第46話 リンは第二夫人

「あの……その……この傷はだな……」


 リンは恥ずかしいのかモジモジしている。


 うーむ。リンはなぜモジモジしているんだ? かわいいと言われるのに慣れていないのか?


「リン、からかってごめん。リンが元気になるといいなと思ってやったことなんだ」


「……分かっている。だから怒ってもいない」


 リンは深呼吸をした。


「私の傷のことだったな。本来ならこの程度の傷は一日で自然に治る。緊急の時は神だけが使える“治癒ちゆ”で回復できる」


「それって失明が治ったり、なくなった腕が元に戻るってこと?」


「そうだ」


「なら、どうして治せないんだ?」


「それはな、相手が使っていた武器が“消滅の刀”だったからだ」


 消滅の刀? なんだそれ? たぶん性能は名前そのままなんだろうな。


「消滅の刀はな、切った部分を再生不可能にする。付与効果が自然治癒の無効と、神々の奇跡の無効だ」


「じゃあ、二度とリンの傷は治らないってことか」


「いや、治す方法はある。だが、その方法は不可能だ」


「不可能? 治す方法って何?」


 俺が聞くとリンは下を向いた。しばらくして顔を上げた。


「……古代神様に治してもらう……だが古代神様には誰も会ったことはない」


「誰も会ったことがないなら不可能だな……なら英雄王には治癒系はないのか?」


「英雄王にも“英雄王の奇跡”や“英雄王の加護”があるとは聞いているが、治癒系があるかは分からない」


「そうか……」


「それに英雄王の奇跡が、神々の奇跡に含まれるのか別なのかも分からない」


「でも可能性はゼロではないよな? 俺が英雄王になって、治癒系があったらリンの傷が治るか試すからな」


「そうだな。その時はお願いするとしよう」


 古代神様に会うのは不可能っぽいが、英雄王の奇跡にはリンの傷や目や腕を治せる可能性がある。俺は絶対に英雄王になる。


「なぁ、リン。前の英雄王は、いついなくなったんだ?」


「私が四歳の頃だな」


「それは何年前だ?」


「じゅ、十三年前だ」


 うむむっ。ここでもリンは誤魔化しているな。本当に十七歳かもしれないけど、俺の勘が違うと言っている。


「リン、本当のことを教えてくれないか? リンは何歳なんだ?」


「私の年齢を知ったら、おまえは私への接し方が変わると思う。だから教えない」


 別に変わっても良いと思うけど、リンは嫌なのか? ふむ、リンの気持ちがよく分からない。


「それは大丈夫だと思う。リンは魔王だろ? 人の常識で考えるのは違うだろ?」


「なら……私の年齢を聞いても、拓海は私をお嫁さんにもらってくれるか?」


「へっ? お嫁さん? 俺は冗談だと思っていたぞ」


「わっ、私は本気で言ったんだぞ」


 リンはそう言ってから俺のことをチラチラ見だした。


「私は……おまえに……一目惚れをした。好きになった。だから拓海のお嫁さんになりたい」


「俺に一目惚れ⁉︎ リンが俺に? マジですか!」


「ウソではない。本当だ」


 リンからの突然の告白だった。俺は予想外過ぎて頭が真っ白になった。


「拓海を初めて見たときに、体に電気が走ったような感覚になった。ビビッときた」


「そうですか……」


「もっ、もちろん、ルナが優先だ。私は第二夫人で良い。人間界の時はルナと夫婦で構わない。私は拓海が天界や魔界に行くまで待っている」


 第二夫人って……それにルナをお嫁さんにするとも決まっていないし、天界や魔界に行くのは死んでからだろ? 何十年先だよ。


 英雄王になったら行けるかもだけど、それは分からないしな。


 でも、リンの体のことを考えると断れないな。これは同情になるのか? リンはそれで嬉しいのか?


 そもそも、どうして一目惚れしたんだ? 俺はまったくモテない訳ではないけど、ルナやリンが俺を好きになるのは、何かがおかしい。変だ。


 ルナやリンのような美少女が、俺を好きになるチートな能力は俺にはない。小説のファンタジー世界じゃないんだからな……ん? あれ? ファンタジー?


