ACT.17 異端の教団(Ⅲ)


▽▲▽



「み、みんな! 無時、か――」


 ちょうどライが粛清を終えたころ、ひとりの青年が、慌てた様子で子供部屋に入ってきた。

 赤い髪を逆立てた、目つきの悪い青年だ。

 その青年が、部屋に入り目に飛び込んできた光景は、斬り殺された6人の子供たちと、そこに佇む死神のような黒騎士の姿だった。


「――。」


 絶句する青年。

 その姿を見たライは、ある核心をする。


『お前も、転生者だな』


 もっとも、この場所に教団と無関係な人物はいない。

 つまり、この青年も関係者には違いなく、どのみち粛清対象ではあるのだが。


「――あぁ、そうか。教団の連中が言ってたイカれた騎士たちってアンタらのことか」


 青年は、怒りと悲しみに声をふるわせながら、腰に佩いた長剣を抜く。


「来いよ、イカれ騎士。アイツらの仇、取ってやる」


『――っ!』


 瞬間、ライは盾を持って突進する。

 天井の低い、この洞窟内での戦いで、無暗に剣を振りまわすのは得策じゃない。

 その為、初撃は予備動作が小さく、行動を気取られにくく、更には取り回しが簡単な盾での体当たりが最適解であるとライは判断した。


 しかし、相手は予想外の行動に出る。


 長剣の鍔の部分で、ピンポイントガードし、剣の腹をなぞるようにきれいに盾の軌道を逸らして勢いを逃がす。

 そして、無駄に振り回さず、剣の柄頭ですれ違いざまにライの顎を強打する。

 一瞬ぐらりと揺れた視界に、とっさにまずいと感じたライは、身を一気に低くし転がるようにして距離を取る。

 しかし、距離をとったはずの場所に、即時追撃の剣閃が走る。

 ライはその剣閃を紙一重で躱すが、追撃はやまない。

 青年はこの狭い室内で、取り回しのつらいはず長剣で、ライの常に一手先を潰すような攻撃を続ける。

そして、ライはあることに気が付く。

 この青年は、剣の熟練度もさることながら、先読みが異様に上手すぎる。

 とうとう壁際に追い詰められたライは、剣で攻撃を受け止める。

 鍔迫り合いに持ち込まれたライは、ぎりぎりと押され始める。

 ライは片手、青年は両手で剣を握ってやっているのだから、それは当然といえた。


「お前が今思っていることを当ててやろうか?」


『なに、を』


「何故、俺がお前の行動を先読みして潰せるか、だろ?」


 剣で押されながら、青年は手品の種を明かす。


「俺の異能は、未来予測! お前の手の内なんざ、全て見通せるんだよっ!!」


『――それ、なら!!』


 そういって、ライは密着状態から、青年の腹部を蹴り飛ばす。

 膝蹴りが偶然鳩尾に入った青年は、大きくたたらを踏んで後退る。

 その瞬間に、盾を構えなおし、ライは体制を再度整える。


『それならそれで、やりようはいくらでもある!』


 そも、此処にいるのは、3年前の少年ではない。

 三年間、自分と同等以上の力をもつ、異能とよばれる埒外の力を操る転生者たちと渡り合ってきた歴戦の騎士だ。

 どの相手も、能力は未知数で、突破口は狭く、勝てる見込みの確実な戦いなんてなかった。


 それでも、ライは、今ここに立っている。


 それはひとえに、“俺”の手助けなんかなくてもやっていけるほど、ライが強いということに他ならない。

 ここからが、粛清騎士ライの真骨頂。

 反撃の始まりである。


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