第8話 拓海君は女神と天使はどちらが好み?

「さっきから俺の死が特別って言っているけど、どうして? 交通事故死って特別?」


 ルナは頭を左右に振った。


「交通事故死は通常の死なの。老衰、病死、人族同士で起こる事も私の言っている特別ではないの」


「じゃあ、俺のは何なの? 交通事故死でしょ? 何が特別なんだ?」


 俺はルナの言っている意味が理解出来なかった。


「えっとね、拓海君の交通事故を起こした人物が人族では無くて私達側の誰かが起こしたの。拓海君はひき逃げされたの。たぶん狙われたのよ」


「——えっ⁉︎ それって俺は殺されたって事?」


 俺は背中がゾクっとした。


「そうなの。それと拓海君、靴ひもがほどけていたでしょ?」


「うん、しかも両方。靴ひもを結びなおしていたら、軽自動車が俺に突っ込んで来てぶっかって飛ばされた」


「靴ひもをほどいたのはおそらく犯人よ」


「はっ? どうやって? ——まさか魔法?」


 ルナは魔法と聞いて少し笑った。


「魔法……拓海君ってそういうの本当に好きなのね」


「男のロマンですから」


「残念だけど魔法ではないの。神々の奇跡という力を使ったはずよ」


「神々の奇跡?」


「そう、私達が使える特別な力。たぶん拓海君が思っている魔法みたいなもの。でも魔力とかMPとかは無いから。基本的に使用回数制限なしの使い放題だから」


「使用回数制限なしはすごいな」


「でね、犯人は神々の奇跡を使って靴ひもをほどき、車で拓海君を襲ったと思う。姿も神々の奇跡で変えているはずだから、車は見つかっても犯人は見つからないと思うの」


「じゃあ、生き返ってもまた襲われるかもしれないって事?」


 そう言って俺は腕を組み、恐怖で体を一瞬震わせた。


「たぶん……ね。でも大丈夫。私の上司が今回の件は調べるって言ってたから。拓海君にも護衛が付くはずよ」


「護衛?」


「うん。天界に神世界守護機関というのがあって、そこから護衛が派遣されると思うの。拓海君との接触は無いから気づかないと思うけどね。日本にある警察みたいなものだよ」


「それは心強いな」


「拓海君は人族からではなく、こちら側の誰かの犯行だから生き返れるの。護衛も付くはずだから安心して生き返れるよ」


「護衛って誰がするの?」


「神世界守護機関の天使だよ。普段は人間界に行って人族がいる地域を分担して守っているの」


「——てっ、天使⁉︎」


 天使と聞いて俺は驚き少し興奮していた。


「神世界守護機関に所属する人達のほとんどが天使なんだけど……拓海君、あなたの目の前に私がいるのに、どうして天使って言葉だけで嬉しそうに驚くの?」


 ルナはちょぴり不機嫌な顔になった。


 んっ? ルナがなぜか不機嫌になってるぞ? 目の前に私が居る? ルナが座っているだけですけど?


 ——あっ、普通に話をしていたからルナが女神って忘れてた! そうだよな、女神が存在するなら天使だって存在するよな!


「ほっ、ほら、天使って人間に人気あるしさっ、俺も人間だからちょっと天使に興味あったんだよ。もっ、もちろん女神も人気があるぞ!」


 うーん。ルナは天使と仲がわるいのか? そして俺は大事な事を忘れていた。そう、ルナが俺の命を握っているという事を!


 ルナと話をして、俺を消滅させるような女神では無い事はなんとなく分かった。


 ——だがっ! 万が一という事も有り得る。ルナの機嫌を悪くする事はしないように気をつけよう。


 背中に冷や汗が流れた……のは気のせいだった。


「ルナは天使と仲が悪いの?」


「別に仲は悪くないわ……じゃあ、拓海君の周りでは、女神と天使どちらが人気?」


「もちろん、女神が人気だ」


 俺は即答した。


「拓海君は女神と天使どちらが好み?」


 はっ? なんで俺に聞くんだ? だいたい天使なんて見た事ないぞ! 人間だと空想上の生き物だぞ 。


 ルナに会うまでは女神も空想上の生き物だったんだぞ。


 それにこの質問の答えは二択だけど強制的に一つしか選べないじゃないかぁぁ!


 俺は一回深呼吸をして、


「俺は天使よりも女神かなー」


「そっかぁ、拓海君は天使より女神の方が好みなんだぁ」


 ルナはちょぴり顔を赤くして嬉しそうにしていた。


 よし、なんとかルナの機嫌は直ったようだな。


「ところで、その神世界守護機関が人族が居る地域を守るって、交番みたいなもの?」


「ちょっと違う気もするけど、交番かな? 人族とは接触しないで陰ながら守っているの」


 それを聞いて俺は疑問を持ち、ルナに質問したい事が出来た。





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