕組みをして思案しながら閉じている目を片目だけ開きチラッと見て写るのはモコモコのパーカーながらにわかる小さすぎない胸を寄せてジッとこっちを見ています。キリッとした大きな目は可愛さを感じさせる。そして妹の見つめ方に僕は
「いいよ。今日は一緒に寝ようか」
負けました。
◇◇◇
「浮気者」
「雪さんや、それはないのでは?」
昨日の事を話した後の第一声が『浮気者』とは傷付くよ。
翌日の放課後、僕と雪は昨日行った学校近くの喫茶店、場所は昨日と同じ窓側のテーブル席。
樹は今、放課後になった途端同じ方向に帰ろうとたくさんの女子に一緒に帰ろうと迫いまわされているところだったりします。
「だって、昨日付き合あってすぐ鈴奈ちゃんに興奮して、そのあと誘惑に負けて一緒に寝るって浮気の他に何がある!」
「興奮してないし、誘惑にも負けてない!もしかして、怒ってます?」
「怒ってる」
そう言って雪はプイッとそっぽを向いた。
正直な不機嫌態度はいつもの事でそこが雪の魅力なのかなとは思う。
可愛いとか言ったら何が返ってくるか分からない。
カランカラン
「はぁ、はぁ」
「こっちこっち。いらっしゃい樹」
見た
「お疲れ様、樹」
「じょ、女子がうぜぇ」
また口が悪くなってるよ樹殿。というよりはこの喋り方が本来の樹なんです。どういう訳かこの喋り方を出さないようにしていて追い込まれるとたまに出ることがあります。
「…で、話したいことって何だよ蓮地」
「その喋りでいくの?」
「たまにはいいだろ」
八つ当たり。
そのままの状態の樹はまだかまだかと話を聞き直したそうな雪に改めて昨日の事を話しました。今日来る事含めて。
「唐突だな。それなら朝に教えろよ。自分の恋愛に興味無い蓮地がって常々思うけどよ。そこは彼女さんと同意件だわ。とにかくおめでとう」
樹が僕の首に腕を回して脇腹にちょっかいをかけながら嬉しそうに言ってくる。
自然に「お前はこうでもしないと恋愛できない」って言われた気がする。
でもそれは心配してるともとれなくもないかも。
「で、いつ来るんだ?」
「もうすぐだと思うよ」
カランカラン
噂をすれば何とやら。
「葉上さん。こっちです」
手を振る僕を見つけた葉上さんが歩いてくるその姿は本当にお嬢様漂わせる気品ある歩き方。
何度見ても白ブレザー制服にカッターシャツの襟部分とスカートは白黒のチェック柄のは高級感溢れています。
「蓮地さん、遅くなりました」
葉上さんは頭を下げて謝罪をするも集合時間は十六時三十分と送ったので遅れてはいないんだけど、僕らが既に来ていたので謝ったってところかな。
「大丈夫ですよ。こっちが早く着いてるだけなんで。とりあえず席に座ってください
葉上さんは雪の隣に座ろうしたら樹が席を譲って僕の隣に座ることになりました。
「お前には仕方のないことだ」
「うっ。流石幼馴染み」
「何年やってると思ってる」
「蓮、早くちゃんと紹介してよ」
「う、うん。この人が葉上江菜さん。い…僕の彼女になった人です」
複雑だぁ。恥ずかしいし、本当に彼女として紹介してもよかったのか今でもわかりません。握り拳の手の中が汗ぐっしょりです。
「良く言った」
「誉めてつかわす」
「「そして一応とか言ってたら殴ってた」」
この幼馴染二人そんな暴力的行為をしようとしてたの。
言いかけたけど言わなくて良かったぁ。
「それで君たちは何様かね?」
「「幼馴染み様」」
「……それじゃあ葉上さんからも」
「「スルー!?」」
「はい。ご紹介にあずかりました葉上江菜と申します。昨日から蓮地さんとお付き合いをさせていただいてます」
葉上ノリ良いですね。
そして、昨日変わらず優雅な笑みと綺麗なお辞儀をして二人に挨拶をしました。
僕も昨日そうだったけど二人も軽い自己紹介で挨拶する姿に見とれていました。
その後樹と雪に葉上さんのお父さんが有名なゲーム企業会社リーフリンクの社長だという事を聞いた瞬間と目がポーンと飛び出ると思うほどに見開いてた。
