第二話 【初めての魔法】
「うぅ…あの…」
ユキヤは、前方を歩き王のいる所まで案内をしてくれているメイドに声をかけると、メイドは立ち止まり、不思議そうな顔をしながら振り返る
「なにか?」
「あーいえ、その…僕の格好だと、えっと、失礼になるかなーって…」
「…?まあ、大丈夫なのではないでしょうか?」
「あ、そうですか」
「勇者様がお気にされるようでしたらこちらでご用意いたしますが」
あ、着替えはあるのね。でも、メイドの人が大丈夫って言うなら面倒だしこのままでもいいか
「あ、すみません、やっぱり大丈夫です」
まあ、薄手の半袖と短パンなら動きやすいしな…でも、変だとは思わないんだろうか?
「すみません、ウェルさん」
ユキヤは隣で一緒に歩いていたウェルに小声で話しかける。
「いかがされましたかな?」
「僕の格好って、その…変…ではないんですか?」
「なるほど、それで先程…失礼、そうですね召喚者は別の世界で暮らしていた方々ですので、全裸でもない限りは以前いた世界の特有の服装、程度にしか認識がないのです。ですから気にされることはないですぞ。
逆に、こちらの世界の衣服を身につけていては召喚者の…いえ、勇者様としての威厳のようなものが削がれますしな」
「んー…そういうものなんですかね…」
さっきから思ってたけど、この世界の人達は「召喚者」とか「勇者」とか言うけど、その辺の呼び方の統一はないのか?それともなにか意味があるのかな…?
そんなやりとりをしていると、メイドの足が止まり一際大きな扉の前にやってきていたことに気づく。
「おお…なんか緊張してきた…」
「身構えずとも、王は寛大な方ですので安心してくだされ」
メイドが扉をノックすると内側から、両開きの扉が同時に開かれていった。
見ると、中で待機したであろうメイドが扉を開け、頭を下げて出迎えていた。
「ようこそ、おいでくださいました勇者様。国王がお待ちです」
中は、赤い絨毯が室内の中央に敷かれ奥の小高い位置に、白髪に映える金色の冠と、腕や首に宝石のアクセサリーを身につけた、王と思われる人物が座っていた。
絨毯の両脇にはこの王宮のメイド達が並び皆一様に頭を下げ出迎えていた。
案内をしていたメイドも、列の端に行き頭を下げて静止する。
「いやぁ…まじか…」
思っていた以上の出迎えに、やはり場違いな格好であったとユキヤは後悔した
「よくぞ参られた、他国の勇者よ」
おろおろとしているユキヤに、やたら豪勢に作られた椅子に座っている王らしき人が声をかける
「ユキヤ様、王の元へ」
ウェルに言われるがまま、絨毯を踏みしめ王へと近づく。
「ワシは国王のエルデンじゃ。ユキヤ…殿だな?門番より話は聞いておる。早速だがそなたには、とある古文書を見てもらいたい」
エルデンがそう言うと、一人のメイドが巻物のような物を持ってユキヤの元へと近づいてくる
「これは?」
「我が祖先より受け継がれし、超大魔法の詠唱文だ。しかし、その文書は我が国に限らずこの世界のあらゆる国の言語とも一致しえんのだ。そこで召喚者にはこの世界を救ってもらいたいのもあるが、その古文書を解読し我々にも戦える力を与えてほしいと考えてな。」
「なるほど、既に僕たち召喚者が戦うことは前提なんですね。その上で、召喚者に少しでも加勢しようと…」
「ああ、勝手に呼んでその上我々のために戦えと言うのだ、図々しいのは承知だがどうか頼む。お主ら召喚者の力を借りねばこの世界に住むもの達は皆、女や子供を問わず残虐に殺され人類は滅んでしまう…」
エルデンは座ったままではあるが頭を下げて頼んでいた。
それを見ていたメイド達の目には涙が浮かび、「私達のために…」とか「寛大な王が頭を下げるなんて…」だの…
何か俺が悪役っぽいって言うか…何も断れない雰囲気作られてるじゃん…
「ま、まあとりあえず読んでは見ますけど」
「ああ、頼む。今まで何人かの召喚者にも同じく見てもらったが誰一人として読むことはできんでな…」
やっぱり他にも召喚されてる人はいるのか…てかその話を聞く限りじゃ、この面に関してあんまり期待されてないんじゃないのか…この古文書だって、国王の先祖が書いたなら絶対この国の言葉だろ…
「えーっと…ん?これ日本語じゃん…なになに…?
