第4話

 この前の診察から一週間が経った。皆相変わらず俺のことを心配しくれてる。

 ただ、ちょっと詩音の様子がおかしい気がする。

 いつも通り笑顔でいるけど何と言ったらいいのか、違和感を感じる。それに、前以上に悲しい顔をすることが増えた。一人でいることが、増えた。料理は手伝っているがその時も前にはなかった距離を感じる。

 何でこうなっているかは見当もつかない。前の俺だったらきっと一発で分かっただろうに…。

 そう思って本棚を見る。前の俺に少しでも近づくためにアルバムを見たいがひとりじゃ見れない。詩音たちなら一緒に見てくれる可能性もあるが、知るのが怖くてお願いも出来なかった。

 この前整理した時に日記も出てきたけど、それも結局開けていない。俺って、こんなに意気地なしなのかよ、と少しへこんでいた。

「しゅうく~ん?」

 ドア越しに詩音に呼ばれてドアを開けると眠たそうな詩音がいた。そうか、もう皆寝る時間なんだな。

「どうした?眠れないのか?」

「ううん、しゅうくんの顔見てから寝ようと思って。」

 そうやって言うが実際の所、こういう時は眠れないのだとこの前本人が言っていた。なんだかいやな夢を見そうなんだそうだ。

「そっか、おやすみ詩音。」

 そう言って頭をなでると詩音は幸せそうな顔をする。

「うん、おやすみしゅうくん。」

 そう言って詩音は部屋へ戻って行った。

 何でもないふりをしているが、俺は詩音が好きだ。笑った顔を見たら嬉しくなるし、何か詩音が好きそうなものを見るとあいつに見せたくなる。逆に今みたいに不安そうな顔を見るとこっちまで不安なる。あと、一緒にいると胸の鼓動がうるさい。

 でも、この気持ちを告げていいのか不安になる。言ってしまったら一緒にいられなくなる気がする。

 いや、ただ臆病なだけだ。詩音と一緒にいるために自分の気持ちを押し殺してるだけ。かっこよく言ったものの結局俺は意気地なしなだけだった。

「寝るか…。」

 そう言って布団に入る。さっきの詩音の様子が気になるけど寝てしまうことにした。


 寝てしばらくするといきなりドンドンとドアを叩く音が聞こえた。時刻は夜中の2時。誰だ、こんな時間に。

 そう思ってドアを開けると詩音が泣きながら飛びついてきた。

「し、詩音?」

「良かった、良かった…。」

 そう言ってしばらく顔を上げなかった。

「あ、ご、ごめんね、こんな夜遅くに。」

 少しして顔を上げると、そう言って体を離そうとした。それを俺は抱きしめて阻止した。詩音は驚いたように俺を見た。

「そんだけ泣きながら来られたら、どうしたのか聞かねえと返せねえよ。」

「・・・っ!」

「どうしたんだよ?」

 そう聞くと詩音は泣きながら首を振った。

「ダメなの。」

 小声で、震えた声でそう言う詩音の声を聞き逃さなかった。

「何が?」

「しゅうくんに、甘えちゃいけないの。」

「なんで?いいんだぞ、甘えて。」

 俺がそう言うと、詩音は俺の背中に手をまわした。

「ダメなの…。」

 そう言いながらぎゅっと抱き付いて静かに泣き始めた。この行動が詩音の本音なんだと分かっていた。なぜかは分からない。ただ、こういう時は何もせず抱きしめていればいいことも分かっていた。きっと、前にもこういう事があったんだろう。それをきっと心のどっかで忘れないようにしてあったんだ。


「ごめん、ありがとう。」

 少し落ち着いたのか詩音はそう言って手を離した。今度は大丈夫そうに見えた。

「大丈夫か?」

 でも少し不安でそう聞くと今度はしっかり頷いた。それを見て俺も手を放す。

「ありがとね。」

 そう言った詩音の顔が何だか寂しそうで、気付くと俺は詩音に手を伸ばしていた。そのまま詩音を抱きしめる。

「しゅう、くん?」

 戸惑った声に我に返るが、後戻りできない。

「行くな…。」

 小さな声でそう言うと詩音は息をのんでそれから頷いた。


 押し入れにあった布団を引っ張り出していると詩音がパジャマの裾を引っ張って来た。

「どうした?」

「その、い、一緒に寝たい。」

 そう言われて、頷くことしかできなかった。それを見て詩音が幸せそうな顔をしたからまあ、いいだろう。

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