樹は次回作のことをグイグイ聞いてきたり、何故か雪は小刻みに震えながらずっと黙り込んでいました。
あんな二人は初めてか久しぶりに見ました。
「なな、何か、凄い彼女ができたね」
雪はコーヒーを飲んで平然をよそおうとしてるけどカップ持ってる左手がまだ震えてる。
「とにかく…こっちも紹介しないと。俺は凉衣樹です。下の名前で良いですよ」
「はい。こちらこそよろしくお願い致します。樹様」
「い、樹でいいですから。何か歯痒いので」
樹が女子に遠慮を見せていました。 珍しい、って表情をしていたのか一瞬睨まれた。
「分かりました。樹さん」
「私は小羽織雪。雪って呼んで。私は江菜って呼んでいい?」
「はい。よろしくお願いします、雪」
二人は困った時には凄く頼りになる。でも何より三人仲良くできそうで良かった。
「蓮、私達を遠い目で見ていたでしょ。この自覚無し」
「え?ごめん」
「雪、遠い目とは?」
「えっとね…例えば私とか樹が新しく仲良くなった友達ができる。そしたら距離置くような目をするの。蓮自身が言うにはその友達と仲良くなれるように応援するようなそんな感じらしいけど」
そういう風に目で見ているつもりはないんですが雪が言うにはそうらしいです。
「蓮はもう少し自分の事に向き合う事…はこれからするから、これも課題の一つな」
「はい、了解」
「さて、ここにずっとていうのも良いけどそろそろ行こうよ」
今日は一ヶ月前に実乃鐘高校から一駅先の所にできたショッピングモールに行くのが目的でここに集合したんでした。
「それでしたら。私がお連れしましょう」
「「「うあっ!」」」
「よ、蒿田さん!?」
いつからいたのか葉上さんの執事の
一体何者。
「凉衣様、小羽織様初めまして。私はお嬢様の執事をさせております。蒿田と申します」
「「よろしくお願いいたします」」
二人は本物の執事にご執心で目をキラキラと輝かせていました。
「言葉と執事がますますお嬢様って感じだね、江菜」
「父様と母様が心配してのことなんです。自分達は必要ないと言って執事を雇うこともしないのにです。
あと、言葉使いはもう癖みたいなものです。確りとした言葉使いではないですけど」
葉上さんの両親も親馬鹿そうだなと思いながら結局、話込んでしまいそうなので無理矢理本来の目的であるショッピングモールに行く事に話を戻しお言葉に甘えて葉上さんの乗ってきた四人乗りの
珍しいので樹も雪も僕も車内を眺めながら新しく出来たショッピングモールに向かいました。
座り心地は最高でした!
◇◇◇
蓮地さんが雪と樹さんに彼女と紹介してくださいました。一応ではなく。
当然の事なんですけどね。当然の事なのですけれども実際耳にして気持ちが込み上げて抑えきれませんでした。
えへへ。
蓮地さんの幼馴染の雪と樹さんはとても気さくで個性豊かそうです。
樹さんはとてもモテていそうなクールな容姿です。でも、とても楽しそうな方です。
雪とはとても仲良くなれそうな感じがします。
たまに蓮地さんをよく見ていのでもしかすると雪も蓮地さんが好きなのでしょうか。
彼女として蓮地さんは渡せません。
ですが、蓮地さんにはもっと自分の恋愛に向き合っていただきたいです。まだ憶測でしかありませんがもしそうなら…
話は変わりますが蓮地さんは彼女の私を葉上さん、葉上さんと呼ぶのです。私も江菜と呼んでほしいです―
『江菜、早くショッピングモールに行きましょう』
『雪と樹さんは?』
『何言ってるんですか。二人きりに決まってるじゃないですか』
『二人きり』
―いけません。妄想に入り込んでしまいました。
蓮地さんがいけないのです。
いくら自分の恋愛に興味なくないと仰っても下の名前で呼ぶのは彼女関係ない筈です。
只呼んでいただくだけでいいのです。
私には『様』ではなく『さん』で呼んでほしいと仰いましたのに。
さてどう呼ばせましょうか。
◇◇◇
ショッピングモールに到着。
