第5章 古代神様

第48話 幼女の正体

「だだだ、誰! どちら様ですか!」


 俺はリンを抱きしめて叫んだ。目の前にいる幼女に。俺はどさくさに紛れて、リンのおっぱいをさわろうと思ったがやめた。


 リンも顔の向きから幼女を見ているのが分かる。


 幼女は返事をしないで俺たちをジッと見ている。俺たちを見ながら、手に持っている袋をさりげなく開けてクッキー取り出した。


 俺はそれを見て少し落ち着いた。幼女の行動がクッキーを開けるという、普通の行為だったから。


「ちょっと待て。クッキー泥棒」


 俺は幼女がクッキーを口に運び、食べようとしたので、泥棒呼ばわりをした。


われは泥棒ではないのじゃ。お主の物はわれの物。われの物はわれの物じゃ」


 そう言って幼女はクッキーを食べた。ひと口食べたら空いている手を頬に当て満面の笑みをした。


「おいひいのじゃ」


 俺は『オマエは、どこぞのガキ大将ですか!』と指をさしてツッコミたかったがヤメた。


 クッキーを美味しそうに食べているので声をかけるのを躊躇した。


「リン?」


 俺が抱きしめていた手を外して、リンは立ち上がった。


「ケモミミ幼女がいる。狐のケモミミがいる。モフモフしたい。モフモフしたいぞ」


 リンはそう言って幼女の方へ移動した。机を回り込んで幼女の横にたどり着くと、女の子座りをして幼女を引き寄せ抱きしめた。


「なっ、なんなのじゃ⁉︎」


 クッキーを食べた幼女は、鼻歌を歌いながら、二個目のクッキーを木製の皿から取り出そうとしていた。


 クッキーだけを見ていたらしく、リンに抱きしめられ驚いていた。


「ああ、夢にまで見たケモミミがいる。幸せだ。片手なのが残念で仕方がない」


 リンは笑顔で自分の頬を、幼女のケモミミにスリスリしている。


「やっ、やめぬか。 われはクッキーを食べたいのじゃ」


 リンはモフモフをやめる気配がない。ニヤニヤしている。


 さて、とめるべきか、放置するか、どうしようかな……


 俺はリンの変貌ぶりに驚きながらも、かわいいと思った。


「そこのお主! こやつをとめてくれぬか。われはクッキーが食べたいのじゃ」


 幼女はリンから離れようと、バタバタともがいているが抜け出せず、俺に助けを求めてきた。


「えー。どうしようかなぁ。不法侵入の泥棒さんだしなぁ」


 俺は頭をポリポリかきながら、幼女に答えた。


「くっ、なら交換条件じゃ。われを助け解放してくれたら、こやつの体を元に戻してあげるのじゃ」


 リンの体を元に戻す……俺は幼女の言葉に自分の耳を疑った。リンはモフモフに夢中で幼女の声が届いていないようだ。


「ちょっと待て。リンの体を元に戻すってのは、顔の傷や失明、無くなった腕を治すことなのか?」


「そっ、そうじゃ。お主もこやつもソレを望んでいるのじゃろう」


 俺はリンの言葉を思い出す。リンの体を治すことができる人物は一人しかいない。


「あなたはもしかして古代神こだいしん様ですか?」


 俺は恐る恐る幼女に質問した。


「そうじゃ、われは古代神じゃ。この姿を見たら、一目瞭然で分かるじゃろ」


 リンのモフモフ攻撃から逃れようと、幼女はもがきながらも答えてくれた。


 リンは俺たちの声がまったく聞こえていないようだ。


「分かりません!」


 一目瞭然って、分かるわけがないでしょ。でもリンの体が元に戻るなら、俺は……どんな手を使っても幼女を、古代神様を救出する。


 俺は心の中で幼女救出の誓いを立てた。とりあえずリンの後ろに回り込む。そして片膝をついて座った。


「リンさーん。幼女を離そうよ」


 俺はリンの耳元で声をかけた。だが、リンには聞こえていないようだ。


「モフモフモフモフモフモフ。幸せだぁぁ」


 リンはうわごとのようにモフモフと言っている。リンの横顔を見たがニヤニヤしている。


 ふむ。リンは壊れたみたいだ。ケモミミ恐るべし。コレは説得は無理だな。


 なら強硬手段しかないな。モフモフしているなら、俺はモミモミだな。


 俺はリンを正気に戻すために、リンにモフモフではなく、モミモミをしようと考えた。


 そしてリンの体に両手で触る。


「モミモミ、モミモミ」


 俺はリンにモミモミを開始した。もちろん下心はあるが、今は封印している。


「——はう! くすぐったい。あうっ!」


 壊れたリンが正気に戻っていく。俺は真顔でさらにモミモミを続ける。声を出しての効果音付きだ。


「モミモミ、モミモミ」


「こっ、こら。ヤメろ! くすぐったいぞ」


 リンの抱きしめが緩んだらしく、幼女はリンから離れた。幼女はフワッと浮き上がり、リンの頭を通り過ぎて、俺の方へ飛んできた。そして俺の背中に抱きついてきた。


「ふー、ふー。助かったのじゃ」


 俺はリンにモミモミをしていたのをやめた。リンは悶えていたが落ち着いたらしく、俺の方を体ごと振り向いた。顔が赤く少しエロく見えた。


「拓海、いきなり肩をもむのはヤメろ。私は肩をもまれるのは苦手だ」


「でも、気持ちよかっただろ?」


 リンは潤んだ瞳で俺を見ている。気のせいかリンはうれしそうにしている。


 さて、リンも正気に戻ったことだし、これからリンの体を元に戻して貰うとしよう。


 本当はリンのおっぱいをモミモミしたかった。だけどリンに殺されそうな気がしたので、肩もみに切り替えたのは秘密だ——















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