ACT.19 異端の教団(Ⅴ)
『ライに花を持たせる為だ、一瞬で終わらせてやるよ!』
そう言って俺は、剣を両手で構えなおす。
「お前、何を言って――!?」
突然様子を変えた俺を見て、訝し気なことをつぶやいた青年は、こっちを見た瞬間、驚愕に目を見開く。
そして、眼球をがくがくと痙攣させ、叫ぶ。
「お、お前、お前ぇぇええええ!! 俺に何をしやがったぁぁぁあああああ!?」
剣をとりこぼし、こめかみを抑え、頭痛をこらえるような仕草で苦しみだす青年。
それを傍目で見ながら、俺はこう言った。
『さぁ?』
無論、そんなわけが無い。
俺はしっかりとその理由を知っている。
彼に何が起こったのか、そして俺が何をしたのか。
俺がしたのは、単純明快――ずばり、いつも通り異能を使って心を読んだだけである。
だが何故、これだけのことで青年は苦しみだしたのか。
理屈はこうだ。
彼が異能を用いて、俺が未来取りうる行動を導き出す。
それを見た彼が自分の動き方を考える。
その彼がどう動くのかを、読心で俺が読み取る。
するとどうなるか?
答えはこうだ――未来が変わる。
新しい未来を再度予測し直した所で、また瞬時に俺に読み取られて新しい予測が立てられる。
そう、この場合彼の能力は“未来予知”でなく“未来予測”ということが致命的であった。
予測とは、観測事象を演算し導き出されるモノ。
つまるところ、彼の能力は今を観測した上で、自前の脳機能を使って演算処理して未来を予測するというものに他ならない。
ゆえに、どうしても能力の使用には、脳に負荷がかかる。
結果だけ見れば、他の異能と同レベルで理不尽で、脳の機能に依存しているからこそコストパフォーマンスに秀でているという、とてもいい異能ではあったのだが、相手が悪かった。
向こうがわざわざ複雑な計算式を使って導き出した答えを、俺はあっという間に盗み見て、その解答結果を変更させる。
そうして、一瞬のうちに延々と、彼に再計算を強いるのだ。
律儀に演算して解を導く“未来予測”の青年と、その頑張って割り出した未来をなにも考えずに知る“読心”の俺。
この後だしジャンケン大会は、こと脳にかかる負荷という観点でみると、俺の方が全然ましだったのだ。
そして、彼の脳は負荷に耐えられなくなった。
「くそっ! なんだこれは!? 眩暈が、眩暈が酷い!?」
『そうか、じゃあ楽にしてやる』
そういって、俺は眩暈でまともに立ち上がれなくなった青年の首を一思いに刎ねた。
▽▲▽
『ふう、これで一仕事終わった感じがする』
俺はそんなことを言いつつ、転がったままだった盾を拾う。
『あとは、またライに交代し――』
瞬間、殺気。
『――!?』
盾を構えて、瞬時に殺気を感じた方に向き直る。
強烈な殺気を感じたのは、この部屋の入口だった。
そして、そこにはいつの間にか一人の男が――否、黒騎士が立っていた。
『し、師匠?』
そう、そこにいたのは、ライの師匠アスラン・アルデバランに他ならない。
しかし、そのアスランからは、異様な殺気が俺に向けられていた。
『――
アスランは、底冷えするかのような、酷く恐ろしい声色でつぶやく。
彼のこんな声は、聴いたことがなかった。
そしてその瞬間、俺の背筋が凍る。
まずい、これはまずい。
アスランは、何故か完全に“俺”がライでないことを見抜いていた。
『我が弟子、ライ・コーンウェルをどこへやった!!』
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