第2話

 退院当日、医者からこれからの話や、次の検査日などの説明を受けて病室を出た。

「あ、しゅうくん!こっちこっち!!」

 その声がする方を見ると、詩音が手を振っているのが見えた。なつみやなでしこも一緒だった。

「退院おめでとう。予定日に退院出来て良かったな。」

「ねえ~。詩音なんて、寂しいって泣いてたもんね~。」

「な、撫子ちゃん!それは言っちゃダメ!!」

 なんか、三人揃ってるなんてあの日以来だったから知らなかったけど、こんなに騒がしかったんだな。俺も、この中にいて、ちゃんと入ってたんだよな…。

「しゅうくん?」

 いきなり詩音が顔をのぞき込んできた。

「どうしたの?もしかして具合悪い?」

「いや、何でもねーよ。」

 そう言ったものの詩音は心配そうに顔を近づける。ち、近い…。

「おい、詩音。そのくらいにしとけ。秋真が困ってるぞ。」

「あ、そ、そっか…。ごめんね。」

 そう言って離れてくれたけど、その顔はどこか寂しそうだった。

「まあ、退院当日で疲れちゃうだろうし、そろそろ家に行きましょうか。」

「そうだな。お前ら二人は後ろ乗れよ。撫子は前な。」

 そう言われて車に乗り込む。そう言えば、家ってどこにあるんだ?

「ついたぞ~。」

「え!?ここ!?」

 着いたのはでっかい一軒家。いやいや、おかしいだろ!!

「だ、だって俺ってしおんと二人でルームシェアしてたんだろ?なのに、何でこんなでかい家?」

「あ、そっか、詩音昨日言わなかったんだね。」

 なでしこはそう言って手を叩いた。

「ほら、しゅう記憶なくなったでしょ?詩音だけだとうまくサポートできないと思って皆で引っ越したのよ。」

「み、みんな?」

「うん、皆。今日からはこの四人でルームシェア!」

 突然そう言われて驚いた。四人でか、騒がしそうだな。

「ああ、一人一部屋はあるから安心しろよ。」

「あ、そうなんだな。」

「荷物も全部運んであるよ。」

 そう言われながら引っ張られる。早く家に入れたいのか?

「ほら、見て!!きれいでしょ~?」

 しおんが自慢げにそう言う。

「詩音が全部掃除したんだ。」

「え!?」

 おいおい、こんな広い家一人で掃除かよ!!その割に床とか見える範囲ピッカピカだし…。スゲーな。

「私たちもやるって言ったんだけど、昨日仕事が長引いちゃってね。帰ってきたら家がこの状態だったのよ。さすがは私たちのお母さんだね。」

「えへへ、ありがとう、撫子ちゃん。」

「お、お母さん?」

 その言葉が気になって聞き返すと、詩音は少しうつむいながら教えてくれた。

「うん。しゅうくんとルームシェアしてた時とか、皆でお泊りしたときとか、ご飯作ったりお掃除してたらみんなそう呼んでくれたんだ。」

「へ~。」

 もしかして、これがしおんの言うことを聞かなきゃいけないわけか?でも、そんなんじゃない気がする。なんか、もっとこう、深い理由のような…。

「さて、そろそろご飯の準備するね。」

「お、いいね。じゃあ俺は秋真を部屋に案内するかな。」

「じゃあ私は部屋の片づけの続き~。」

 そう言われて、俺は夏海に2階にある部屋に連れて行ってもらった。一通り説明をしたら夏海は「俺も片づけあるから」と言って出て行ってしまった。

 部屋には、ベッドにCDラック、本棚、パソコンデスクがあって、本棚には文庫本より雑誌が多かった。その中にアルバムもあったけど、怖くて開けられない。これは詩音と一緒の時にしようかな…。

 下に降りると、エプロン姿のしおんが何か切ってるところだった。その姿を見て、何となく、声をかけてしまった。

「詩音。」

 しまった。と思ったときにはしおんが振り向いていた。その目は少し、潤んでいた。

「あ、しゅうくん。ごめん、ちょっと待って。」

 そう言って涙をぬぐうと、俺をまっすぐ見た。

「あ~、びっくりした。どうしたの?」

「あ、いや…。なんか声、かけちまった。まさか泣いてるなんて…。」

 俺がそう言うと、しおんはきょとんとした。それからすぐ、合点が言ったように頷いた。

「違うよ~、玉ねぎ切ってただけ。」

「へ?玉ねぎ?」

「うん。」

 しおんの手元を見ると、確かに玉ねぎが切られてた。

「オニオンスープ作ろうと思っていっぱい切ってたの。」

「・・・」

 焦った俺の気持ちを返してほしい…。いや、勘違いした俺が悪いんだけど…。

「な、なんかごめんね?」

「いや、俺こそごめん。それより、なんか手伝わせて。」

 そう、もともとそのために声をかけたんだ。

「え?いいよ、大丈夫!!」

「いいから。なんかやりてーの!」

「う~ん、じゃあ、玉ねぎ炒めてもらっていい?」

「よし来た!!」

 それから、詩音と初めての料理が始まった。

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