建物は三階建てで横広く縦長に高い建造物で外は芝生の広場とオープンカフェテラスの店あって一ヶ月経過しても沢山の人がテラス含めて来ている。
カフェテラスには女子も沢山来ているしデートスポットにも持ってこいかもとメモをしていると。
「蓮地さん何をなさってるんです?」
「恋愛の助っ人することになったときデートスポットに行けるかなと思ったので。でも学校から一駅先と身近なと―」
「蓮地さん」と不機嫌な声で言いながら口を柔らかな指で押し止められそのまま残りの近距離まで縮めてくる。
その葉上さんはムッとした表情で見つめてくる。
昨日デートのする為に予定を聞いてきた筈。なのにさらっと予定があるからと言って気づかずに断ってしまったのに…。
自分が含まれるとどうしても鈍い。
「葉上さん、怒ってますよね」
「怒っておりません」
それにしては顔は笑ってるのに心は笑ってない、目が笑ってない感じがするのは気のせいですか。
「自分の恋愛に興味が無いことは承知してます。他の方の恋愛にうつつを抜かしている事も気にしていません」
「めちゃくちゃしてる!」
「しておりません」
「もし不機嫌ならどうしたらいいですか?」
「蓮地さん次第、でしょうか?」
「………今度デートに、その、行くというのはどうですか?」
「……まあ最初ですし、そういうことでしたら今回の事は不問にいたします」
やっぱり怒っていた葉上さんの不機嫌な表情は頬を少し赤くしながら柔らかな笑みに変わりました。
因みに怒った時は何か謝礼をする。行動でもプレゼントでも。
葉上さんはデートで許してくれましたが次はないと考えて今回のようなことは控えるようにしよう、かな?
「二人とも早く」
「ごめん樹!葉上さん行こ」
差し出した手を取ってくれた時の葉上さんの手は柔らかくて温かくて優しい気持ちにさせられる感じがありました。
僕はその手を引っ張り樹達の元に歩いている途中
「蓮地さんやはり許せないので。一つお願いしても?勿論デートはしていただきます」
「…何ですか?」
人混みもあって話しにくいので一度止まって少し広々とした所で葉上さんのお願いを聞くことにしました。
一体何をお願いされるのか。
「私の事も下の名前で呼んでください」
確かに葉上さんの事は上で呼んでる。でも、昨日今日の関係。
でも、葉上さんは僕を下で呼んでる。
それだけ葉上さんは呼んでほしかったのかな。まあ好きなんですもんね。
「わかりました。…江菜さん」
「駄目です。江菜と呼んでください」
葉上さんじゃなく、江菜さんは両手を後ろに回して最後にニコッと笑いかけて言った。
これは惚れてなくてもドキッとしてしまいそう。
「じゃあ、行きましょうか。江菜、さん」
「…わかりました。少しずつ慣れていってください」
不服ですよね。
(すいません、江菜)
とりあえず心の中で許してください。
モール内はとても広く真ん中は三階までの天井が見る解放型でより広く感じさせる構造。
モール端に店が沢山並んでいるので全部は回れないので今回は僕と樹の男子組は3階にあるCDショップ、江菜さんと雪の女子組は2階から1階と下りながらファッション店を回るというどちらかの案を採用する事になりました。
決め方はジャンケン。
結果は樹がグー、雪がパーで男子の負け。ジャンケンって性格がでるのかな。
「ごめん。今回は長くなる」
「うん、頑張ろう樹」
僕と樹はどこかこの場所ではない遠くを見つめてた。
勝者の雪は笑顔で軽くスキップしながら数歩、前に進むとくるっと僕達三人の方に振り向く。
「それじゃあ、ファッション店に行くからね」
「楽しみです」
「「へーい」」
というわけで女子組のファッション店に回ることになりました。
雪隊長により雪、樹、江菜さん、
「それにしても何で上から回るんだよ」
「あ、それは―」
「調べによると既にここのファッション店の季節ものは下の階が今季、上が来季になってるんだ。女子狙いの季節先取りファッションだね。で、今春のファッションセールが上の階でやってるんだよ。最初に目に入りやすいからね」
