第12話 女子会
騎士寮の食堂の隅に陣取って、クロエと私は昼食をとりながら様々な話に花を咲かせていた。
所謂、女子会ってやつかしら?
クロエは侍女達の間で流れる噂話を集めるのが好きらしく、王宮内外の流行に精通していた。
今は最近人気の城下の菓子店の話題で盛り上がっている。
「それでそこのお菓子がね、見た目も華やかで可愛いのに味も良いってことで連日行列なんだって~! ね、今度休みが取れたら一緒に行かない?」
「いいわね、私も気になるわ。せっかくだから、他の菓子店にも行きましょう。それで買ったものを広げてお菓子パーティーなんてどうかしら?」
「わっ、最高! やろうやろう!」
私は今まで誰かと気軽に街を歩いたこともお店に並んだこともないからすごく楽しみだわ。
当初の目的とは違うけれど、平民設定にしたことでクロエともすぐにお友達になれたし、家を出たことで気軽に外出もできるようになったのは本当に良かった。
貴族間での付き合いなんて、何もかもが用意された環境で猫をかぶってご機嫌取りばかり。
お菓子を買いに行くのもお友達とお茶をする準備も、全部自分でやるなんて初めてだから、目新しいことばかりだわ。
「話してたらすぐにでも! って気分になっちゃったけど、これからちょっと忙しくなっちゃうのよ。こっちから誘っておいてなんだけど、お休みは暫く取れないかもしれないの、ごめんね」
「そうなの? 忙しいって何かあるのかしら?」
楽しみがまだ先になりそうなことに肩を落としながら聞くと、クロエは頬杖をつきながら溜息を吐いた。
「ほら、ちょっと前にアルベール殿下がご婚約されたでしょ? フィーラ世間知らずっぽいけど知ってる?」
「え、えぇ」
アルベール殿下のお名前に顔が引きつる。
知ってるも何も婚約を申し込む瞬間までばっちり見ていましたよ。
「で、お妃教育ってことで婚約者のリリアーヌ様が城で教育を受け始めるのよ。まだ住むってわけじゃないけど、休憩室程度の私室も用意することになってね、あれこれ用意しなきゃいけないから忙しくなりそうなの」
「……そう、なのね」
いえ、遅かれ早かれこうなることは理解していたし、私はもうアルベール殿下の正妃になるのは無理だと諦めているけれど、でも、それとこれとは話が別というか。
やっぱり順調にリリアーヌ様がアルベール殿下の婚約者として歩んでいる現状を確認すると、胸の内がもやもやとしてしまうのは一人の乙女として仕方がないと思う。
クロエには微妙な表情で「たいへんねー」と言うのが精々だった。
それはそうと、リリアーヌ様が王宮に出入りするようになるならば、私も気を付けた方がいいのかしら?
一応リリアーヌ様とは社交の場で顔を突き合わせていたわけですし、もしばったり会って私が騎士をしていると知られたら確実に問い詰められて計画のことがバレてしまう。そしてその話はご婚約者であるアルベール殿下のお耳へと。
イコール私の計画は水の泡。
まぁ、お父様のせいで当初の計画からは反れてしまっていますし、もしかしたらアルベール殿下の前で、つまりは社交の場で隠匿の魔法を使って誰かもわからない令嬢状態だったかもしれなけれど。
気を付けておくに越したことはないでしょう。
***
と、思っていたのが数日前。
現在私の前にはリリアーヌ様のご実家、シャーディヨン家の家紋がばっちり刻まれた馬車が。
そして驚いたように見つめてくるリリアーヌ様の明るいブルーの瞳が。
何があったかというと、十数分前、小隊の皆と一緒にすっかり慣れた道を歩いて出勤していると、前から走って来た騎士の一人が声をかけてきたのが始まり。
「悪いがお前たち、手伝ってくれないか!? 向こうで馬車の馬が暴れていて手が付けれないんだ!」
「わかった!」
「馬車か……中の人が心配だね、急ごう」
「あぁ!」
「え、えぇっ」
神妙な面持ちで駆け出した三人に続いて、慌てて私も走った。
この時、どこの家の馬車か聞いておけばよかったと後に私は後悔する。
現場に行くと、既に何人かの騎士たちが馬を落ち着かせようと周囲を取り囲んでいた。
けれど集まってくる人々に馬は落ち着くどころか興奮して暴れ、その度に馬車が大きく揺れている。
御者はとうに放り出され、地面に転がっているのを駆けつけた騎士に保護されていた。
数人が馬車内から人を下ろそうとしているけれどうまく近づけないでいる。
「何であんなことに?」
エドガーが近くの騎士に聞くと、騎士は頭を横に振った。
「急にあぁなったんだ。可能性があるとすれば、何処かで悪意ある者に魔法をかけられていたんだろう。馬が暴れて中の人が怪我をすれば……あるいは死ねばと思っている何者かがいたんだろうな」
「そんな! いったい誰が!?」
驚いてそう口にした私に、あくまで冷静にジャンが言った。
「犯人捜しは後でいいよ。今はどうにかあの馬を落ち着かせよう。誰かの魔法でどうにかできない?」
「馬を殺すことなら。でもそれだと馬が死んだ勢いで馬車の方も倒れてしまうかもしれないんだ」
そうなったら中の人もただではすまなそうね。
どうしたら、と考え込んだ私を見て「あっ!」とアジリオさんが何かを思いついたように叫んだ。
「フィーラ、お前確か隠匿の魔法使えるんだろ? バルドにこの前聞いたんだよ!」
「え、はい、使えますけど」
それでどうしろと?
「馬の視界を隠匿の魔法でふさげないか!?」
「は、え、私がですか!?」
まさかの大抜擢だった。
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