第51話 拓海君の叶えたい願い

「ご馳走さまでした。なのじゃ」


 俺はルナを見ていたが、古代神様の声が聞こえたので、古代神様の方を見た。


「おいしかったですか?」


「最高だったのじゃ」


 古代神様はリンの膝から降りて、空になった容器とスプーンを机に置いていた。リンは寂しそうな顔をしていた。


「さて、そろそろお主の願いを聞こうかのぉ」


「えーとですね、俺を今日、英雄王にしてもらえませんか?」


「「えっ!」」


 リンとルナが同時に驚いた声を出した。リンの顔を見ると寂しそうだった顔が驚きの顔になっていた。ルナを見ても同じように驚いていた。


「ふむ、分かった。今、英雄王にしてやるのじゃ」


 そう言った古代神様は、浮き上がりテーブルを越えて俺の目の前に降りた。ルナとリンは、俺と古代神様を黙って見ている。


「では、両手を出すのじゃ」


「はい」


 俺はルナと手をつないでいたが離して、両手を古代神様の前に出した。


「ほほう。お主たちラブラブじゃのう」


 俺はリンを見た。リンはこちらを見てニコニコしている。


 あのリンの笑顔はどっちだ? ヤキモチか? 俺とルナが、仲良くしているのがうれしいのか?


 俺がそう考えていると、古代神様は俺の両手を握ってきた。


「では、始めるのじゃ」


 古代神様は目を閉じた。しばらくして俺の体全体が光り輝く。俺も目を閉じた。ルナとリンは静かにしていた。


「……終わったのじゃ。目を開けて大丈夫なのじゃ」


 俺は目を開けた。体は光り輝いていない。古代神様は握っていた手をゆっくりと離した。目を閉じていた時間は、体感で一分くらいだった。


「どうじゃ? 英雄王になった気分は?」


「うーん? 何も変わらない気がします」


「そうなのじゃ。英雄王になっても人格や性格は変わらない。お主はお主のままなのじゃ」


 俺は性格や人格が変わると思っていた。アニメに出てくる、知的でクールでカッコいい人間になると思っていた。


 でも何も変わらなかった。今までと変わらないエロいことに興味津々の思春期の男の子のままだった。


 たけど違うことはあった。今まで知らなかったことが頭の中にある。神世界しんせかいのこと、英雄王のことなど膨大な情報が増えていた。


「拓海君、大丈夫?」


「別に問題ないけど?」


 ルナが俺に声をかけてきた。俺のことを心配そうに見ている。


 リンも向かいのソファーから歩いてきて、俺の隣に座った。俺はルナとリンに挟まれ座っている。


 俺の目の前にいた古代神様は、リンに捕まり、リンの膝の上に座らされた。


「拓海、本当に大丈夫か? 髪は銀色。目は金色になっているぞ」


「へっ⁉︎ 銀色? 金色?」


 俺は自分で見えるように前髪を触った。リンの言うように銀色になっていた。


「ふっふっふっ。われとお揃いなのじゃ」


「……コン様、元の黒に戻してもらえますか」


「どうしてなのじゃ。われとお揃いは嫌なのか?」


 古代神様はしょんぼりとしていた。耳も垂れ下がっていたので悲しいのが分かる。


 俺は古代神様の反応が予想外だったのでオロオロした。


「い、嫌じゃなです。コン様とお揃いはうれしいです。ずっとこのままでも良いです。だけど俺はまだ高校生だから黒色が良いかなと思って」


 俺の言葉で古代神様の垂れていた耳が元に戻り、顔も笑顔になった。


「そうかそうか、お揃いはうれしいのじゃな。そういえば、お主はまだ高校生だったの。なら仕方ないのじゃ」


 古代神様は俺の手を握ろうとした。ニコニコ顔でうれしいそうにしている。


「とっ、届かないのじゃ。手をこちらに出すのじゃ」


 リンに抱きしめられていて、古代神様はパタパタしている。俺は古代神様の手を握った。


「終わったのじゃ。これでお主の髪と目は元の黒じゃ」


 手を握ってから一瞬だった。俺は手を離して先ほどと同じように前髪を触った。黒髪になっていた。


「あーあ、残念。拓海君の銀髪、金色の目はカッコよかったのにー」


「そうだな。今の五割増しでカッコ良かったな」


 二人にそう言われて、俺は少し後悔した。でも明日は学校に行く。銀髪と金色の目になっていたらドン引きされる。さらに怖いと思う。


「ではわれは帰るとするのじゃ。願いは叶えてやった。さらばじゃー……と言いたいがお主たちに話がある」


「話って何ですか?」


 コン様が俺たちに話? なんだろう?


 俺は古代神様の話がまったく想像できないでいた。見た目はケモミミ幼女だけど、神世界しんせかいを作った人物。


 俺の考えもつかない、想像を絶する話をするのだろうと思っていた。


 古代神様はリンの膝の上でなぜかモジモジしていた。ルナは俺で古代神様が見えなのか、ソファーから俺の隣に来て、カーペットに正座して古代神様を見ている。


「コン様。お話は何ですか?」


 ルナも古代神様に聞いた。古代神様は俺やルナを見たり、顔を上げてリンを見ようとしたりしていた。


 その姿が威厳のある古代神様ではなく、幼女そのものでかわいかった。初めて会った時から威厳はまったくなかったが。


「わっ、われと友達になってほしいのじゃ」


「「「はい?」」」


 三人同時に声が出た。古代神様の話は、俺の想像を遥かに超えていた。


「……お主たちと友達になりたいのじゃ……ダメ……か?」


 古代神様は上目遣いで俺やルナを恥ずかしそうに見ている。


「もちろん良いですよ。断る理由なんてないですよ」


 俺は笑顔で返事をした。


「うん。コン様と友達って素敵。ぜひ友達になって下さい」


 ルナも明るい声で返事をした。


「私もコン様と友達になる。それよりも妹にほしいくらいだ。毎日モフモフできるからな」


 リンの返事はちょっとおかしい。


 リンは古代神様をギュッと抱きしめて、顔を耳と耳の間に埋めて、モフモフしだした。


「まっ、毎日のモフモフは嫌なのじゃ。じゃから妹になるのは却下なのじゃ」


 俺とルナは笑った。古代神様も笑っていた。





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