ACT.18 異端の教団(Ⅳ)

 ライは、その異能を考察する。

 まず、全ての攻撃を予測できるのなら、さっきの密着状態での膝蹴りも当たらないはずだ。

 ゆえにおそらく、予測できる範囲は視界のみ。

 更に、相手は“予知”じゃなく“予測”といった。

 確定された未来を見ているのではなく、未来の変動値を観測している能力だと予想できる。

 なら、これからライが起こしうる全ての可能性を同時に見ているのか。

 それは否だ、そんなことすれば、脳が処理しきれない。

 ゆえに、奴の異能には、明らかな限界点がある。


『――そこを、探らせてもらう!』


 そういってライは、剣を水平に構えて、踏み込みと同時に首筋を狙った刺突を放つ。


「そんなもの――!?」


 ライの刺突を防ごうと動いた青年の身体が、一瞬硬直し、即座に首筋じゃなく左肩をかばうように剣を移動させる。

 次の瞬間、ライの剣閃が一度下がり、左肩に再度照準を合わせて放たれた。

 青年はこれを当然のように防ぐが、その額には、汗がにじむ。


「てめぇ、まさか」


 そう、ライが今行ったのは、フェイント。

 一手先を確実に読まれ、最適解で反応される。

 ――それは、逆にこちらも行動の予測が付きやすいということに他ならない。

 ゆえに、フェイントを用いて、こちらも一手先を読んで攻撃を仕掛けただけ。

 だが、これは失敗した。ならば――。


『なら、もっと先の手を読み切るだけだ』


 一手先が駄目なら、二手先を。

 二手先が駄目なら、三手先を。

 そうやって相手の限界値を探り、思考を加速させ、そして凌駕する。

 並みの騎士には、そんなことできないだろう。

 だが、ライには可能だ。


 ――そうして、何合打ち合ったのだろう。

 10、20、いやもっとだ。

 激しい打ち合い、いやライの一方的な剣戟の嵐に、自然と青年は防戦一方になる。

 そして、ついに。


「いっ!」


 ライの剣が、青年の顔を掠め、仕切り直す為に大きく後ろに跳ぶ。

 そして、茫然としたように、頬の傷をなぞる。

 とうとう、ライの剣が青年の能力を凌駕したのだ。


『――10手先。これが、お前が読み切れる限界だ』


 ライは、かすかに息を切らし、そう断言する。

 その言葉を聞いた青年は、眼を見開いてライを見る。


「だからどうした!」


 そういって、今度は青年がライに切りかかる。

 その瞬間、ライは自身の盾を青年に向って投げつけた。


「!?」


 自然と青年の視線が、投げつけられた盾に向かう。

そしてライが、その盾を使って視線を誘導し、独特の歩法で青年の死角に回り込む。

その結果、青年が視線を戻した瞬間、ライの姿は突如消えたように映る。


『終わりだ』


 ライはそのまま死角から、青年の身体を袈裟斬りにした。



▽▲▽



 だが、その一瞬。

 青年は何かに足を取られてつまずいた。

 ――それは、ライが粛清した子供たちの亡骸。

 その結果、青年は転倒し、ライの剣は浅くしかはいらなかった。


「お前ら」


 そしてこの結果は、青年に欠けていた冷静さを与える。

 復讐の憎悪で頭に血が上っていた彼は、自身に降りかかった命の危機と、それを偶然にも救ってくれた今は亡き子供たちのことで、冷静さを――ライを倒すという鋼の意志を手に入れる。

 そうして再び構えなおした青年は、ライには別人のように見えた。


 この戦い、このまま行くと、ライが圧倒的に不利だ。

 それにそこで、久々に師匠にいいところを見せたいのだろうということを考えた“俺”は決断する。

 ん~、ならば仕方ない!


『選手交代だな』


 そういってライの肉体の主導権を無理やり奪って俺が表に出る。


『ライに花を持たせる為だ、一瞬で終わらせてやるよ!』



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る