第9話

 しゅうくんが倒れて、急いで撫子ちゃんを呼んで、私たちは、救急車で病院に向かった。しゅうくんはすぐに検査された。けど何も問題はなかった。お医者さん曰く記憶が戻ってきているのではないかという事だった。

 病室に戻るとしゅうくんは静かに眠っていた。苦しそうな様子はなかった。

「しゅうくん…。」

 少し安心していると撫子ちゃんが戻って来た。

「詩音、これ布団ね。看護師さんに泊まるって言ったら貸してくれた。個室だから一緒にいていいって。」

「そっか、ありがとう、撫子ちゃん。」

「大丈夫?」

 そう聞かれて、曖昧に頷く。正直なところ、大丈夫なんかじゃない。不安でいっぱいだし、また目が覚めなかったらどうしようとすら思う。それに、私が嘘をつき続けいていれば…。

 そんな私の考えを読み取ったのか撫子ちゃんがため息をついた。

「まさか、自分のせいで、なんて思ってないでしょうね?」

「え?いや…その…。」

「思ってるのね?」

「はい…。」

 やっぱり撫子ちゃんには敵わないな。すぐに見破られてしまった。

「あのね、詩音。昔のことを知りたいって、本当のことを知りたいってそう思ったのはしゅう自身なんだよ。それなのに詩音が責任感じてたらどうすんの?」

「で、でも、私がちゃんとウソをついていて、しゅうくん気付かれないようにしていれば、こんな事には…。」

「詩音…。」

「それに、怖いの。しゅうくんが目を覚ました時、隠してたこと怒られて、ううん怒られるならまだいいよ。でも、それで嫌われるかもしれないと思うと、すごく怖いよ…。」

 そう言って私は泣いた。

 しゅうくんは私にとってとても大切な人で、そんな人が苦しんでるのは見たくない。傷ついてるのも見たくない。

 でも、今回は私がしゅうくんを傷つけている。それなのに、嫌われるのが怖いなんて欲張りだ。

「詩音…。きっと大丈夫だよ。嫌われるときは一緒に嫌われてあげる。怒られるときは一緒に怒られてあげる。…一人じゃないんだよ。」

 柔らかく抱きしめてくれて、撫子ちゃんは言った。


 撫子ちゃんが帰ってからも、しゅうくんは眠っていた。時折少し笑ったり、眉間にしわを寄せたり少し楽しそうだった。

 どんな夢見てるのかな?昔の事思い出してるのかな?私の、私たちのことも思い出してるのかな?そうだったらいいな。

 そんなことを思ってるうちに私も眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る