第9話 密命

 悪趣味に豪華な部屋の隅に在る巨大なモニター・スクリーンに、WBCの報道特番が映し出され、レポーターがメタルボウルのスタジアムで起こった人権擁護局長襲撃事件の模様を伝えている。

 剣呑な眼でスクリーンを一瞥しながら、ロッザムは立体投影型TVフォンに向かって言った。

「失敗は有り得ないのではなかったか?我々にとって、ハインズは眼障り極まり無い奴だ。奴の提唱する市民保護法案が成立すれば、我々の市場は打撃を受ける。貴様等にとっても、奴の存在は障害となる筈だ。」

「判っている。失敗の原因は、予期せぬ闖入者が在った所為だ。ハインズ暗殺には別の人員を派遣する。・・今度は確実だ。邪魔に入った人物の件だが、ソージ・ミドリノと言う元メタルボウルのエース選手で、現在はフリージャーナリストとして公共報道機関のWBNが報道出来ない事件の類を好んで取材発表している。この人物の処遇はそちらに任せる。今後も関わってくるとなれば、厄介な存在だ。だが、殺すな。・・・利用価値の有る奴だ。」

「うむ。暗殺が成功する迄、身動きを取れなくしてやれば良いのだな。任せておけ。」

ペットの爬虫類に劣らぬ程の冷血さを感じさせる微笑を浮べて、ロッザムは言った。

「では、奴の件はそちらに一任する。ハインズはこちらに任せろ。」

TVフォンが切れた。ロッザムは、少しの間考え込むと、TVフォンをプライベート直通回線に繋いだ。

「私だ。御前に、任せたい仕事が有る。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る