 そういえばルナは女神だよな? リンは魔王、俺は次期英雄王……


 ゲフッ! ファンタジーじゃないか! バリバリのファンタジーだった!


 俺は同じ学校の一年生に告白されたことはある。普通の女の子だった。モテたのはそれだけだ。


 美少女が俺をからかうとか、グイグイ来るとか、イチャついてくるとか、幼馴染が美少女でなぜか俺に惚れているとか、双子の美少女が迫ってくるとか、そんな奇想天外なことは生まれてから全くなかった!


 もしかして、英雄王や、次期英雄王は、人以外の種族にはモテモテになるのか?


 きっとそれだ! ルナやリンのような美少女が、俺のことを好きになるとかありえない。


 嬉しすぎるチート能力! ありがとうございます!


「えっと、リン」


「はい」


「リンの気持ちは嬉しい。でも、俺はリンと会って——」


 俺は机に置いていたスマホで時刻を見た。午前九時五分だった。


「まだ一時間も経っていない。俺はリンのこと好きという感情はない」


「それは私をお嫁さんにはしない、と言うことなのか?」


 俺はリンと見つめ合っている。リンの目に涙が溜まっていくのか分かる。


「いや、俺はリンをお嫁さんにしたい。だけど今は同情でお嫁さんにしたいと思っている」


 俺は自分の気持ちを正直に話した。


「今はそれでも構わない。それに拓海は私のことを絶対に好きになる。私のことを好きにさせてみせる」


「凄い自信だな」


「当たり前だ。私は魔王だ。覚悟しておけ」


「いや、魔王は関係ないと思うが。それに覚悟って言葉、使い方を間違っていないか?」


「フフ。そうかもな。では私は、拓海の第二夫人で決まりだな」


「そうだな。まだ先のことだけどな」


 リンは俺にほほ笑んだ。初めて会った時の無表情のリンとはすでに別人だった。


「で、リンは何歳なんだ?」


「言わないとダメか?」


「知りたい」


 リンは少し悩んでるようだったが、すぐに俺の目を真っ直ぐに見てきた。


「私は二百四歳だ」


「えっと……十六歳のルナも?」


「ルナも私と同じ歳だ」


「思っていたよりは若いな」


 俺はもっと年齢が上と思っていた。


「フフ。そうか私は若いか。拓海は私を幾つだと思っていたんだ?」


「九百歳は超えていると思った」


「——しっ、失礼な! 私やルナは見た目通りの若さなんだぞ」


「そうだな。リンは美人だし、ルナはかわいい。二人とも美少女だよ」


「くっ、美人と言われるのは嬉しいが、恥ずかしいぞ」


 ふむ、リンは攻められるのが苦手か? かわいいな。


 リンはクッションを抱きしめてニコニコしている。


 それにしても、神の人義は凄いな。元の体を忠実に再現できるとはな。リンの傷も忠実に再現されているっぽいな。


 それにルナには時間停止の部屋で会ったが、翼以外は忠実に再現されていたしな。


 おっぱいも大きかったし柔らかったな。最高だった。リンのおっぱいは小ぶりだけど、形は良さそうだな。


「リン」


「なっ、なんだ?」


「神の人義は良くできているよな? 見た目を忠実に再現しているよな?」


「そうだな。自動で忠実に再現する。まぁ、着ぐるみみたいな物だな。感覚はむこうにいる時と同じだがな」


 なるほど着ぐるみね。感覚は同じなら、俺たち人と同じように見えたり感じたりするのかな? おそらくそんなところだろうな。


「ただな、性別だけは手動で設定しないといけない」


「性別?」


「そうだ。神の人義に入る時に、それだけは設定しないといけない。同じ性別もできるし、男が女に、女が男にもなれる」


「リンはむこうでも女の子だよな?」


「もちろんだ。私は女だ」


 よかった。リンは女の子。性別を変えられるのは楽しそうだな。でもムキムキマッチョの男性が、女になってもムキムキマッチョなんだろうな。



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