第60話 英雄王の公開処刑

 俺の目の前には、ソラとレイナさんがいる。更にその奥の群衆の端、俺の視界にレオナルドさんもいる。


 レオナルドさんは声を殺して笑っていた。この状況を止める気配ない。むしろ楽しんでいる様に見える。


 ソラとレイナさんは俺に愛の告白をするつもりだ。昔テレビで観たことのある光景。去年、学校の文化祭でもやっていた。


 文化祭の時の俺は傍観者だった。モブだった。その他大勢だった。当時は羨ましいと思っていた。


 でも今はこちら側にいる。なってみて分かった。


 めちゃくちゃ恥ずかしい。俺は人前に出るだけで緊張する。授業中の答えを言うのさえドキドキする。


 そう俺はヘタレだ。だから今、この状況で俺からソラに告白など出来るはずがない。無理だ! だから二人の告白を聞くことにする。


 ルナ、リン、ソラ、そしてレイナさん。四人が俺に好感を持ってくれている。こんなヘタレの俺のどこが良いのか、さっぱり分からない。


「戦姫レイナが人族に愛の告白するのか!」


「あの子何者?」


「リア充爆発しろー」


 周りの人達の声が聞こえる。戦姫? なにそれ?


「レイナさん、戦姫レイナってなんですか?」


「戦姫レイナってみんなが勝手に呼んでいるの。四年に一度の武術大会で私の戦いを見てね」


「そんなのあるんですか」


「うん。私の妹、リンが剣の部で優勝して剣帝、ルナちゃんが徒手空拳の部で優勝して、拳王になったのよね。私はリンに負けて二位だったけどね」


「ソラは? 武術大会に出なかったの?」


「僕は槍の部に出場したけど、一回戦で負けたよ。僕は第十位天使だし……」


 ソラはしょんぼりして下を向いた。が、すぐに顔を上げて、レイナさんを見た。


「レイナさん、どうして僕の邪魔するのですか? あとからでも良かったでしょ?」


「だってだって、ソラちゃんの告白に拓ちゃんがオッケーしたら、私は拓ちゃんのお嫁さんになれないのよ」


 なぬ! レイナさんも俺のお嫁さんになりたい⁉︎ なんてこったい。でもどうしてだ? 中学頃サインをもらった時に会っただけの、ほぼ初対面なのに?


「えっ? レイナさんも拓海君のお嫁さんになりたいのですか? でもルナちゃんと僕だけだから、大丈夫ですよね?」


「それがね。リンも拓ちゃんのお嫁さんになるらしいの。ついさっき私のスマホのテキストチャットにメッセージがきてね」


 ソラは勢いよく俺の方に振り向いた。


「たーくーみーくーん。いつの間にそんな事になっていたのかなぁ?」


「今日の午前中にそんな事になりました……」


 俺たち三人の会話に周りの人たちがざわついている。


「ちょっと、剣帝リンに拳王ルナもあの子のお嫁さんになるって」


「うん。あの子本当に何者? 只の人族なの?」


「おー。にいちゃん、うらやましいぞー」


「リア充爆発しろー!」


 リア充か……そうだな今の俺はリア充だな……今まで無縁だったのにな。


「レイナさん、やめるなら今のうちですよ? 拓海君は絶対僕を選ぶはずですからね」


「あら? ソラちゃん凄い自信ね。でもね、さっき会った時に、拓ちゃん私のこと『大好きでしゅっ』て噛みながら言ってくれたよ」


「大好き⁉︎ 僕も言われたことないのに……でもそれは、拓海君がレイナさんのファンだからでしょ?」


「ぐぬぬ。そうだけど好きは好きでしょ?」


「ぼっ、僕なんて、拓海君といつもお風呂に入ってますよーだ。かわいいアレだって見たし、お尻の穴も見た事あるもん!」


「おっ、お風呂⁉︎ かわいいアレを見た⁉︎ お尻の穴も! くぅ、私も見たい……でもそれって、ソラちゃんが男の子の姿の時だよね? 拓ちゃんが女の子って知らない時だよね?」


「そうですけど……」


「女の子って知っていたら、お風呂は入ってくれないよね? 友達になれたかも怪しいよね。そんなの運が良かっただけだよ。たまたま知り合っただけだよ」


「そういうのが、運命の出会いじゃないですか! 運命の人ですよ! それに僕は拓海君の親友だから全てを知っているんです! クローゼットに隠している、エッチな本の存在だって知っているんです!」


 ソラがドヤ顔をしている。野次馬は失笑している。レオナルドさんも失笑していた。


「運命の出会いなら、私も三年前にしたよ。拓ちゃん私のサイン欲しいからって、お店で私にイキナリ土下座したんだよね。私のこと『ファンです。大好きです。サイン下さい』って言いながらね」


 野次馬は大爆笑。レオナルドさんも腹を抱えて笑っていた。


「ソラ、レイナさん。そのくらいで勘弁して下さい。俺の心のライフポイントがなくなります」


「あっ、拓海君ごめんね。脱線しちゃったね」


「拓ちゃん、ごめんね」


 ソラとレイナさんは俺の方に向き直した。大爆笑していた人たちも静かにしてくれた。俺はもう恥ずかしい事は何もない。


「拓海君。僕には何もないけど、拓海君を好きな気持ちは誰にも負けない。だから僕をお嫁さんにして下さい」


 ソラは俺に手を差し出した。不安な顔をしている。


「拓ちゃん。私ね、拓ちゃんが土下座したあの日、正直、なんだコイツって思ったの。でもね、拓ちゃんが顔を上げた時、一目惚れしちゃった。この子は私の運命の人だーって思ったよ」


 姉妹揃って俺に一目惚れって、俺の何処が良いの? サッパリ分からない。


「拓ちゃんからは急な告白かもしれないけど、私は拓ちゃんのこと、ずっと好きだったんだよ。だから私をお嫁さんにして下さい」


 レイナさんも手を差し出した。レイナさんも不安な顔をしている。


 うう。ソラかレイナさん。どちらか一人選べなんて……どうしてお嫁さんに出来るのは三人なんだ。四人なら良かったのに……




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