第90話 神威のチュー

 謎多き喋る子供の黒猫、名は神威。


 俺は神威にメロメロ。


 そして神威は俺の封印されている記憶を解放すると訳の分からない事を言っている。


「解放、解放、解放ニャー。拓海の記憶を解放ニャー」


 神威は俺の隣で歌を口ずさんでいる。


「なぁ、神威。どうして俺の名前を知っているんだ?」


「記憶を解放したら全て分かるニャー」


 これはもう封印された記憶とやらを解放するしかないな……


「記憶を解放したら全て分かるんだな?」


「そうニャー。全て分かるニャー」


「どうやって封印を解くんだ?」


「チューニャー」


「チューニャー?」


「キッスの事ニャ。神威が拓海にキッスすると記憶が解放されるのニャ」


 キッス……神威とキッス……ありがとうございます。


「分かった。記憶の解放の為、神威とキッスだな」


「——ニャニャ、せっかちだニャ」


 俺は神威の脇を持って抱き上げた。神威はプランプランしている。


「神威は本当に女の子なんだな」


「どど、何処見てるのニャ。恥ずかしいニャ」


「ごめん、ごめん。じゃあ、キッスいきます」


 俺は神威の口に自分の口を近づけた。


「まっ、待つニャ。おデコにチューだニャ! 口と口じゃないニャ! まっ、待つニャ!」


「へっ! おデコにチュー⁉︎」


「そうだニャ! おデコニャ! 口と口じゃないニャ」


 口と口じゃないのか……


「分かった、神威の口を俺のおデコにつけるんだな」


「そうニャ……拓海……ガッカリ顔ニャ」


 ガッカリ顔……顔に出ていたのか……


「あ、あとからチューしてあげるニャ。今はおデコにチューで拓海の記憶を解放ニャ」


 あとからチューしてくれるのか⁉︎ 神威ちゃん! ありがとうございます!


 俺は記憶の封印を解く為に神威の口をおデコにつけた。


「どうニャ、ちゃんと解放出来たかニャ?」


 俺は神威を膝の上に下ろした。そして頭を撫でた。


「ああ、ありがとう。神威のおかげで記憶が解放されたよ」


「それは良かったニャ」


「神威。コン様を呼んできてくれるかな?」


「マスターを? どうしてニャ?」


「話したい事が有るからね」


 俺は見上げている神威にウインクをした。


「わ、分かったにゃ。呼んでくるニャ……拓海、さっきまでと雰囲気が全然違うニャ」


「そう? 俺は俺だけど?」


「かっ、カッコいいニャ。凄くカッコよく見えるニャ」


「俺がカッコいいって……神威ありがとな」


 俺がお礼を言うと神威は膝からパッと消えた。


 さて、記憶は戻った。まさか神威が記憶の解放を出来るとはね。誕生日を待たずに早々と解放か……


 でもよかった。問題を早く解決……出来るかは分からないけど……コン様頼みだな。


 それにしても記憶を封印されていた時の俺……やりたい放題して困った奴だ。後始末が大変だ。


 あのまま突っ走っていたら記憶が戻る頃には何人恋人が出来ていたんだ?我ながら恐ろしい。


 それにしても……記憶が解放されて精神的に大人になった気がする。もう俺は英雄王ではないけど全て覚えているしさ……


 見た目は高校二年、中身は……大人? でも、コン様と二人きりの時はここまで落ち着いていなかったよな?


 どうしてだ? 一気に記憶が戻ったから? それとも封印されている間に魂が成熟した? 謎だ。


 はぁ……記憶を封印されていた俺……四人同時とかバカだろ。思春期の男の子パワー凄すぎだよな……ワイルドすぎる。


 だけど……ルナ、リン、ソラ、レイナさん。貴重な経験ありがとうございます!

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