第49話 古代神様は拓海をお気に入りになる
片膝をついている俺に、おんぶをされている状態で、肩に顔を乗せている古代神様にお願いをした。
「古代神様、早速だけど、リンの体を元に戻す約束、お願いしても良いですか?」
俺は古代神様の気が変わる前に、さっさとリンの体を治してもらおうと思った。
「分かっておる。約束じゃからな」
「古代神様? 拓海、何を言っている」
リンが不思議そうな顔をしている。俺と古代神様の会話が本当に聞こえていなかったようだ。
俺の背中が軽くなった。古代神様がリンの頭上に移動して、うつ伏せで浮いている。
「なっ、なぜ飛べる。我々は飛べないのに」
「古代神様だから?」
リンは顔を上げて、古代神様を見ている。俺の言葉を聞いて、また俺の方を向いた。
「拓海、このケモミミ幼女が古代神様なのか?」
「うん」
俺とリンの会話中に、古代神様はリンの頭をポンポンと叩く。叩く、というよりも触る程度。そして古代神様は俺の頭上を過ぎて、俺の背中にしがみついてきた。
古代神様が俺の背中に張り付いたのとほぼ同時に、リンの顔の刀傷と眼帯をしている左目、右腕の欠損している付け根から服や眼帯を突き抜け、緑色の無数の光の粒子が出て、宙に舞っては消えていく。
「拓海、これは……」
リンは自分の体を見て、不安そうにしている。
「リン、大丈夫だよ。リンの体を治しているんだよ」
俺はリンが恐がらないように、優しく声をかけた。
「そういうことか……」
リンは自分に何が起こっているのか、理解したようだ。
「リン、体は痛くないか?」
「大丈夫だ。痛くはない。あたたかくて気持ちが良い」
リンの顔の刀傷が治っていくのが分かる。腕も緑色の光の粒子が徐々に手の方に移動していく。光の粒子が移動した部分は膨らんでいた。
それは長袖の上からでも、腕が再生されていると分かる。そして、指の先まで再生が終わると光の粒子は消えてなくなった。
俺はリンの顔を見た。顔の刀傷や左目から出ていた、緑色の光の粒子は出ていない。左側の額から眼帯をしている左目を通り、頬の途中まであった刀傷も消えていた。
俺はリンの眼帯をそっと外した。その時リンは、静かに待っていた。そしてリンは閉じていた左目を開けた。
「リン、見えるか?」
リンは右目や左目を、閉じたり開けたりしている。
「ああ、見える。左目が見える」
「よかったな」
それからリンは右手を顔の高さまで上げて、握ったり開いたりを繰り返している。
「手も違和感はないな」
「当たり前じゃ。
「失礼しました。そうですね。ありがとうございます。古代神様」
そう言ってリンは古代神様にほほ笑んだ。
「古代神様、今のリンの体は神の人義ですよね? 本体も目や腕は治っているのですか?」
「もちろんなのじゃ」
そっか。良かった。さすが古代神様だな……それにしてもリンは美人だな。
「ん? どうした拓海」
「いや、なんでもない」
俺は眼帯と刀傷のないリンの顔に見とれていた。
「こやつは、お主に見とれておるのじゃ。お主のことを美しいと思っておる」
「ふふ。拓海、嬉しいぞ」
「ちょ、古代神様、なぜ分かるんですか!」
「
ぐっ、ケモミミ幼女の姿だけど、中身は古代神様。えぐい能力持っているな。
「お主も英雄王になると、触った者の全てが分かるのじゃぞ」
「マジですか!」
俺と古代神様が会話をしていると、リンが立ち上がった。
「拓海、脱衣所はどこにある?」
「あっちだけど」
俺が廊下の方を指差すとリンは脱衣所の方に歩き出した。
「ふむ、自分で顔の傷がなくなったのを、確認したいのじゃな」
「ですね」
「さて、
古代神様は俺の背中から離れ、歩いて机に置いている、クッキーが入った木製の皿を取った。
そしてソファーに座った。俺は古代神様の隣に座る。
俺は改めて古代神様を観察した。髪は肩にかかる程度のゆるふわの銀髪。目は金色。狐の耳と一本尻尾のケモミミ幼女。コスプレにしか見えない、赤いスカートの巫女服。
「古代神様」
「
コン? なるほど、古代神の最初と最後の文字を使ってのコンね。
「コン様、何故現れたのですか?」
「ほへはほふしは——」
「何を言っているか分かりませんよ」
古代神様はクッキーを食べながら話をしたので、モゴモゴと、何を言っているのか分からない。口の中のクッキーを食べ終わると、俺を見て話しだした。
「
「一つだけ願いを叶える? 何故ですか?」
「お主が人族とは別の種族の三人とキスをしたからなのじゃ」
古代神様の言っている意味がよく分からない。さらに古代神様は話を続けた。クッキー入りの木製の皿は膝に乗せている。
「人族は他の種族との関わりが圧倒的に少ない。それに最弱種。人族が他の種族から唇を奪うのは、奇跡的なことなのじゃ」
俺の場合は奪うと言うより、奪われたのですがね。
「つい最近までは全種族とキスをすると、願いを叶えるだったのじゃ。流石に全種族は難易度が高かったのじゃ。誰も達成できないのじゃ」
「全種族とキスは不可能でしょうね」
「じゃから、人族を除く三種族とのキスに難易度を下げたのじゃ。それでもお主が初なのじゃ」
えっと、つまり、俺が三種族とキスをしたから古代神様が現れて、一つだけ願いを叶えてくれるってことか。
それは理解できたが、ルナとリン。あと一人は誰だ? 人族を除くだろ? うーん、思いつかない。
古代神様は俺が考えている時も、クッキーをハグハグ食べている。
「おいしいのじゃー。お菓子、さいこーなのじゃー」
「コン様、プリンも有りますよ。食べます?」
クッキーを食べている古代神様がかわいい。俺はプリンも勧めてみた。
「よっ、よいのか! お主の言っているのは、冷蔵庫に入っているプリンのことじゃろ? アレは
俺と古代神様が言っているプリンは、学校近くの商店街にある、パン屋さんの一日二十個限定の特製プリン。クリーミーで超おいしい。
「せっかく人間界に来たのだから、あのプリンは食べるべきですよ」
「やったのじゃー。お主は良い奴なのじゃ。気に入ったのじゃー」
そう言って古代神様はソファーに立ち上がって、俺に抱きついて来た。膝に乗せていた、木製の皿とクッキーを撒き散らして。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます