第59話 英雄王と天使
俺とソラの距離は三十メートル程度。遠くからでもソラの顔や仕草はよく分かる。レオナルドと楽しく談笑しているように見える。
俺がソラを見ていると、ソラと目が合った。ソラは立ち上がって、レオナルドに一礼してから、俺の方にスカートをヒラヒラさせ、小走りで近づいて来た。
「拓海君!」
いつもの聞き慣れたソラの声だった。俺の名前を呼びながら、ソラは目の前で立ち止まった。
「どうして拓海君がいるの?」
「えっと……それは……」
俺はソラに会って告白するつもりだった。ソラのことが好きだと。愛していると。
だけど、女の子バージョンで、女の子の服を着たソラを目の前にすると、ドキドキしてうまく喋れない。
俺がドギマギしていると、俺よりかなり身長の低いソラが俺を引っ張っり、顔を俺の耳元に近づけた。
「ルナちゃんから聞いたよ。拓海君が次期英雄王なんだね。僕、拓海君が英雄王になるまで、絶対守るからね」
ソラは小声で話をしてきた。そしてゆっくりとソラは俺から離れた。ソラは笑顔だった。
「ねぇ、拓海君。僕のことルナちゃんから聞いた?」
「えっ、あ、うん。ルナからソラが天使で女の子だと聞いた」
ソラは自分のスカートをつまみ、少し広げた。
「拓海君。僕の姿どうかな? 変じゃない?」
「変じゃないよ。かわいいよ」
ソラはいつも髪を首の後ろで一つ結びにしているが、今はしていない。髪を結んでいないソラは本当にかわいい。
「やったぁ。拓海君がかわいいって言ってくれた!」
「かわいいですよね? レイナさ——」
俺は横にいたレイナさんに声をかけて、振り向くとそこにはレイナさんはいなかった。
「レイナさんなら、僕が近づいて来た時に、向こうに行ったよ?」
ソラが指を指した方にレイナさんはいた。スーツを着た女性と話をしていた。俺はレイナさんがいなくなったことに、気がついていなかった。
「……レオナルドさんは放っておいて良いのか?」
「えっ? う、うん。大丈夫だよ。只の雑談だったからね。それより座って話しない?」
そう言って、ソラは俺の手を握り、ロビー端の空いている二人掛けのソファーに俺を早足で連れて行く。ソファーに着いたら二人で座った。
「なぁ、ソラ……」
「ん? 何?」
「……レオナルドさんはソラの昔の恋人って、レイナさんから聞いたけど、本当?」
「……うん。五十年前に恋人だったよ。あっ、でも、今は全然好きな気持ちはないから! レオナルドさんは昔の恋人だから」
ソラは必死に弁解している。理由は分かるけど。ソラを見ていると、ちょっとだけイジワルしたい気持ちになった。
「五十年前って……ソラって何歳なの?」
「ふえっ? えっと……百十六歳です……」
「おばあちゃんだねぇ」
「おっ、おばあちゃん⁉︎ それは人族で、だよね。僕は天使だよ。人族の年齢で考えないで! ……むぅ。拓海君のイジワル」
「それと男の子の時と見た目がほぼ変わらないな。顔は女の子っぽくなっているけど、体は……」
俺はソラの胸を見た。俺の視線に気づいたソラは胸を両手で隠した。
「拓海君のバガバカバカ。こんな所で、そんなことを言わないでよ」
「そうだな、悪い。ところで、ソラはどうして女の子バージョンなんだ?」
「それはね……拓海君が、その……あの方だとルナちゃんに聞いて、僕の正体も拓海君は知ると思って……」
「ソラの正体を俺が知ると思って?」
「……うー、拓海君のバカ……気付いてよ。 女の子の姿で拓海君に告白しようと思ったんだよ」
「いやいやいや。ソラが俺に告白するとか絶対に気付かないって。告白されるとか思わないって」
俺の言葉を聞いてソラの眉間にシワが寄った。怒っているようだ。
「僕、拓海君にすっごく好き好き大好きアピールしていたけど? 僕が拓海君を好きなのは、言わなくても分かっていたよね? 気付いていたよね?」
「えっと、はい。ソラが俺を好きなのかなー、程度なら。ソラが男で女の子とは知らない時だったからね」
「だったら、僕が女の子って分かったら、告白されると思ってよ!」
ソラは立ち上がった。俺を何故か睨んでいた。そしてロビー中央の方を向いた。
「みなさーん、聞いてください! 今から僕、天使ソラキュエルは、隣に座っている人族の獅子王拓海君に告白します!」
「ちょっと、ソラ! 何言ってんの!」
「さっき、僕にイジワルなことを言った仕返しだよ」
「仕返しに、公開告白って……ソラはバカなの? おバカさんなのか?」
「ふっ、ふっ、ふっ。策略さっ。拓海君はもう僕の告白を断れないよ。親友の僕に恥をかかせないよね? 拓海君は僕を恋人に……違うね。さらにその先のお嫁さんにするしか選択肢はないんだよ」
ソラは俺を見てドヤ顔をしている。
あれ? おかしいぞ! 俺はソラに好きと告白をするために、ここに来たよな? 何故にソラから告白されることになった?
「なになに、告白? ソラキュエルが?」
「相手は人族か。ほぅ、なかなかのイケメンだな」
「ソラキュエルがんばれー」
「人族のにいちゃん、断ったら許さんぞー」
いつのまにか、俺とソラの周りに集まった人たちが野次を飛ばしている。断るつもりはないが、断れる雰囲気ではない。
「ほら、拓海君立って!」
俺はソラに促され立ち上がった。ソラの方を向きながら。
野次やソラへの応援などをして周りはざわついていたが、俺が立ち上がると静まり返った。俺とソラを興味津々で見ている。
ソラは深呼吸をしている。深呼吸をやめて、俺を見つめた。告白をする覚悟ができたみたいた。
「拓海君、僕は——」
「ちょっとまったー!」
俺を含め、周りにいた全員が声がした方を向いた。
「れ、レイナさん⁉︎」
ソラの告白を遮ったのはレイナさんだった。レイナさんは歩いてソラの隣に来た。そして俺を真っ直ぐに見つめてきた。
「私も拓ちゃんに愛の告白する!」
「「「「えーっ!」」」
レイナさんの発言に俺は驚いたが、それ以上にソラ含めてその場にいた全員が驚いていた。
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