第61話 英雄王の決断

 ソラとレイナさん。二人は俺の目の前で手を出して、俺の答えを待っている。周りの人たちも固唾を飲んで見守っている。


 俺はこの雰囲気をぶち壊す度胸はない。ソラとレイナさん、どちらかを選び、手を握ろうと思っている。


 俺は少し考えて答えを出そうと思っている。だだし時間は限られている。だから英雄王の奇跡、“思考十倍”を発動した。


 英雄王の奇跡、“思考十倍”は物事を通常の十倍早く考えることが出来る。決して頭が良くなるわけではない。早く考えることが出来るだけだ。通常の三倍では間に合わない。


 さてさて、ソラとレイナさん、どちらの手を握るかは決まっている、そう——


 ——レイナさんだ!


 俺はレイナさんの大ファンだ。大好きだ。お嫁さんにしたいと思っていた! かわいい! 美人! 両方兼ね備えた大人の女性!


 ソラのお子様ボディとは違う、スレンダーな体型。しかも、たわわな素敵オッパイ!


 最高かよ! もうこれは、『僕のれいなぁー!』って叫んで抱きしめるしかない!


 ソラ、ごめん、ごめんよ。俺はレイナさんを……くっ、ソラが、捨てられた小動物みたいな目で俺を見てる……かっ、かわいい。


 ソラがかわいいのは出会った頃から分かっていることだ。今更なにを言っているんだ俺は。


 それに今日、ソラが女の子と知る前にソラを好きだと認めたんだ。禁断の扉を開ける決心をしたんだよ……


 本当は、俺はずっと前からソラのことが好きだったんだ。ソラが男の子だったから、好きだと認めたくなかっただけだ。


 正直、ソラをオカズにした事も何回もある! スマホで撮ったソラの写真を見ながら、妄想でソラを女の子にして、あんな事やこんな事をした! ……男の子姿でも……


 くっ、そうさ、俺は変態さ! ソラがかわいすぎるんだよ! かわいいソラが悪い。


 俺は思春期の男の子だから仕方ないんだ! でも、終わった後の罪悪感はハンパなかったけどね……


 ソラ、お前は性格も良くて、最高なんだよ! ソラが女の子ならと何回思ったことか!


 俺は本当は分かっている。分かっているさ! 俺はレイナさんではなく、ソラの手を握らないといけない。今、ソラを選ばないと一生後悔する!


 俺は悩みに悩み、ソラの手を握った。思考十倍は解除した。


「ソラ、大好きだ。俺のお嫁さんになって下さい」


「拓海君。僕を選んでくれてありがとう」


 ソラは俺に抱きついてきた。俺の胸の中で泣いている。俺はソラの頭を撫でた。


「本当にソラは泣き虫だなぁ」


「だって、だって、僕、レイナさんや、ルナちゃんやリンちゃんと違って何もないもん。凄くないもん。落ちこぼれの天使だもん」


「そうなのか? うーむ。——よし! 英雄王から落ちこぼれの天使、ソラちゃんにプレゼントをあげよう」


 ソラは俺の胸で泣いていたが、顔を上げ俺を見たた。


「拓海君、何を言っているの? それに英雄王のことは最高機密だよね?」


「いいから、いいから。ちょっと離れて」


 ソラは俺から離れた。目に涙がまだ残っている。ソラは不思議そうにしている。俺はソラの頬を優しく両手でさわった。


「えっと、えっと、拓海君! 顔を近づけているのはどうして。待って、みんな見てる! 心の準備が——」


 ソラは目をギュと瞑った。俺はソラにキスをした。周りに人が沢山いるが、恥ずかしくはない。


「拓ちゃんだいたーん。これは負けるはずだよ」


 レイナさんの言葉のすぐ後に、ソラの体全体が眩しく光る。三秒ほどで光は消えた。光が消えて俺はソラから唇を離した。


「——ビックリした。拓ちゃん、今のなに?」


「ソラに“英雄王に認められし者”をプレゼントしたんですよ」


「ちょっと待って。それってつまり、拓ちゃんは英雄王になっているってこと?」


「はい。今日の午前中に英雄王なりましたよ。俺が英雄王になったのを知らないなら、リンの体が治ったのも、レイナさんは知らないのかな?」


「リンの体、治ったの? リンはテキストチャットに、私は拓海の嫁になる。としか書いていなかったから……」


「はい。いろいろあってリンの体は治りましたよ」


 レイナさんは手で口を押さえて涙を流した。おそらくリンの体が治り嬉しいのだろう。


 俺の発言に周りの人たちがザワザワしている。レオナルドさんは驚いているようだ。ソラは固まっている。


「拓海君にキスされた。キスされた。キスされた」


「おーい、ソラー。大丈夫かー」


 俺はソラの頭を軽くペチペチ叩いた。


「ふにゅ。だ、大丈夫だよ……なにこれ? 体の内側から力が溢れてくる……」


「ふっふっふ。落ちこぼれの天使ちゃんに、“英雄王に認められし者”をプレゼントしたんだよ。これでソラは天使の強さの限界突破をして、神、魔王、女神級の強さになったのだよ」


 俺の話を聞いて、ソラは驚いている。


「まぁ、その中でも最弱で、それ以上は強くはなれないけどね」


「英雄王に認められし者って……拓海君は英雄王になったの⁉︎ まだ先だよね?」


「ソラ、俺は今日の午前中にいろいろあって英雄王になったんだよ」


 ソラは少し離れて頭を上下させ、俺の頭の先から足先までをじっくりと見ている。


「拓海君……何も変わっていないね」


「英雄王になっても何も変わらないよ。俺は俺さっ」


 ソラはまた俺に抱きついてきた。周りの人たちは祝福してくれている。


 レイナさんはもう泣いてはいない。俺とソラを見てほほ笑んでいる。


 レイナさんには悪いけど、ソラを選んで良かった。










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