第50話 ソラの正体

 古代神様は、脱衣所から戻って来たソファーに座っているリンの膝の上に座って、冷蔵庫から出したプリンをおいしそうに食べている。


 俺もソファーに座っている。リンと古代神様とは机を挟んで対面している。リンは古代神様の耳の付け根辺りを、ニコニコ顔で触っている。


「拓海君。いまだに信じられないけど、あの子が古代神様なんだよね」


「ああ。リンの体が治っているのが、その証拠だ」


 俺の隣にはルナが座っている。今は午前十時十五分。


 用事が終わったのか、ルナは午前九時五十分頃に戻って来た。そして俺の家に上がり、リビングにいたリンを見ると驚いていた。


 ルナが俺たちに、リンの体が治った理由を聞いてきた。説明が終わると、リンに駆け寄り抱きしめて泣いた。しばらくして、ルナは落ち着いた。


 俺はルナに聞きたいことがある。俺は隣に座っているルナに視線を移した。リンとは違うタイプの美少女。二百四歳とは思えない。


「なぁ、ルナ。声優の古賀レイナさんと一緒だったよな? 今は一人で帰って来たよな? どういう関係?」


 ルナはリンたちを見ていたが、俺に視線を移した。


「レイナさんは、隣町のゲーム大会の打ち合わせで遅くなるから、私一人で戻って来たの」


 隣町のゲーム大会? ソラも出る大会だったな。よし、来週はソラの応援に行こう! 絶対に行こう。


「それとレイナさんは、リンちゃんのお姉さん。神世界情報機関所属で、声優界の担当だよ」


「えっ? ということは、人ではなく魔王?」


「違うよ。レイナさんは魔人だよ。リンちゃんのパパが魔王で、ママが魔人なの。親の種族が違うと、生まれてくる子供は、どちらかの種族になるの」


 なるほどねぇ。そうなると、レイナさんに頻繁に直接会える可能性があるのか! やった。やったよ!


「そうだったのか。レイナさんは魔人だったのか」


「そうだよ」


 俺は喜びを隠して話をした。別に隠す必要はないのだが、隠す方が良い気がした。


「それで、ルナの用事って何だったんだ?」


「えっとね、リンちゃんの代わりに拓海君を護衛する、天使に会いに行ってたの」


「リンの代わり?」


「そう。リンちゃんが拓海君の護衛は厳しいと判断して、拓海君に一番身近な天使が、護衛することになったの。まさか治るとは思っていなかったからね」


 俺はリンを見た。リンは古代神様の尻尾を幸せそうな顔で優しくモフモフしている。古代神様は二個目のプリンを食べていた。


 まぁ、リンの体が治るのは古代神様が現れなかったら不可能だったからな。でも、俺の近くに天使がいたとは。


「ルナ。俺を護衛する天使って、俺の知ってる人物?」


 俺はルナの方を向いて聞いてみた。ルナもリンの方を見ていたが俺の方に向き直した。


 ルナは俺の手をさりげなく握ってきた。俺はドキリとした。女の子から手を握られるのは、慣れていない。


「拓海君が良く知っている人物だよ。天使ソラキュエル。私とリンちゃんの妹のような子なの」


「天使ソラキュエル? 誰? 二人の妹みたいな子なら、女の子だよね?」


「ソラちゃんは女の子だよ。あっ、そっか。ゴメンね。人間界では、ソラ・ルイーズって名前だよ。拓海君がいつも一緒にいる男の子」


 ルナの口から、ソラ・ルイーズの名前が出てきて、俺は頭が一瞬フリーズした。


 ソラが天使だったのには驚いたが、それ以上に驚いたのは、ソラが女の子だったということだ。


「ソラが女の子⁉︎ 冗談だよな? ソラには男のアレが付いていたぞ」


「アレが付いていた? あー、アレね。神の人義で女の子が男の子になると、アレが生えるの。逆に男の子が女の子になるとアレはなくなるの」


「マジか⁉︎ マジか。マジですか!」


「マジだよ。冗談ではなくて、ソラちゃんは本当に女の子だよ」


 ソラが女の子。ずっと男の子だと思っていた俺はパニックに陥った。


 やったぜ。ソラが女の子! ヒャッハー! うれしいぜぇ。


 俺はちょっと壊れた。現実逃避したかった。


 ——いや違う違う、冷静になれ。ソラが女の子なのはうれしいけど、お風呂とか一緒に入ったんだぞ。何回も何回も!


 ソラが男の子だと思って、俺の全てを見せたんだぞ。それこそ尻の穴まで見られたと思うぞ!


 うう、なんてことだ。もうダメだ。恥ずかし過ぎて、ソラに会ったら絶対に挙動不審になる。


 ……でも、ちょっと待てよ? 考え方を変えると、良かったかもしれない。俺はソラが好き。ソラが女の子なら何も悩む必要はない。


 俺は同性愛はあって当たり前と思っている。でも、俺はやっぱり男よりも女の子が好きだ。きっと本能でソラが女の子と認識していたんだろう。


 ルナとリンとソラ……三人を同じ位に好きって良いのか? 俺はいつから軟派な人間になったんだろうな?


 それも仕方がない。だって俺は思春期最前線にいる男の子。一人に絞るのは無理。無理です。モテ期到来です。


 それに花澤葵ちゃんも好きだし……んー、俺は花澤葵ちゃんのことは好きなのか?


 俺の中でルナやリン、それにソラの存在が大きくなってくると、ほぼ話をしたことがない、花澤葵ちゃんに対する好きな気持ちが薄れている。


 まぁ、花澤葵ちゃんは俺の恋人でもないしなぁ。俺のことを好きと言ってくれる、ルナやリンを大切にしよう。


 ソラも女の子と分かっても大切な親友だ。それに最近のソラを見ていると、ソラは俺のことを好きだと思う。鈍い俺でも分かる。


 俺はなんていい加減な人間だと思った。十六歳の思春期の男の子はこんなものだと、自分勝手な言い訳をした。


 なぜなら、やっと来たモテ期を手放したくないからだ。








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