「成る程。サンキュー蓮地」
「あぁもう、れーん!」
「…江菜さんは服どうしてるんですか?」
「聞けー!」
いつものことなのでとりあえず無視です。
「ふふ、私は自分で選んで買うこともあれば母様が買ってくることもあります」
「じゃあ今日は皆と楽しくやりましょう」
「そうですね。ただ、できれば」
ああ、なるほどと思いました。これはぼくでも分かる反応。
「雪、樹、一階の方は江菜さんと二人で回っていい?」
「大丈夫だよ」
「俺も構わないよ。楽しくしてこいよ」
「うん、頑張ってみる。江菜さんまだ少ないかもですが、夏物の方は二人で回りましょうか」
「はい!宜しくお願い致します」
エスカレーターで顔は見えませんでしたが、樹がグッドと親指を立てた。
エスカレーターを降りた先も大勢の人でいっぱいです。
「下もそうだけど賑わってる。おっ!本当にセールしてる店がいくつかある」
「とりあえず、今回私達はセールの方を回る。良いかな男子二人」
「「オーケー」」
「じゃあ、すぐそこのサンローズっていう所に行く?」
「もぉもぉ」
提案した樹の態度によってだんだん牛になってきた雪。
自分が提案したいのがよく伝わってきます。
「じゃあさ、雪はどこに行きたいの」
「今日が初めてだしブラブラ〜と」
「それは今度でいいんじゃないの」
「わかってるわよ。樹のバーカ」
遂に八つ当たりで何故か樹に一発蹴りを入れました。
僕じゃなくて良かったです。
「せっかくですし、サンローズに行ってみますか?」
「時間調整しないといけませんね」
方針が決まったので樹には一時退場してもらいましょう。
「ではまず樹はそこの女子達何とかしてから合流」
「え?そこの?」
僕が指差した先には同じ実乃鐘の女子が数人集まっていて目の当たりにした瞬間樹の顔は青ざめた。
失礼な奴ですな。
「「「樹くーん」」」
「うぉぉぉい!」
樹は昨日今日にも関わらず高校でも大人気となりました。その為僕達のように放課後に来ていた実乃鐘女子に追いかけられて姿を消した。
「いってらっしゃーい」
「それで雪どうする?」
「別に私達だけで回ればいいじゃない。別の店に移動するときはCOMINE送ればいいし」
「宜しいのですか?」
「いつもの事なんで」
少し驚いていましたがすぐ慣れます。そう伝えて一応納得して貰えました。
「それにしても平日なのに賑わってね」
「平日だから息抜きに来てる主婦の人達が来てるんだと思うよ」
「そっか。ねね、早く行こ」
「そうですね。行きましょう」
さて、男子一人に女子二人でのファッション店は精神的にもつのでしょうかとか思いながらサンローズに向かいました。
樹が離れたことを少し後悔した僕です。
◇◇◇
とあるファッション店の中で一際目立つ美女店員が入店してきた女性客二人に視線を捕らえると、一人の女性店員の方に歩み寄る。
「ちょっと君」
「な、何ですか店長」
その女性は店長だったようだ。
「あの女の子二人の接客するから他のお客様お願いするわ」
店長は目を血走らせて二人の女子に視線を向けながら女性店員に接客を命じる。
「ええ!?でも隣に男の子もいますが」
「だからこそよ。試着させて誉めてもらえれば買ってくれること間違いなし。それに、夏に向けてセールしてるといっても似合う良い服をきっちりと選ばせる」
女性店長は目をつけた女子二人のところにキラキラと瞳を輝かせて女性店員の了承確認も無しに向かって行った。
店員は「困った店長です」と呟きつつ笑顔で接客を再開した。
◇◇◇
「セールなのに色々とあって迷う」
「どうしましょうか」
今はサンローズで服を見ながら江菜さんも雪も服選びに迷走中である。
「次もあるから余り迷わないように」
「わかってるけど」
「お客様、何かお探しですか?」
その時丁度オシャレな女性の店員さんが尋ねてくれた。いや待った。さっきまでいなかったよね。いつの間に!
