第6話
夏海に連れられて俺は少し離れたところにある喫茶店に来ていた。
「なるほど、そんなことがあったのか…。」
昨日あったことを一通り説明すると夏海はそう言ってため息をついた。
「ああ、そうなんだ。それで、なんか詩音が心配になって…。」
「まあ、そうなるよな。」
「だから、どんな奴なのか教えてほしいんだ。」
詩音のことを知っているはずなのに俺は何も知らない。それが何より悔しかった。
「…そうだな。どんな奴か話すだけなら、いいよな。」
そう言って夏海は頷いた。
「昔の話になる。お前と詩音が出会った時の話。」
そう言って夏海の昔話は始まった。
話を要約すると両親を亡くした者同士でルームシェアしてた、という事らしい。
「詩音と撫子と俺は小学校の頃からの幼馴染で、あの事故のことも知ってた。親族間をたらいまわしにされてるときもあいつは明るくて優しい奴だよ。絶対泣かせちゃいけない。」
それは何となくわかっていた。明るくて優しい部分もそうだが、泣かせちゃいけないのは、初めて会った時から思っていた。
「そいつを俺は泣かせたわけだ…。」
「…そうだな。」
そう言っておきながら、俺はいまだにあいつを泣かせていることを思い出した。きっと昨日泣いたのも、俺のせいだろう。
「やっちまったんだな、俺。」
ボソッとそう言うと夏海はがッと俺の肩をつかんだ。
「あれは事故だよ。しかも完全に相手のせいだ。お前のせいじゃない。それだけ忘れるなよ。」
そう言ってから夏海は正面を向いた。
「だから俺は、俺たちは運転手を許さねえ。秋真をこんな目に合わせたことも、詩音を泣かせたことも…。それだけ忘れないでいてくれればそれでいい。」
「ああ、分かった。」
俺も許したくない。詩音を泣かせた原因を作ったやつのことを絶対に…。
その後家に帰ると詩音は出かけていた。
部屋に戻ると目に映ったのはアルバムだった。今なら、開けるかもしれない。そう思って手を伸ばそうとする。でも、あとちょっとの所で手が止まる。詩音と俺の関係がどんなものだったか、知るのが怖い。やっぱり開けないのか…。そう思ってがっかりしていた。
「ただいま~」
そう聞こえて玄関に行くと詩音は重そうに持っていた荷物を置いた。
「どうしたんだ、その荷物?」
「お散歩のついでにスーパー行って買い物してきちゃった。」
そう言って靴を脱ぐと、また荷物を持とうとするので先にその荷物を持った。
「うわ、結構重いな…。よく持ってこれたな。」
「これでもしゅうくんと二人の時は一人で買い出しとか言ってたしね。ごめん、持ってもらっちゃって。」
「いや、大丈夫だ。キッチンに運べばいいか?」
「うん、ありがとう。」
キッチンに運ぶと詩音はすかさず食材をしまい始める。手際がすごくいい。本当にお母さんみたいだ。…お母さん、知らないけど…。
「ん?どうしたの?」
そう聞いてくる顔が、なぜか懐かしく感じた。
「なあ、俺達って、どんな関係だったんだ?」
そう聞いてからやっちまったと思った。なんでこんな大事なことを今聞くんだ。
「・・・」
ほら、詩音も困ってるじゃないか。それに最初に聞いたじゃないか。
「…仲のいい友達、だよ?」
最初と同じ回答。やっぱり、友達でしかなかったんだ。
そう思っていたら、詩音がいきなり泣き出した。
「うっ…ううっ…。」
「ど、どうしたんだ?どこか痛いのか?」
そう聞くと首を振る。じゃあ、どうして…?
「ごめん…ごめんね…。」
そう言いながら、詩音はしばらく泣き続けた。
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