第47話 リンはキスをしたい

「リン、これからどうする?」


 俺はリンに聞きたいことがあるが、リンには予定があるかも知れないので、聞いてみた。


「その……だな。やりたいことがある」


 リンは俺と目を合わせない。テーブルに置いているクッキーが入っている木製の皿を見ている。


「やりたいこと? なにをしたいんだ」


 リンはすぐ隣にいる俺を見た。


「拓海とキスをしたい」


「——キス⁉︎ キスって口と口が触れ合うアレのことか⁉︎」


「……そのキスだ」


 はっ? えっ? マジですか⁉︎ うぇ! ほぇ!


 俺は錯乱した。心臓の鼓動が早くなる。頭がクラクラする。


 リンは俺を見つめていた。左の刀傷と、左目には眼帯をしているがリンは美しい。そのリンが俺とキスをしたいと言った。


 高校二年生の十六歳、思春期真っ最中の俺には、夢のような状況だ。ルナやソラとキスはした。ソラは男の子だけど不快な気持ちは無かった。


 ルナとそらはかわいい。ルナのことは好きだ。そしてソラのことも好きだ。


 もう認めるしかない。ソラは男の子だけど、俺のこの気持ちは恋愛の好きだ。


 リンのことはまだ好きかは分からない。いや、すでに好きなのかもしれない。キスをしたいと言われてすごく嬉しい。


「……キスをして拓海が我慢できないなら、その先も……しても……いい……」


「——ほぇ⁉︎ その先って、あっ、アレだよね⁉︎ リンの体は神の人義だよね。できるの⁉︎」


「神の人義は、私の体を忠実に再現するから……分かるよな? 人ではない我々も子供は作ることはできる。……ただ、神の人義は着ぐるみのような物なので、子供はできない」


「えっと、神の人義で……その……終わったら、リンが向こうに戻ったら子供を授かるとかはないのか?」


「それもない。つまり……アレも要らない……そういうことだ」


 リンの顔が赤い。多分俺の顔も赤くなっているのだろう。俺とリンは目を逸らさずに見つめ合っている。


「リンはキスやその先の経験はあるの?」


「……ない。キスもその先も……拓海はキスはルナとあるな……」


 俺はルナの名前を聞いて、なぜか罪悪感が出た。ルナは彼女でもないし、嫁でもないのに。


 だけど性的欲求が罪悪感をかき消してしまう。俺は思春期の男の子だからと自分に言い訳をした。


「キスはルナで経験済みだか……その先の経験はない」


「フフ、その先はないか……なら私が拓海の初めてを貰うとしよう。そうなると、私の初めても拓海になるな。神の人義でも五感はあるから優しく頼む」


 リンはヤル気満々みたいだ。グイグイくる。


 魔王は好きな人物ができると、エロいことには積極的になるのか? ルナより積極的な気がする。


 リンがここまで言うのなら、キスの先もしても良いってことだよな?


 俺はリンと見つめ合いながら考えた。もちろん最後までする。それをどこでするかだ。


 今いるソファーか俺の部屋の二択に絞る。


 俺の部屋が良いと思うが、部屋への移動中に、リンの気持ちが変わるかもしれない。


 そうなると今いるソファーか……次は……カーテンを閉める。外から丸見えだ。おっとその前に、蛍光灯で部屋を明るくしないとな。


 カーテンを閉めて部屋が暗いと、リンの体を見ることができない。


 神の人義で着ぐるみのような物とリンは言ったけど……着ぐるみと思えない。


 もちろん俺はアレは持っていない。でもなくても大丈夫。最高だよ! 神の人義!


「リン、カーテンを閉めてもいいか?」


「……そうだな……外から見えてしまうな……」


 俺は素早く行動した。蛍光灯のリモコンスイッチを押して部屋を明るくした。


 そしてリビングのカーテンを全て閉めた。


 おそらく俺の人生で、一番無駄のない動きだった。エロパワー恐るべし。


 そしてソファーに座っているリンのそばに戻った。


「……拓海……ソレ……」


「あっ……」


 リンの顔の高さに、俺の自己主張したアレがある。俺はジャージなので、リンに気づかれた。


 俺は手で隠しながら、リンの横に座った。


「ごっ、ゴメン」


「別に構わない。私でそうなったのは嬉しい。私の醜くなった顔と、この腕を見ても拓海は私に欲情してくれるのだな」


 俺はリンの顔を見る。リンも俺の顔を見ている。


「リンは醜くないよ。美少女だよ。二百四歳に美少女って言うのは違うかな?」


 俺はそっとリンの左頬を、右の手のひらで触る。


「二百四歳でも美少女と言われるのは嬉しい。それに、見た目は拓海と同じ歳くらいにみえるだろう?」


「そうだな。同じ歳くらいにみえるな」


 そして俺とリンはゆっくりと顔を近づけた。唇が触れようとした時、机に置いているスマホのバイブが作動した。


「電話かな?」


 俺はリンと離れずに話しかけた。唇と唇が近い。少し顔を近づけるとキスができる。


「んっ……」


 リンは俺の言葉を無視して唇を重ねてきた。そのキスはルナやソラとは違う、大人のキスだった。


 俺とリンの大人のキスは、長く続いた。三分? 五分? そのくらいの時間はしている。


 スマホのバイブはだいぶ前に止まっている。


 キスをしているとカサカサと音がする。それは突然だった。俺はクッキーを漁っている音とすぐに分かった。


 俺はリンとのキスをやめて、テーブルに置いているクッキーが入っている木製の皿の方を見た。


 俺は驚いた。そこにはクッキーの入っている袋を手に持ちテーブルの向こうに立っているかわいい幼女がいた。












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