第10話
気が付くと俺は白い部屋にいた。
「ここ、どこだ?」
「お、やっと気づいたか。」
そう言って奥から出てきたのは…。
「え?おれ?」
そこには俺がいた。どういう事だ?
「あ、『何で俺がいるんだ?』って顔してるな。そりゃそうだよな。説明するからそこ座れよ。」
「あ、ああ。」
何が何だか分からないまま指定されたところに座る。なんで俺が?ドッペルゲンガーってやつか?大体、ここはどこだ?さっきまで部屋で詩音と話してたんだぞ?
「まあ、とりあえずこの状況の説明からだな。…ここはお前の夢の中だ。」
「夢の中?」
「ああ。記憶を取り戻すための、大切な夢だ。そして俺は、記憶をなくす前のお前だ。」
「記憶をなくす前の、俺?」
「そうだ。」
色々整理がつかないが、とりあえず分かったことは夢の中で記憶をなくす前の俺と話してるって事か?そんなファンタジーがあるのか?
「何でこうなってるかというとやっとお前が記憶を取り戻そうとしてくれたからなんだ。俺から、色んな事話そうと思ってな。」
「…まさか、直々に教えてくれるって事か?」
「そう言うことだ。」
簡単に言ってくれるが、夢の中で記憶を取り戻すって本当に何というか小説みたいだな。
「さて、前置きはこれくらいにして、本題に入るか。…ただ、その前に聞きたい事がある。」
「なんだ?」
「詩音のこと、幸せにしてくれるか?」
「ああ、もちろんだ。」
俺がそう言うと、前の俺は安心したように笑った。
「じゃあ、まず俺の生い立ちから…。」
細かいことは割愛するが、俺は小さいころに両親が亡くなって親戚をたらいまわしにされた。それが嫌で高校に入ってから一人暮らしを始めて、詩音に出会った。
俺たちはすぐに惹かれ合って同棲を始めた。そして同棲を始めて一年後、俺はプロポーズをして、その帰りに事故に合って記憶喪失になったらしい。
「そうか、プロポーズまで…。」
「ああ。」
そう言って前の俺は悔しそうな顔をした。
「なあ、返事は?指輪を見せてくれたってことはOKだったんだろうけどどうやって返事してくれたんだ?」
そう聞くと前の俺は少し笑った。
「泣きながら、頷いてくれたよ。」
「そうか。」
「なあ、その…。」
そう言うとなぜかばつが悪そうに頭を掻いた。
「なんだよ?」
「いや、俺がいえることじゃないんだけど、その…。」
そう言うと前の俺は頭を下げた。
「詩音を、泣かせないでほしい。」
「…っ!」
そう言われて驚いた。
「あいつ、泣き虫のくせに笑ってごまかそうとするんだ。しかも泣いてるときに強がるから、本心が分かりにくいんだ。だから、どんな小さな変化でも見逃さないで、あいつに寄り添って、守ってほしい。そして、一緒に笑ってほしい。俺からの願いはそれだけだ。」
「そんなの当たり前だ。俺もそうしたいって願ってる。」
「お前…。」
前から、どうして笑っていてほしいと思うのか少し疑問だった。でも、これで分かった。前の俺が心の奥深くにいたからだ。
そして、そんな俺がいなくなろうとしている。
「そうか。もう俺がいなくても大丈夫だな。」
そう言うと前の俺は少しずつ薄くなっていく。だんだんと、見えなくなっていく。
「詩音のこと、頼んだぞ。」
「ああ、分かった。」
そして、光の粒となって消えていく。
「ありがとな…。」
そう言って完全に消えてしまった。
「さて、俺も行くか。」
大切な人の待つ場所へ。
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