第91話 コン様へのお願い

「拓海、連れてきたニャ」


 神威はリビングテーブルにパッと現れた。そしてソファーに座っている俺の膝の上に飛び乗った。


「神威、ありがと。助かったよ」


「どういたしましてニャ」


 俺は子供黒猫の神威の頭を撫でた。神威は膝の上で伏せて寛いでいる。


「ふむ。神威が懐いているとは流石なのじゃ」


「はい。さすが拓海様です」


 コン様は狐のケモミミ幼児の姿で正面のソファーの上に立って現われた。その隣、ソファーの横に見知らぬネコミミの白髪の美少女もいる。


「コン様、そちらは?」


「こやつはイムカ。お主の後任の英雄王なのじゃ」


「そうですか。よろしく、イムカさん」


「はい。よろしくお願いします」


 イムカさんは頭を下げた。一連の動作に無駄のない動き。


「イムカさん、あなた相当な手練れですね」


「……お主は本当に拓海なのか? 雰囲気が全くの別人なのじゃ」


「そうですね。イムカもそう思います」


「俺もよく分からないです。不思議と落ち着いています」


「……ふむ。拓海、お主の魂年齢は七百歳を超えたのじゃったな。そして英雄王の記憶はそのままに解放された……」


「そういう事ですか……イムカも理解しました」


 コン様とイムカさんは俺の今の現状が分かったようだ。


「教えて下さい。今の俺はどうなっているのですか?」


「簡単なのじゃ。拓海、お主は大人になった。只それだけの事なのじゃ」


「へっ?」


「拓海様。あなた様の魂、記憶、体、その他全ての経験値が大人のレベルに達したと言う事です」


「まっ、そういう事なのじゃ」


 二人の言っている意味がイマイチ分からない。つまり子供から大人になる経験を一気に積んだからって事なのか? 俺の思春期は終わったって事?


 ……ん? ちょっと待てよ。イムカさんは『魂、記憶、体』って言ったよな? ……体も大人になった事を知っているって事だよな……


 ルナ達がイムカさんに話をした可能性は……低いな……


 もしかして五人大戦を見ていた? のぞいていた? イムカさんのエッチ!


 俺が心の中でそう考えていると、イムカさんの顔が何故か赤くなった。


「さて拓海、われを呼び出したのは何故なのじゃ?」


「えっ? あ、コン様にお願いがあります」


「ふむ、何じゃ?」


「天界、魔界のルール。一夫多妻の人数を増やして下さい」


「拓海様。先程、私のお披露目と同時に英雄王の権限を使って七人に増やしましたから大丈夫ですよ」


 イムカさんはそう言ってニッコリと笑った。


「七人⁉︎ 一気に倍⁉︎ 何故?」


「それはマスター様と私も拓海様のお嫁さんになる為です」


 俺の膝の上にいた神威の耳がピクンと動いた。


「神威も拓海のお嫁さんになりたいニャー」


 コン様は分かる。俺と約束をしたから。二千年も待てなかったのね。神威も分かる。見るからに俺に懐いている。


 イムカさんだけが謎だ。初対面ですけど?


「イムカさんは初対面ですよね? どうして俺の嫁になりたいのですか?」


「拓海様と約束したからです」


 はい? いつ約束した? イヤイヤ、初対面。初対面ですよ? ……でもイムカさんは可愛いからいっか。神威もお嫁さんにしよう。


 猫のお嫁さん……うーむ、可愛いから問題なし。


「分かった。覚えていないけどイムカさん、よろしくお願いします。それに神威もよろしくな。まぁ、嫁にするのはまだまだ先の話だけどね」


「はい。不束者ですがよろしくお願いします」


「拓海、よろしくニャー」


 コン様は手に持っていた扇子を広げた。何処から出した? 登場した時は持っていなかったよな?


「ふむ。これにて一件落着なのじゃ。ぬぁーはっはっ。なのじゃー」



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