これがファッション店員スキル迷走客探知。
知らないですけど。
「春物の服を探しているのですが」
「そうことであれば、こちらでお客様にあった服を見立てますが」
「是非お願いします。雪も見立てて貰いましょう」
「そうする」
「じゃあ、僕はこの辺りぶらぶらしてぐげ!」
「蓮も付き合え!」
首根っこ掴まれながら言われて連行されました。窒息で死ぬので誰か助けて。
江菜さんと雪はまさかの女性店長だった人に身繕ってもらった服を更衣室で着替えているところです。
「で、君。どっちが本命なの?」
隣で何故か一緒に待っている女性店長がこそっと口元をにやにやさせて聞いてきました。
そして、僕はあえてわからないふりをしました。
「本命?」
「好きな子よ、好きな子。君と同じ制服の子は見た感じ活発女子。スポーツをやってる引き締まった体ながらあの胸。男の子も悩殺ね。でしょ!」
「………当たってます」
いい思いはしてないですけど。
「もう一人の子はさっきの子とは対称的に清楚な感じのお嬢様って感じね」
お嬢様ですよ。というかこの人何なの。怖いよ恐ろしく観察眼がある。
「ただ世間知らずのお嬢様っていうのではないわね。むしろしっかりしてる。スタイルとしては胸が少し大ききめだけど小さすぎでもないから色んな服が似合いそうね可愛いし、やりがいがあるわ」
男子の前で何を饒舌にカミングアウトしてるんだこの人。
「で、本命は」
シャッ
「どう、蓮」
本命と言われても現状いないので困っていた時丁度雪が着替え終えた。
「ちっ。いいですね、お客様」
舌打ちした?確認しようとしたけど店長は既に
恐ろしい。
雪のコーデはタートルネックニットにラップスカートで更に黒タイツを履いたことでより色っぽさが出ています。
「似合ってる」
「そう?えへへ、聞いておいて恥ずかしいけど、ありがとう」
雪の服装を見ていた他の店員の視線もあってかより照れくさそうにしている。
「どう青年」
女性店長はチラッと視線を送り顔でドヤっと言ってきたので一応小さくサムズアップをすると店長は返してくれました。
一瞬何なのと思ったけど面白い店長。
付き合う男は大変そうだけど楽しくなりそう。
こんな事を考えたらまた江菜さんに怒られそうなので頭をブンブンと振って考えるのをやめました。
雪は正直いつも制服以外は全部ボーイッシュ系だったから新鮮でした。
「私も着替え終えました」
明るい声と同時にゆっくりとカーテンが開いていきます。
「「「おお!」」」
「よくお似合いです。お客様」
恥じらいながら見せるコーデは白のカーディガンとフレアスカート。大人っぽさをだしていて、
「綺麗ですね」
「あ、ありがとうございます」
後ろに両手をまわして何やらモゾモゾしています。少し恥ずかしいのかな?いや嬉しいのかな。可愛い。
そこからたくさんの人が集まり二人の小さなファッションショーが始まりました。
「疲れた。結局上で時間潰れたし」
「でも、良い服は買えましたよ、雪」
「何を買ったの?」
「私は最初の買ってみた」
「珍しい。そういうの選ぶなんて」
「まあ、たまにはね」
照れながらも雪は満足気な笑顔で嬉しそうだった。
大分気に気に入ったようです。
「江菜さんは?」
「私は…秘密にします」
こっそり雪も聞いたらしいですがニコリと笑って教えてはもらえなかったらしい。
「ま、まだここにいたのか」
「樹!お前まさかずっと」
「そうだよ!ずっと追いかけられて隠れては見つかるの一点張りだ!最後は対応したけど、てかメッセぐらいとばせ!」
そういえば店舗変えなかったから何も送らなかったんだ。
「う、うん。お疲れ様」
「帰る?」
「こんなところ早く帰ろう」
酷い言われよう。まあ仕方ないんですけど。
「でしたらお近くまで皆さんを家までお送ります」
「…私はいいかな」
「俺もいい」
二人が視線送ってくる。それくらい分かってますよ、言いたいこともあるし。
という訳でモール外で樹達と別れて江菜さんと帰ることになりました。
「……」
「……」
蒿田さんの待つ場所に向かうまで続く沈黙から先に口を開いたのは僕でした。
「江菜さん」
「は、はい!」
「デート。今度の日曜日に改めてここに行きますか?」
「…はい。ご一緒させていただきます」
結局夏物見に行けなかったし。
嬉しそうにしてくれて良かった。僕は本当に幸せ者なんだろうと思いました。
でも本当にこの関係は良いのかな。
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