…全能たる神聖の言の葉よ、孤高の誓いを用いて眠りし才を解放せんとする…?」
何これ厨二くさ…
ユキヤが読み上げたと同時、エルデンとユキヤの間に「ポワン」という音と共に大きな光の魔法陣が描かれ、次々に魔法陣の内部に謎の文字が刻まれていた。
「え、ちょ、なになに!?」
「馬鹿者!何故に音読をしたのだ!てか読めるんかい!」
「ええ!いや、読めそうだったら声に出す雰囲気だったじゃん!?何で?てか止められないの!?」
「これは…術が発動しておりますな…どんな魔法かわからん以上ここを離れるのも危険かもしれませぬ」
焦っているユキヤに背後からウェルがそう声をかける。
「で、でもなんかすんごい光ってますよ!?」
予想だにしない突然の出来事にその場にいた者全員が、唖然とし動けないでいた。
そして、魔法陣の光は白い光からだんだん紫に変わって行き、魔法陣がユキヤの足元へと徐々に移動する。
ユキヤは反射的に避けようとしたが一歩遅く、魔法陣がユキヤを拘束するかのように動きを静止させた。
「なっ、え、ちょっと、まじ!?」
そして魔法陣はユキヤを中心として青白く輝き始め、辺り一帯に大きな閃光を放った。
「ユキヤ様!?」
「ユキヤ殿!」
ウェルとエルデンが慌てた様子でそう声をあげる。
少しずつ光が収まり、視界が開けると魔法陣は消えており、ただただ己の体を見回すユキヤの姿だけがあった。
「お…おお?」
「収まった…のか…?」
エルデンが確かめるように声を出す
ユキヤは自分の身に何が起こったのか確認をするが、これといって変わりはなかった。
しかし…
「お主…それ…」
エルデンが絶望したかのような顔を浮かべながらユキヤの手にある古文書を指を指す。
その古文書は端からサラサラと砂のように床に落ちてゆきどこからともなく吹いた風によって、灰の如く散っていった。
「あ、いや、そんなつもりは…」
エルデンは嘆息し、椅子に座り直した。
「コ、コホン…少々取り乱したな、すまぬ…」
「……」
手から消えた古文書に罪悪感を抱き俯くユキヤにエルデンは、頬を掻きながら声をかける。
「まあ仕方あるまい。恐らく一度きりしか使えん究極の魔法だったのであろう。先祖より受け継いでおる詠唱魔法が乱発できてしまっても拍子抜けというものじゃ…じゃが、あれほどの閃光と、大掛かりな魔法発動の工程……何も無いというのは、いささか疑問に思えるが…まあ良い、とにかく異変などは無いのだな?」
「は、はい。今のところはなんとも…」
「なら良い。説明も無しに魔法を使わせてすまなかったな。それでは、ここへ来てもらった本題へと移りたいのだが良いか?」
ユキヤはエルデンの問いに無言で頷いた。
「先も少し話したが、この国…いや、この世界は今多くの魔物とそれらを生み出し、操る魔王軍によって滅びを迎えようとしておる。
いくらこちらの兵士が強かろうと、多勢に無勢。数で押されてしまっては適わんのだ…そこで、別世界より召喚されし勇者候補の一人である、お主にどうか協力をしてもらいたい」
「協力…と言っても具体的には何を…」
ユキヤは、この王宮へ来る道中で似た話をウェルから聞かされ、その時既に覚悟を決めていたが国王自らの意見も聞かない限りは、この国の『味方』として動くか『敵』として動くかがハッキリしなかった。
「お主には、民を安心して暮らせる環境にしてもらいたいのだ。手段は問わぬ。
我にも家族がいる、我だけじゃなく民には…人類には皆守りたいものがある。だが人は弱い。だが一人でできないことも多くの人間で、寄り添っていけばきっと未来はあるのだ。だから…どうか、頼む」
エルデンは椅子から腰を上げ、ユキヤへと深々と頭を下げた。
多くの人間で寄り添う、か…召喚者に頼るなら、召喚者自身は一人でやれって事になるんだが……その辺は考えがあるのかね。
まあ、正直どんなに偉そうなことを言おうと俺自身がまだ魔力とか魔法とかそういうのに実感がないしな…ここはひとまず…
「王様、顔を上げてください。」
「ユキヤ殿…」
「えっと…条件付きでよければ、僕は力をお貸しします。」
「条件… ?」
「はい、何せまだこちらの世界に来て浅いものですから、僕は何ができるのか、どれほどの力を持っているのか、そういった事を知る時間を頂きたいのです。」
「な、なるほど。そう言うことであれば、我が国の前衛戦力である者に話を通しておこう。その者に魔力の使い方など初歩的なことを教えてもらうと良い。応えはその後でかまわぬ。」
「ありがとうございます」
こうして、何やかんやで一旦話しはまとまった。
今日はこの後に、ウェルさんに言われた通り付きの人と共に街を周り、寝泊まりはこの王宮の客室を使わせてもらうことになった。
前衛のすごい人とやらは、王の護衛もするらしく常に王宮にいるから、魔法やらを教えてもらうときはその人の部屋を訪ねることになった。
これから街を周るということで、王様がこの国の通貨を渡してくれたので、お礼を言い部屋を後にしようとすると、声をかけられ呼び止められた。
「…頼んだぞ未来の英雄ユキヤよ。お主の応えが良いものであること信じておる」
「あはは…が、がんばりますぅ」
「ユキヤ様、ご武運を。」
そんな会話を終え、エルデンとウェルに去り際の握手を交わすと、ユキヤは王宮の門で待つ付き人の元へと歩き始めた。
「さて、どうしたものかな…」
来てからの初めこそ、直ぐにでも帰りたいと思っていたが、国の状況を知り、他者を思いやる人々の願いを聞き、その願いを叶える力が自分にあるかもしれないと知った今、ユキヤは元の世界のことを忘れ、目的のために足を踏み出した…その表情には決意と若干の楽しさを交えた笑みが浮かんでいた。
「あ……」
……しかし、格好は未だ寝間着のままだった。
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