第16話 ルナちゃんリンちゃんは強かった

「それから私ね、怒りが収まらなかったから、リーダーの子達の後ろにいた、残りの相手の子達に全力で走って近づいたの」


 マジかよ……ルナちゃんこえーよ。絶対ルナをキレさせないように気をつけよう。


「そしたらね、みんな散り散りになってキャーキャー言いながら逃げ出したの。私は追いかけ回して一人ずつ殴って気絶させていったの」


「もしかして一発で気絶?」


「そうだよー」


 ……ワンパンで気絶かよ。


「逃げ回っていた相手は教室の外にも逃げて行ったんだよな?」


 ルナは頭を左右にふった。


「鍵は内側から掛かって外に出られなかったの。リーダーの子が私達が逃げ出さないように、鍵を掛けていたの。それが仇になったのね。自業自得よね」


「う、うん。そうだな。自業自得だな。その時リンちゃんは何していたんだ?」


「リンちゃん? 腕を組んで動かず見ていたよ」


 リンちゃんルナを止めて!


「せっ、先生は止めなかったの?」


 流石にこの状況なら先生も止めるだろう。


「審判の先生? 座り込んで、『私には無理、私には止められない』って泣きながら言っていたよ」


 先生、無理でも頑張って止めてくれ! ルナは一体どんな表情だったんだ? 鬼の形相か! それとも咆哮しながら追いかけ回していたのか! 相手の子達が悪いとはいえ可哀相すぎる!


「そっ、そうだ。他の先生は? 何をしていたんだ! 止めに来なかったのか?」


 他の先生方お願いだ、ルナの暴走を止めてくれ!


 ルナは右の人差し指を下唇に軽く当て答えた。


「んー、他の先生達は教室の窓越しから見ていたよ。他のクラスの子達も沢山見ていたの。でも先生達は止めに来なかったよ」


「何故止めに来なかった?」


「えっと、後から聞いた話だけど体育の先生が、『拳を交える事で真の友情が芽生えるから見守りましょう』って言ったらしいの」


「その体育の先生の種族は何? もしかして……」


「魔人族だよ」


 やっぱりか! 魔人は熱血な性格と聞いていたけど、この体育の先生はバガだろ!


 この状況は拳を交えていないぞ! 一方的な蹂躙じゅうりんだぞ! この先生は脳みそ筋肉で出来ている脳筋なのかっ? バカすぎだろ!


 ……泣きながら逃げ回る園児達、それを追いかける暴走ルナ。そして、腕を組んで観察しているリンちゃんと座って泣いている先生。


 ヤバイ。ヤバイすぎる! 俺は平和な日本に生まれた男の子だ! 平和が一番だ!


「それで私ね、沢山殴ったら落ち着いたの」


 ……それだけ暴れたら落ち着くだろ。


「でね、リンちゃんを見たら、教室の隅で泣いている子達の前に立っていたの。泣いていた子達はリンちゃんに『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ』って謝っていたの」


 そうだよな。謝るよな。怖いもんな。一生トラウマになるよな

 

「リンちゃんは謝った園児をどうした? 許したのか?」


 リンちゃんは性格良くて優しいってルナが言っていたから流石に許したのだろうな。


「許してないよ。リンちゃん『謝るならルナを虐めるな。謝って許されると思うなよ。何故私が決闘ルールに、降参無しと入れたか分かるか? 貴様達を完全に叩き潰す為だ』って言ったの」


 リンちゃんカッケーけど怖いよ! 敵にしたくない。


「それを言われた子達は、泣きながらリンちゃんに向かって行ったの」


 ルナを虐められてリンちゃん相当怒っていたんだな。リンちゃんは優しいけど優しくないぞ!


「相手は何人残っていたんだ?」


「残っていたのは五人だよ。でもリンちゃん一瞬で倒しちゃったの。私も目で追うのがやっとだったの」


 リンちゃんつえー。さすが魔王!


「リンちゃんが五人倒して私達の完全勝利で決闘は終わったの」


 そう言ったルナの顔は勝ち誇った様に見えた。


「ルナとリンちゃんは何故そんなに強いんだ?」


「私達いつも二人で遊んでいたけど、強くなったのは決闘ごっこしていたからかな?」


「決闘ごっこ⁉︎」


「うん。リンちゃん凄く強くて私は一度も勝てなかったよ」


「なるほどね」


 いやいや、園児なら砂場で遊ぼうよ。女の子二人で決闘ごっこって……俺とは住む世界が違いすぎだぞルナちゃん。平和な日本に帰りたいぞ!


 だから同世代に友達がいないのか。この決闘で皆ルナとリンちゃんを怖がって近づかないのか。


 ……今はっきりと分かった。ルナは俺とは住む世界が違う。女神だしな。俺は思春期真っ盛りの普通の男の子。


 ルナを本能が最大音量で警報を鳴らしているが何故だろう?


 理由は分かる。分かるが考えたくないぞ。俺の本能よ。


 でも俺はルナの事は全く恐くはない。むしろ好きになっていると思う。


 だが俺はおとなしい子が好きだ。胸の大きな女の子は好きだが、小さい胸を気にしている女の子はもっと好きだ。


 俺は目が覚めた。この異常な空間と異常な状況。 そして目の前に現れた胸の大きな美少女の女神。


 これは男ならルナの事を好きになるはずだ。きっとそうだ! 間違いない。絶対に好きになる。


 ルナはアイドルをテレビ画面越しに見るのと同じ存在なのだ。高嶺の花だ。遠くから見るだけの手の届かない存在なのだ


 ルナはそういう存在。という事にして平和な日本に帰ろう。


「結構長くなったな。ありがとうルナ。俺、生き返るよ」


「うん……」


 ルナの返事を聞いて俺は立ち上がった。


 ……ん? なにかルナの様子が変だ。俺と目が合うと目をらして下を向いたり、体を落ち着きなく動かしたり


 何となく顔も赤い気がする。これはもしかしてアレか? アレなのか?


 そうだよな。この空間で二人で沢山話をしたからな。かなりの時間を過ごしたからな。仕方ないよな。さてどうするか……



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