第9話 拓海君はカッコいい?

「あのさ、俺がはねられる前にその神世界守護機関の地域を守っている天使が防げなかったの?」


「うーん、それは無理だったと思うの」


「無理だった? どうして?」


「神世界守護機関の天使が守っている地域ってけっこう広いの。日本では都道府県に一人配備ね」


「広いね。それって何かあった時、間に合うの? 俺の時も間に合わなかったぽいし」


 ルナは首をかしげて一瞬悩み、俺の質問を理解したようだ。


「あっ、ゴメンね。地域に一人配備って、常時その地域にいる天使なの」


交番とか派出所みたいなものか?


「今回の拓海君みたいな時は事前に情報が入って天界に居る天使や魔人達が来るの。情報収集も別の部が常にやっているの」


天使や魔人ね。女神がいるから居ても不思議ではないな。


「それに、日本の警察の偉い人の中には神や魔王がいて、情報などを共有しているの。刑事や警官にも私達側の人達が沢山いるわよ」


「へぇ……情報収集ってどうして?」


「人間界って常に進化しているから。他の職業にも私達は居て情報を集めているの。そのほうがなにかと便利なの」


「なるほどね。神とか魔王ってどんな存在? 偉いの?」


「神と魔王は私達の中では最強種だけど偉いとかはちょっと違うかな?だって種族だもん」


「神とかって種族だったの?」


「そう、神、魔王、女神、魔人、天使、人。六の種族があって、男と女の性別もあるんだよ」


 六の種族……考えてみると確かに種族だよな。性別は人にもあるから当然他の種族にもあるよな。


かみ族は男、魔王族は男女、女神族は女、魔人は男女、天使も男女ね。人族も男女でしょ? 後ろに付く族は人によって付けたり付けなかったりしているけどね」


 ルナは口元を右手で触った。真剣に悩んでるようだが、俺はその顔に見惚れてしまう。


「あとね、拓海が狙われたのは不可解なのよ」


「不可解?」


「そう、一般人で何処にでも居そうな平凡な男の子が狙われるのはおかしいのよ」


 ルナに自分の事を言われて、遠い目をした。


「……アハハ。ソウダネー。俺は何処にでも居そうな平凡な男の子だねー。アッハハー」


「——たっ、拓海君は凄くカッコいいと思うよ!」


 俺は自分の胸の前で両手の指を絡めて、目の前のルナを見つめた。


「女神様にカッコいいって言われて、俺は幸せだなー。光栄だなー」


 俺は感情なく棒読みで言った。


「拓海君は本当にカッコよくて素敵だと思うんだけどな……」


「ん? ルナ、何か言った?」


「なっ、何も言ってないよ」


 ルナは何故か目をそらした。カッコいいとか素敵と聞こえたがお世辞だろう。


「——で、何が不可解なんだ?」


「まず、過去の事例でだけど、狙われるのは国や企業の偉い人だけで一般人が狙われた事はないの」


「今まで一度もないの?」


「私の知る限りでは無いよ。それに狙われる事は、私達が事前に情報を掴んで未然に防いでいるけど……人間界でいうテロ行為になるわね」


 テロ行為は怖いな。


「だから、そういう偉い人達は私達も注意はしていて、万が一の時の為に色々と準備しているの。拓海君はその対象外で何も準備していなかったから大変だったの」


「それはご苦労様です」


 拓海は座ったまま敬礼をした。それを見てルナはちょぴり笑って、


「ふふっ、えっと……何を言うのか忘れちゃたじゃない」


「ゴメン」


 ルナは頬っぺたを膨らまして、両手を脇腹に当てた。


「えっと、人間界の人が居る星はね、治安には大きな差があるの。地球は国によってバラつきはあるけど、とても治安のいい星なの。特に日本の警察は優秀なのよね」


「ですね」


 「だから日本でテロ行為をするのはリスクが大きくてしないはずなのよ。バレないように人族にやらせても、その犯人が捕まったら調べられるでしょ?」


「確かに」


 「そしたら自分までたどり着かれて捕まる可能性だってあるし、そもそも日本にはそういった悪い事を引き受ける人達はほとんどいないの」


日本は俺の思っている通りに平和みたいだ。


「自分自身が直接やると私達が分かるから直接は絶対にしないはずなんだけど……私が日本担当になってからも一度も無かったのよね」


「確かに日本ではリスクは大きそうだよなぁ。しかも一般人の俺を狙っても何も得な事ないだろ?」


「そうなんだよね。拓海君を何故狙ったのか分からないんだよ。それに拓海君を狙っている事も全く情報が無かったのよ」


「情報が無かった?」


「そうなの。それも不可解なの。普通は何かしら情報は出てくるはずなのに、全く無かったの。だから防げなかったの。ゴメンね、拓海君」


 ルナは悲しそうな顔をした。


 ルナが悲しそうな顔をしている……ルナは悪くないのに、ここははげましてやるか。


 俺はルナを見つめた。背中の翼が無ければ、かわいい同じ年頃の女の子にしか見えない。


「ルナ達は全然悪くないぞ。いつも頑張ってるみたいだからな。悪いのは俺を殺した犯人だろ? だから謝る必要なんて無いんだよ」


「拓海君は優しいね」


 ルナはにっこり笑った。


「それに、死んだら女神に会えた。これは犯人に感謝だな。感謝ってのもおかしいけどさ」


「えっ? えっ? わ、私に会えたのが嬉しい⁉︎」


「女神に会えて嬉しいです!」


 女神って空想上の人物だからなー。会えた事自体凄いんだよなー。天使にも会ってみたいな。


 そう考えていたら何故か目の前でルナが挙動不審になっていた。


「そういえば、ルナは日本担当って言っていたけどルナも神世界守護機関所属?」


俺はルナに聞いてみた。


「えっ! えっとね、違うよ。私は人間界管理機関所属でその中にある監視部の日本担当だよ」


 ルナはそう答えた。何故か顔を赤くしながら……







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る