第62話 英雄王の後悔
ソラは俺を抱きしめている。離れそうにない。俺は時刻が気になり、ホテルのロビーにある年代物の大きなノッポの時計を見た。時刻は十三時三十五分。
「さて、楽しい告白イベントはとりあえず終了です」
レオナルドさんが俺たちに近づきながら、声を発した。身長は百九十センチはあるだろうか? スーツ姿でも分かる引き締まった体。
髪は黒髪、目も黒い。見た目は爽やかイケメン。大人の男性の見本の様な人物にしか見えない。声も柔らかな優しい声。外見は完璧だ。
「皆さんに報告があります。明日、天界と魔界に、ここにいる少年、獅子王拓海君が英雄王だと発表があります」
周りの人たちがざわついている。
「あの子が新しい英雄王なのね」
「みたいね。でも、威厳は全くないわね」
「いいじゃない。新しい英雄王ってかわいい。ファンになりそう」
「リア充爆発しろー」
俺を見ながらいろいろと話をしているみたいだ。恥ずかしくなってきた。
「皆さん、今日、拓海君を英雄王と拡散しても大丈夫です。それから午後からの懇親会も楽しんでください。ケーキなどのデザートも沢山用意しています」
周りにいた人たちは、散り散りになっていく。ソラが抱きついているからか、スマホで俺を撮る人は見る限りではいなかった。ちょっと寂しい。
しばらくして、俺とソラとレイナさん、そしてレオナルドさんの四人だけになった。
「拓海君……いや、英雄王と呼ぶべきかな?」
「拓海で良いです」
「分かった。しかし、まだ先のはずの英雄王になっていたとはね。驚いたよ」
レオナルドさんは俺が英雄王と知っていた? そういえばレイナさんが、レオナルドさんは権力者って言っていたな。
「拓海君に直接謝りたかったことがある」
「謝る? なんですか?」
「事前の情報がなかったとは言え、君を死なせてしまった。すまなかった。君を守ることが出来なかった」
レオナルドさんは俺に頭を下げた。
「拓ちゃん。レオナルドはね、評議会メンバーで、しかも全ての機関を束ねる最高司令官なのよ。だから責任を感じているのよ」
「レオナルドさん。大丈夫です。気にしないで下さい。それにしても、レオナルドさんは超大物じゃないですか」
「レオナルドが超大物って……拓ちゃんは英雄王だから、それ以上の存在なんだけど……」
レオナルドさんは頭を上げて笑った。
「くく、拓海君はおもしろいな。君とは良い友人になれそうだな」
「俺はなりたくないです」
レオナルドさんはショックを受けているようだ。
「拓ちゃん、レオナルドと友達になってあげたら? レオナルドは友達がいないのよ。——ププッ」
「レイナさんがそう言うのなら……」
レオナルドさんは俺の手をガッチリ掴んだ。
「では、私と拓海君は友人だ。これで私の地位も安泰だ」
「レオナルドさん……正直ですね……」
「君に嘘をついても意味はないだろう? なんなら私のことを見ても良いんだが」
「ほほう。じゃあ、遠慮なく。英雄王の奇跡、《全てを見る者》を使いますね」
俺はレオナルドさんに《全てを見る者》を使った。その名の通り対象者の全てを見ることができる。
「レオナルドさん……苦労しているんですね」
「たしいた苦労ではないよ」
レオナルドさんは相当苦労しているな。俺がレオナルドさんなら無理だな。レオナルドさんを尊敬だな。
俺はレオナルドさんの手を離した。俺とレオナルドさんの間にソラはいる。まだ離れる気配はない。
ふむ、レオナルドさんとは良い友達になれそうだな……だけど……だけどね。
俺は今だに抱きついているソラを見た。
ソラとの馴れ初めも分かってしまった! 英雄王の奇跡、《全てを見る者》はエグすぎる。
俺はソラの頭を撫でた。ソラは俺の胸の中で黙っている。顔がチラッと見えるが幸せそうな顔をしている。
くっ、全てを見る者は、知り合いや、知り合いに近い人に使うのはやめよう。心のダメージがでかい……世の中には知らない方が良い事もあるんだな……
俺はちょっとだけ大人になった……なった気がした。
「——そうよ。そうだわ。その手があったわ!」
「レイナさん、急にどうしたんですか?」
自分の唇付近を手で触って何か考え事をしていたレイナさんが、突然言葉を発してレオナルドさんを見た。
「レオナルド。あなた評議会メンバーなら、一夫多妻の三人までを四人に変更できない?」
「……無理だな。太古の時代からの風習だ。おいそれと変えられるものではない」
レイナさんの提案をレオナルドさんはバッサリと切り捨てた。
「えー、ダメなのぉ。なら、拓海君は? 英雄王の一言で変えられないかな?」
「おっ、俺ですか? どうだろう? 出来るのかな?」
今まで俺に抱きついていたソラが俺から離れた。
「拓海君。なんとかならないの? 英雄王でしょ? 至高の存在でしょ? 唯一無二の存在。究極の存在でしょ?
「そう言われてもなったばかりで、英雄王の影響力がどの位あるのか、まだよく分からないんだよな」
ソラとレイナさんは切ない顔をしている。レオナルドさんも何かを考えているようだ。
「困っておるみたいじゃの?
聞き覚えのある声と言葉遣い。そして何故ここに居るのか謎すぎる人物。俺は声がした方を向いた。
「コン様、何故ここにいるのですか?」
午前中に会った姿そのままに、俺の五メートル程離れた所にコン様はいた。食べかけのケーキがのっている皿と、フォーク片手に立っている。
口の周りには白い生クリームをたっぷりと付けていた——
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